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プロローグ~そして俺は犯罪者へと堕ちる~

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――――これは本気でマズイ!



身体中から白い液を吹き出しながら、少年の胸中はそんな言葉に埋め尽くされていた。



呆然自失の意識の中、金髪の美妃の、自分の主の、この国の王女の悲痛な悲鳴が聞こえる。

隣国にまで届きそうな大きな声だ。



俺の目はその声の主を求め、眼下へと向けられた。



彼女はピンク色の大きなベッドにうつ伏せに横になり、カタカタと震えながら悲鳴を上げている。

身体中を精液のような白い『ゲル』で、汚し、無理矢理に強姦されたかのような様相だ。



―――いったい誰がこんなことを?



そんな風に一瞬本気で思ってしまうほど混乱していた。



この部屋には今、俺と王女しかいないのに。何より俺は王女の腰に跨がるように乗っているのに。



「リ、リリー王女」



俺がそう王女に語りかけようとしたところで、扉が乱雑に開き、外から大量の衛兵とメイドと(王女の)御兄弟がやって来た。



曲がりなりにも此処は王女殿下の個室である。その開け方は不味いんじゃないか、とか言える状況じゃない。



彼等は部屋の中の惨状を見て、瞬時に何があったのか誤解した。

目は血走らせ、憎悪と、敵意と、殺意と、剣と、銃と、槍を向けながら、罵声と怒声を響かせる。



「き、貴様ぁ!何をしているうううう!」

「そのお方が誰なのか分かっているのかああ!」

「だから俺は反対だったのだ!こんな素性の分からぬ男を護衛騎士などに!」

「ひ、姫様ぁ!なんとお痛わしい!おのれ!下賎なアンダーカーストがぁ!」



皆さん言葉の通じる人間の目ではなかった。

そして、分かってはいたが本当に信頼がない。



何のためらいもなく嘗ての部下が俺の首元に槍を突き付けてきた。

嘗ての同期が銃を向けてきた。

嘗ての戦友が剣を向けてきた。



俺を取り囲むように数十の槍と銃と剣先が向けられる。



俺一人だったら避けるのはわけない。あるいは王女を人質に取れば―――



しかし、自身をスラム街から救ってくれた恩人で、何より愛する女を危険にさらすことなど出来る筈もない。



―――それに元より『おまけの人生』だ。



俺は投げやり気味に自身を納得させ、抵抗の意思はないと両手を上げる。



すぐさま衛兵が俺を取り押さえ、縛り上げ、意識が飛ぶほど殴られたあと、地下牢へとぶちこまれた。

そのまま直ぐにこの話は国王の耳に入り、宮内を駆け巡り、諸外国にまで到達し、俺は歴史的犯罪者として、翌日正午の公開処刑が決定された。

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