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    予想外の時間を食ってしまったが、そろそろ脱獄しなければならない。
    適当な装備を女囚人に渡しながら、俺達は脱獄の概要を話し合い、それを、すぐさま行動へと移す。

    まず、上へと続く石造りの螺旋階段を登り、脱獄防止トラップや監視カメラの目を盗みながら、警備兵を悟られる前に絞め落としたり、監獄獣を戦闘不能にしたりして、監獄を脱出。
    
    そのまま中庭を隠れながら進み、噴水を横切り、薔薇園を抜け、城壁をよじ登って逃亡した。
    しかし、運悪くその場を衛兵に見つかってしまい、結局王女を盾に無理矢理強行突破を図った。


    結果的に言えば、俺達は無事王宮を脱出し、王都の寂れた宿屋に身を隠した。
    より正確に言うなら、検問を敷かれる前に関所を抜けようと思ったのだが、予想以上に相手の手際がよく、王都に閉じ込められてしまったので、これからどうするか?落ち着いて考えようと、人の寄り付きそうにない半スラム化した裏通りの、廃屋同然の宿屋に入ったのだ。



9:28  王都 スラム街 宿屋ボダン

    四畳半ほどの木造のボロい部屋だ。
    その中には、藁を敷き詰めただけの一人用の簡素なベッドが一つと、ギコギコと座りの悪い椅子が一つ。
    トイレ、洗面所、水道はオール無しで、水を飲むのにも金が掛かる仕様。
    その上、動く度に床が抜けそうな音を奏でるので、気が休まりそうにない。しかし、「人目を避ける」、この一点だけで言えば優秀な物件だと思れる。


    俺はボロ雑巾?で継ぎ接ぎされた窓から外の様子を眺めていた。
    衛兵達が騒がしく駆け回っており、殺伐とした雰囲気だ。
    ただ本道に比べれば衛兵も行き交う人々も疎らで、しかも、総じて卑屈さと不幸が染み付いた非協力的な目をしている。
    自分の原点を思い出させてくれるアウトローな雰囲気。
    目付きの悪さは俺と同じかそれ以上。
    良識ある人間なら近づくのすら躊躇われる陰鬱な空気。
    少なくとも、王女が此処にいるとは思う人間は少ないだろう。

    とは言え、金さえ積めば人殺しも探偵の真似事もするのが彼らの常識。油断は出来ないが……

「もうこっち向いて良いわよ?」
「終わったわ、優?」

    優が色々と考えていると後ろから声が掛けられた。

    実は着替えをするから外を見張ってろと言われていたのだ。
    その時は、すぐ終わるだろうと思い安請け合いしたのだが、とんでもなかった。
    ワッキャウフフと着ては脱ぎ捨て、脱いでは着てを繰返し、二十分~三十分。

    ちょっとトイレに行きたくなってきたなぁ。と、下半身のピンチを感じだした頃、丁度お声が掛かったのだ。助かった。

     女子の着替えと言うのはどうしてこう長いのかと、ブツブツと愚痴を溢しながら振り替える。
     そこには先程とは全く違う服を着て、悩殺ポーズを決めた二人の姿。

「―――着替えが終わったなら改めて今後の事を話し合おう。いや、その前にトイレに行かせてくれ。」
「どうかしら……て!は?え?ト、トイレェ!?」
「ああ、だから、話し合いは少し待ってくれ。」

    そう言って、階下へ降りようとしたのだが、後ろからガシッと腕を捕まれた。

「あらあらあらぁ?、この服に関する感想とかないのかしらぁ?」

「え―――?」

「そうよ!女の子の服を誉めるのは男の役割でしょ!トイレくらい我慢しなさい!も、漏らしても良いわよ!」

「よ、よくないよ!」

「むしろ義務って言っていいんじゃないかしらぁ?男だったら漏らしてでも女を誉めるくらいのガッツは欲しいわよねえ。」


    何を言ってるのか分からない。
    股間をガン見してくる二人に恐怖と焦りを覚える。
    「へ、変態ぃいいいい!」と叫びそうになったが、叫ぶと下の蛇口が緩みそうでそれも怖い。
    これは手早く評価した方が無難そうだと優は瞬時に判断し、改めて二人の服装を見た。

「――――――」

    まずはリリー第二王女から………。

    彼女はベッドに上にうつ伏せに寝そべっていた。

    その体勢のまま、棒アイス?を大切そうに両手で支えながら、側部を丁寧に舐め取っている。時折、キスをするように咥えながら、「おいひー」と呟いている。
    赤面しながら、実に幸せそうな笑顔で。

    まるで異世界版バナナプレイを見せつけるような格好だが、服装は“異世界“とは大きく違う。白い縞柄ビキニの上から紺色のミニスカートや丈の短いジャケットを羽織っている。パット見、レースクイーンの衣装をモデルとしたものだろう。


「どうかしら、優?」
「とても似合っております。贅沢を言うなら、もう少し目立たない格好を選んでくれればと思います。」

    とは言ったが、結局は無骨なローブに隠されるのだから、問題は無い。
    男の子的な視線で見ればむしろグッジョッブである。
    露出した背中の扇情的なラインが特にいい。俺は内心ガッツポーズだ。

    しかし、邪な考えが顔に出ていたのか?、ムスリと表情を曇らせたお嬢様は、アイスを八つ当たり気味に咥えて、ごろんと仰向けになった。

    うつ伏せから仰向けに、なめらかな腹部を露にしながら彼女は溜め息を吐く。

「別に期待なんかしてなかったけど……。ボッチの優にイケメン的回答なんて無理って分かってるし……」

    そんなブサメンだったのだろうか?
    心外な評価に思わずムッとなる。と言うか、さらっとボッチてディスられた。

    しかし、事実だけに言い返すこともできず、そもそも早くトイレに行きたくて、優は、もう一人の女に視線を移した。

「エレナ……だったけか?」
「ええ、そうよ?」

    答えたのはベッドに腰を掛ける妖しい雰囲気の美女。

    彼女はこれでもかと言うほどボディラインの強調された漆黒のボディコンドレスを纏い、交差させた太股に肘を付いて、此方を見上げていた。

    露出は少ない。上半身は胸元が少し空く程度で長い袖が手首まで完全に隠している。
    しかし、下半身。四つのスリットが深く腰まで切り裂き、そこから絶妙に艶かしく肌が垣間見え、ゴクリと喉が異常な音を発てて揺れた。
   お嬢様の下着は長年見てきたので、ある程度耐性も出来たが、この人下着履いてないんじゃないだろうか?
    これだけピッタリとしているのに下着の線が見えない。スリットから見えなければならない場所にもなにも見えない。
    この世界にニップレスやノーパンシールがあるとは思えないから、見た目履いてない=本当に履いてない、と考えていいだろう。

   そこまで一瞬で理解をして、優は視線のやり場に困った。眼前のノーパン。左のビッチである。これ以上の下半身への刺激は社会的死に繋がりかねない。

   俺は視線を右へとさ迷わせ、出来るだけ真面目な声で評価をした。

「似合ってるんじゃないか?その格好ならこの世界、特段目立つこともないだろ?」






【side:リリー】

   私は二人の様子を見ながら腹を立てていた。


    お、おかしいでしょ!
    私の時は頬を赤くするだけだったのに!何であの女見て喉までならすのよぉ!目、めっちゃ泳いでるし!
     太股!?太股がそんなにいいの?

    ぐぬぬぬ~!と恨みがましく太股を見つめる。
    すると、「あらあらあらぁ?」と言いながら、エレナは組んでいた足を見せつけるように組み換えた。

    誘惑してる!間違いなく誘惑してる!

    優を見ると困ったように、嬉しそうに顔を更に赤らめている。どっちかハッキリしなさいよ!と、思っていると、

「似合ってるんじゃないか?その格好ならこの世界、特段目立つこともないだろ?」

と、声だけは真面目に評価しだした。全然!説得力!ない!

私の悩殺ポーズより照れるなんて許せない!

    自然とワナワナと体が震えだし、気付いたときには私は拳を強く握っていた。

     その拳が何時もの殴りやすい右頬に向かったのは言うまでもない。
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