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事業拡大編
第47話 “古き声の入り江”海戦③
しおりを挟む一度北東に切り上がって沖に出た【バンシー】は、そこからタッキングして船首を北西に、陸に向けて切り上がり始めた。右側に浅瀬に乗り上げて動けなくなっている海賊船の姿が見える。甲板の海賊たちは逃げたはずの【バンシー】が何のために戻ってきたのかが分からずに戸惑っているようだ。
現在【バンシー】はスパンカー1枚だけを展帆し、その操作はショーゴとサザナミが担当し、舵輪はロッコが握り、アボットが補佐に付いている。ゴンノスケはすでに狙撃の為にマスト上部の見張り台に陣取り、甲板ではサミエラがアネッタにマスケット銃での狙撃姿勢をレクチャーしている。
「射撃位置についたら、前膝を立てて、後ろ膝を甲板につけてしゃがんだ状態で射撃姿勢に入るわ。アタシと同じようにやってみて」
「はい」
マスケット銃を手に歩いてきたサミエラがすっと腰を落とし、後ろ膝である右膝を甲板につけ、立てたままの左膝に左の肘をついて前床を握り、右手で銃把を握り、銃床の床尾を右肩に当てて構えてみせる。
「これが膝撃ち姿勢よ。移動から射撃姿勢、射撃姿勢から移動への移行がしやすいのと、身体を縮めるから物陰に隠れやすく被弾面積を小さくできるのと、非力な女でも重いマスケット銃の銃身をぶれさせずに構えたまま待機できる、といったメリットがあるからアニーにはしっかり身に付けてほしいわ」
「はいっ! やってみます」
アネッタが膝撃ち姿勢で実際にマスケット銃を構えてみたり、立ち上がって移動してまたしゃがんで射撃姿勢をとってみたりして、その安定感と取り回しの良さに納得する。
「なるほど。これはいいですね! 銃の重さを気にせずにじっくりと狙って撃てます」
「そう。じゃあさっそく実戦でやってみるわよ。ただ、今回の戦いでは敵を仕留めるより、一人でも多く戦闘不能にするのが優先だから、狙いやすそうな奴の胴体を狙って撃ちなさい。身体のどこかに当たれば、よほどの猛者でもなければそれ以上戦えないし、怪我人の存在は周りの奴らの士気を挫くわ。ここにある装填済みの5丁は最初の接近で撃ち切るわよ」
「イエスマム!」
射撃姿勢のレクチャーを終え、サミエラとアネッタは左舷側に移動して待機する。それぞれ1丁ずつマスケット銃を手に持っており、二人の間には残りの3丁も並べてある。
「嬢ちゃん、準備はいいか? 今から面舵を切って海賊船に近づくぜ。だいたい20ヤードですれ違うつもりだ」
「いつでもいいわよ!」
「よしっ! 面舵一杯! 海賊船を左に見ながらすれ違うぜ!」
ロッコが右手だけで器用に舵輪を右に回し、【バンシー】が右旋回で海賊船に向かう。斬り込まれると思ったか、海賊船では海賊たちが手に手に武器を持って応戦の構えを見せる。
真っ直ぐに体当たりをぶちかます、と相手に思わせるような操船で海賊船に近づいた【バンシー】だったが、相対距離およそ70ヤードで舵を右に修正し、すれ違う進路を取る。
衝突の衝撃と白兵戦に備えていた海賊たちは皆一様に肩透かしを食ったような表情を浮かべる。
「馬鹿ね。こんなに人数差があるのにこっちから不利な斬り込みなんかするわけないってちょっと考えれば分かるでしょうに」
「だから馬鹿なんです」
「あは。アニーもなかなか言うじゃない。……アニー、射撃姿勢!」
「はいっ!」
海賊船との距離が縮まってきたので、それまで立っていたサミエラがスッとしゃがんで膝撃ち姿勢でマスケット銃を構え、アネッタもそれに続く。二人が銃を構えたことに気づいた海賊たちが動揺する。
「ヤバイぜ! 銃で狙われてんぞ!」「船長! どうすんだ!」「こっちにマスケット銃はねえぞ!」
「馬鹿野郎ぉ! 女の撃つ銃が当たるわけねぇだろがっ! ビビッてんじゃねぇっ!」
大声で喚きちらす海賊船長だったが、次の瞬間、ビシッと額に弾痕を穿たれてそのまま真後ろにどうっと倒れて動かなくなる。一瞬遅れでマスト上から響く銃声。
──ダァァァン!
「へえ。まだ50ヤードは離れてるのにヘッドショット1発なんて本当にいい腕してるわね」
「ふふ。それをゴンに直接言ってあげたら喜びますよ。ゴンは姫にいいところを見せたくて張り切ってるんですから」
「あは。頼もしいわね! でも、アタシたちもそれなりにやれるってところを見せてやりましょ」
「はいっ! 私も姫に教えていただいた膝撃ちで結果を出してみせますっ!」
マスト上からの狙撃で見事に海賊船長を仕留めてみせ、海賊船の甲板が面白いほど分かりやすくパニックになるのを見て取ったゴンノスケは、にいっと笑うと愛用の火縄銃──雑賀銃を引っ込めた。まだ距離があるから再装填を急げばもう一度ぐらいは撃てる。
銃口を下にして持ち、火皿から火縄挟みを上げ、火皿から銃身内にフッと息を吹き込めば砲控内部に残っていた火の粉や燃えカスが吹き飛ばされて綺麗になる。
次いで銃口を上にして持ち直し、腰に着けた胴乱から次の1発分の弾を取り出して銃口に薬莢側から押し込み、かるかで砲控の一番奥まで押し込む。
火皿の穴から紙薬莢を目視確認し、火蓋を閉じてまた開けば、火蓋の内側の爪によって紙薬莢が破られ、細かい火薬が火皿まで引き出される。
火縄を吹いて火勢を強めれば再装填と射撃の準備が完了する。
次の獲物を求めてゴンノスケは視線を巡らせた。再装填をしている間に距離は縮まり、両船は今まさにすれ違おうとしている。
──ダ、ダァァァン!!
「ぐあっ!」「ぎゃっ!」
ゴンノスケが見下ろす中、甲板のサミエラとアネッタのマスケット銃が同時に火を噴き、バタバタッと海賊たちが倒れる。二人は撃ち終わった銃をすぐに脇に置き、装填済みの銃を取って構え、すぐに撃ち放つ。
──ダ、ダァァァン!!
「がはっ!」「ぐっ!」
撃たれた海賊たちが悲鳴を上げてのたうち回り、それを見た周囲の海賊たちは明らかに怯んでいる。
──ダァァァン!
「ぎゃあっ!」
装填済みの最後の1丁はアネッタが3回目の射撃に使い、また一人を倒す。
「おぅ。やるもんじゃのう! 姫に教えられてアニーの奴も射撃が一皮剥けとるでないか。これはわしも負けていられんのう」
ゴンノスケは海賊船の様子を観察する。船長が殺された今、誰が全体をまとめているのか。生き残った海賊たちは誰に指示を仰ごうとするか。
「ふむ。あいつじゃな」
仲間たちを奮い立たせようと叱咤している者を見極め、素早く狙いを定めて引き金を引く。
──ダァァァン!
「ぐはっ……」
狙い誤らず、頭を撃たれた海賊がマリオネットの糸を切るようにその場で崩れ落ちる。
「ひゃあああ! 無理だ! 俺ぁ逃げるぞ!」
戦意を喪失した海賊の一人が海に飛び込んで陸に向かって泳いで逃げようとする。
「三十六計逃げるに如かずとはいうが、そら悪手じゃな」
マスト上から俯瞰しているゴンノスケの目には血の臭いに引かれて集まってきたたくさんの鮫の影がはっきり見えている。そのうちの一匹が逃げる海賊を追っていく。
「ぎゃあああああ!? 来るな! 来るなぁ! ゴボゴボッ……」
海賊の足にかぶり付いた鮫がそのまま男を海中に引きずり込む。
仲間が目の前で鮫に食われるのを見て茫然とする海賊たち。そして、海賊船とすれ違った【バンシー】が右に舵を切り、船尾が海賊船に向いた瞬間、だめ押しとばかりにアボットにより迎撃砲が撃たれる。
──ドォンッ!
迎撃砲の散弾はすでに被弾していた数人に止めを刺し、さらに数人を披弾させて戦闘不能にした。
「む、これは勝負あったのぅ」
一応、愛銃への再装填を終わらせたゴンノスケだったが、どうやら自分の出番は終わったものと思われた。
元々20人いた海賊のうち、最初の戦闘で4人が死亡し、今の戦闘で10人が戦闘不能になり、うち5人はすでに死亡している。まだ戦えそうなのはもはや5、6人しかおらず、その残った連中も完全に戦意を喪失してしまっている。最後は接舷斬り込みで決着をつける予定だったが、この様子ならもう抵抗せずに降伏するだろう。
海賊船に再度接近するために旋回中の【バンシー】の見張り台で戦況を冷静に判断したゴンノスケは愛用のパイプに新しいタバコを詰め、火縄から火を移して仕事終わりの一服を楽しみ始めた。
~~~
【その時、歴史を動かしたCh 考証解説Vol.7 パーソナリティー:Sakura&Nobuna】
Nobuna「やはり敵のアウトレンジから一方的に叩くのはハマると強いのぅ」
Sakura「長篠の合戦もそうじゃったけんねぇ」
──相手になにもさせずに終わったなー
──ゴンの狙撃マジパネェ
──指揮官を優先的に狙う斬首戦術怖っ
──一方的すぎて海賊がちっとばかし可哀想になったよ
──腕のいい銃士が3人もいればこうなるわな。サミエラはインストラクター級だし、アニーも筋がいいよね
──膝撃ちは攻守のバランスがいいからこういう近距離の銃撃戦には強いんだよな
──……
Nobuna「サミエラ殿としては斬り込みの時に背中を任せる予定じゃったアネッタ嬢の銃の腕前を事前に確認しておく程度のつもりじゃったんじゃろうがのう……」
Sakura「膝撃ちば覚えたアニーさんのすごかっとねぇ」
──場慣れしてるっつーか、人を撃つことに躊躇いがないよね
──これまでも幾度となく海賊と戦ってきたことを伺わせる一幕だったね
──やるかやられるかの殺伐とした時代だ
──確かにアニーがこれだけやれるならゴンが「謙遜が過ぎる」って言うのもわかるよな。銃士としては軍の海兵ぐらいの実力はありそうだ
──これでサミエラからの英才教育が加わればアニーはどこまで伸びるか楽しみだね
──俺は俄然アニー推しだわ
──……
【作者コメント】
あれ? 斬り込み隊に華を持たせる予定が、なんか後方支援が活躍しすぎた。まあ基本的にキャラの自主性に任せるスタイルなのであるあるなのですが(^_^;)
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