【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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箱庭スローライフ編

第156話 15日目③おっさんは埋葬する

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 コーヒーブレイクで一休みしてから、美岬が見つけた白骨死体を埋葬するためにスコップとLEDライトを持って洞窟に向かう。美岬は平気そうな顔をしているが、俺の後ろにくっついて俺のシャツを指先で摘まんでいるあたり、やっぱり死体が怖いようだ。

 洞窟は俺たちの拠点から崖沿いに300㍍ほど内陸に入ったあたりにある。この島に上陸したその日にすでに見つけていたものの、仮住まいのつもりだった現在の拠点が意外と居心地がよく、炊事場やトイレなどを整備してからはあえて引っ越しを急ぐ理由もなくなり、そのうち林の中に洞窟よりも条件の良い新居の建設予定地を見つけてしまったので、調査そのものが後回しになって今に至っている。

「なにげにここに近づくのは初めてなんだよなー」

「あたしたちの普段の活動範囲からは外れてるっすもんね」

「ぶらっと来るには微妙に遠いんだよな」

 箱庭はトランプのダイヤのような菱形をしているので、内陸に向かうにつれてだんだん広くなる。俺たちの拠点があるあたりだと小川とその両岸沿いの林まで100㍍もないぐらいだが、この洞窟のあたりまでくると林の外縁部でさえ200㍍以上は離れている。
 普段の薪集めやドングリやジュズダマの採集はどうしても小川周辺が活動範囲になるので、ついでで調べるという機会も今までなかった。
 
 洞窟の入り口はおにぎりのような三角形で、底辺が1.5㍍ぐらいで高さが1㍍ぐらいだから屈んで入っていける。元々はもっと大きな入り口だったのが、長年の堆積で下の方が埋まってしまったものらしい。

「よし。じゃあ入ってみるか。死体は入ってすぐのところにあるんだったか」

「そっす。いきなりあってビックリしちゃって慌てて出てきちゃったからそれ以外は何も見てないっすけど」

「……そうか」

 俺はLEDライトを点灯して洞窟の入り口から中を照らしてみた。乾いた土の地面がまず目に入り、その先、だいたい3㍍ぐらいのところに白いボールのようなもの──頭蓋骨が転がっていた。
 半分ほど土に埋まっているが、顎を上にして、顔をこちらに向けた状態だったから見た瞬間にそれと分かる。

「ああ。あるな」

「……っ!」

 俺のシャツを掴む美岬の手に力がこもる。

 俺は洞窟に入る前にまずは中の様子を確認するためにライトを上下左右に向けてみた。
 そこは大人が立って歩けるほどの高さと幅のあるトンネル状の洞窟で、奥行きはかなりありそうだが、すぐに曲がっているので先の方は確認できない。しかし、壁にも天井にもたくさんの絵が描かれていることは分かった。
 
「ほえ? 落書き……いや、これは壁画っすか?」

「そうだな。見た感じの第一印象だと相当古そうに見えるな。描かれている内容はパッと見ただけでは分からないからいずれ時間を取って調べたいところだが……」

 それは今ではない。ライトの光を壁や天井から地面に移す。
 奥の方に箱が大小いくつか置いてあることに気付いてそちらに光を向けると、一番大きいものは古い日本家屋でたまに見かける長持ながもちらしいと分かった。それ以外に、漁師向けの大型のクーラーボックスとジュラルミン製とおぼしき道具箱もある。そしてリュックサックっぽい物も転がっていた。
 ……かなりの量の荷物だな。これを一人で持ち込んだのだとしたら、やはりこの場所の存在を知った上で計画的に運び込んだと考えるのが自然かな。

 とりあえず目につく範囲内に危険はなさそうだと判断したので中腰で洞窟の中に足を踏み入れる。

 白骨死体は頭を入り口側、足を奥の方に向けて仰向けに倒れており、両手を胸の上に置いていた。
 明らかに現代人でしかも男物と分かる薄手のジャンパーとワークシャツとジーンズを身に着けており、地面に接している下半分ぐらいが土に埋もれている。

 この男はこの場所で亡くなり、死体を食い荒らすような生き物がいなかったのでそのままの姿で白骨化して、洞窟の入り口から入り込んできた砂や土に自然に埋もれながら今に至ったものと思われる。

 比較的新しい白骨死体は骨と骨を結合する軟組織が残っているので骨同士が繋がってるが、軟組織が完全に朽ちた古い白骨死体は骨同士がバラバラになる。
 この死体もかなり古いようで、骨同士の結合はすでに失われている。剥き出しの手指や首の骨はバラバラになって元々あったあたりに散らばっていた。

「別の場所に動かそうとしたら骨を集めるのが大変そうだな。幸いここには土もあるし、このままここに埋めてやろうと思うけどどうだ?」

「そっすね。それでいいと思うっす。……一応、遺骨として一部拾っていこうと思うんすけど、指先とかでいいんすかね?」

「あーそうだな……それなら」

 俺は頭蓋骨のそばで片膝をつき、首の骨の上から二つ目のもの──第二頸椎だいにけいついを拾い上げる。

「持って帰って家族の墓に入れるならこれがいいだろう。一般的に喉仏と呼ばれる骨だ。ちなみに男の喉にある喉仏とは別物な」

「分かったっす。大事に取っておくっす」


 埋める前に身元の特定に繋がりそうな物がないか調べてみた結果、左手の指の骨に混じって銀の結婚指輪が落ちていたのでそれも回収しておく。彫られた日付は約40年前でイニシャルはH.T。浜崎徳助のそれと一致したのでこの遺体はほぼ間違いなく美岬の大叔父の徳助氏だろう。ちなみに徳助氏の奥さんは彼が遭難するより前に亡くなっており、子供もいなかったとのこと。
 もしかすると彼はこの島で世捨て人として余生を送るつもりで準備していたのかもしれない。ただ、何があったかは分からないがこの洞窟内の生活感の無さを見るに、この島に着いて早々に亡くなっているようだが。

 スコップで周辺の土を集めてきて遺体の上に被せていく。
 
「ちなみに、日本国内だとこんな風に発見した死体を民間人が調べたり勝手に埋葬するのはNGなんだけどな」

「そうなんすか。じゃあ、ガクちゃんは捜索ボランティアで亡くなった人を見つけた時はどうしてたんすか?」

「現場の物には一切触れずに服装とか背格好とかの情報と現場の正確な位置をまず警察に連絡だな。捜査関係者を現場まで案内したりもあるな。死体の身元の確認とか、死因の特定とか、事件性の有無とかそういうのは全部警察の仕事だから、明らかに死体と分かる状態の場合は現場の保存が重要になるんだ」

「なるほど。んー……じゃあ、ガクちゃんが富士の樹海で遭難した時に見つけた遭難者の人の荷物を拝借したのは……」

「……うん。まあダメだな。あの時は俺もそういう知識は全然なかったし、そもそも俺自身遭難中だったから警察からもお咎めそのものはなかったけどな。でも警察に協力している捜索ボランティアがそれをやったら完全にアウトだなー。……さて、こんな感じでいいかな」

 元々半分ほど土に埋もれていたのに加え、肉の無くなった白骨死体というのはかなり平べったくなるのでさほど時間もかからずに土で覆うことができた。盛り土の表面を叩いて整え、一応の墓標として外で拾ってきた石を載せ、美岬が外に咲いていた花で作った花束を添えて手を合わせる。

「大叔父さん、どうか安らかにお休みください。もしあたしが帰れたら遺骨と指輪はばあちゃんと大叔母さんが眠ってるうちの墓に一緒に入れるつもりっす。でもあたしらも遭難中なので過度には期待しないで欲しいっす。あと、これから大叔父さんの遺品を使わせてもらうことも許してほしいっす」

「……まったく、こんな偶然もあるんだな」

 遭難してたまたま辿り着いた島で20年前に遭難して行方不明になった大叔父の遺体を見つけるなんて。

「案外、大叔父さんがここに呼んでくれたという可能性もぞん?」

「……さあどうかな。さて、とりあえず遺品を外に出して使える物があるかチェックしてみようか」






【作者コメント】
 宮古島での陸自ヘリの墜落事故、知床の沈没事故やキャンプ場行方不明女児事件もそうですが、現場がほぼ分かっていてもこんなに捜索が難航するのですから、大海原で漂流している人間を見つけるのは本当に至難だということがよく分かりますね。官民問わず、山や海で行方不明者の捜索に尽力しておられるすべての方に改めて敬意を表したいと思います。
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