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4.白いカラスとハーメルンの笛吹き男
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生まれつき紫外線への耐性がほとんどない彼女と出掛けるのはだいたい日没後の黄昏時で、それもせいぜい近所のコンビニに行くぐらいだったから、こうしてまだ陽がある時間に一緒に歩いているのはすごく新鮮だった。
しかも、初デートということでいつもの普段着じゃなく、かなり気合いを入れておしゃれをしてくれた彼女がすごく愛しかった。
別に普段がだらしないわけではない。むしろ彼女はプライベートでもきちんとしているタイプだ。それは初めて彼女の部屋を訪れた時から分かっていた。
あの時、彼女は自宅に誰かを呼ぶつもりがあったわけでもなかったにも関わらず、たまたま自転車の修理をしてやった俺を自室に招いてもてなしてくれたが、彼女の部屋は掃除が行き届き、センスのいいインテリアで飾られ、いつでも人を呼べる状態だった。
そんな彼女の普段着は基本的に動きやすさ重視のパンツスタイルで、髪も一つに結んでいたり、アップしてバレッタで留めていたりといったシンプルで実用性重視なものが多い。
今日の彼女はハイウエストのロングスカートとブラウスに薄手の丈の長い長袖のカーディガンを羽織り、刺繍入りの手袋とタイツによって肌は露出していないにも関わらず、野暮ったさや暑苦しさを感じさせないスタイリッシュなコーディネートで、美しい銀髪は編み込みシニョンでエレガントにまとめられて凛とした雰囲気を醸し、露になったうなじのラインや耳でささやかに存在を主張する珊瑚のイヤリングが女性らしい色っぽさも出していて、まるでファンタジー世界の妖精の王女もかくやと思わされるほどの美しさだった。
本当は駅までタクシーを使うつもりだったのだが「日傘も差してるし、肌が出てる場所は日焼け止めもたっぷり塗ってるから大丈夫」と言う彼女たっての希望により、駅まで歩いていくことになった。
僕らのアパートから駅まで普通に歩いて10分。日陰の多い道を選んでも15分程度だ。
メタセコイアの並木通りを抜け、商店街のアーケードを通り、線路の高架下をくぐって駅に到着する。
「大丈夫だった? 肌とか痛くない?」
「うん、大丈夫。でも、夜はよく通る道なのに昼間はぜんぜん印象が違ってて、まるで知らない街に迷いこんだみたいでワクワクしちゃった」
ほのかに頬を上気させて目を耀かせる彼女に俺の鼓動が高まる。
「い、行こうか。もう電車が来る頃だ」
すると彼女はちょっと迷うそぶりをしてから、意を決したように小さくうなずき、俺の耳元に顔を寄せてきて囁いた。
「……ね、手をつないでもいいかな?」
俺たちはガタンゴトンと揺れる電車の中でもずっと手をつないでいて、なんだか嬉しくも恥ずかしい変な感覚だった。
万事に初々しい彼女と一緒にいると、なんだか自分が高校生の頃に戻ったかのようで、ちょっと不思議な感じがした。
やがて水族館に到着した頃にはすでにかなり陽が傾いて夕方になっていたが、校外学習だったのだろう、リュックを背負った子供たちの団体がちょうど帰るところだった。
先生の笛の合図に合わせてバスに乗り込んでいく子どもたちの様子が、なぜか彼女のツボにはまったらしくクスクス笑いだす。
「なにがそんなにおかしいの?」
「あの先生、ハーメルンの笛吹き男みたい」
「……その発想は無かったな」
彼女の瞳に映るこの世界はどんな風に見えているんだろう。そんなことが、なぜだか無性に知りたかった。
しかも、初デートということでいつもの普段着じゃなく、かなり気合いを入れておしゃれをしてくれた彼女がすごく愛しかった。
別に普段がだらしないわけではない。むしろ彼女はプライベートでもきちんとしているタイプだ。それは初めて彼女の部屋を訪れた時から分かっていた。
あの時、彼女は自宅に誰かを呼ぶつもりがあったわけでもなかったにも関わらず、たまたま自転車の修理をしてやった俺を自室に招いてもてなしてくれたが、彼女の部屋は掃除が行き届き、センスのいいインテリアで飾られ、いつでも人を呼べる状態だった。
そんな彼女の普段着は基本的に動きやすさ重視のパンツスタイルで、髪も一つに結んでいたり、アップしてバレッタで留めていたりといったシンプルで実用性重視なものが多い。
今日の彼女はハイウエストのロングスカートとブラウスに薄手の丈の長い長袖のカーディガンを羽織り、刺繍入りの手袋とタイツによって肌は露出していないにも関わらず、野暮ったさや暑苦しさを感じさせないスタイリッシュなコーディネートで、美しい銀髪は編み込みシニョンでエレガントにまとめられて凛とした雰囲気を醸し、露になったうなじのラインや耳でささやかに存在を主張する珊瑚のイヤリングが女性らしい色っぽさも出していて、まるでファンタジー世界の妖精の王女もかくやと思わされるほどの美しさだった。
本当は駅までタクシーを使うつもりだったのだが「日傘も差してるし、肌が出てる場所は日焼け止めもたっぷり塗ってるから大丈夫」と言う彼女たっての希望により、駅まで歩いていくことになった。
僕らのアパートから駅まで普通に歩いて10分。日陰の多い道を選んでも15分程度だ。
メタセコイアの並木通りを抜け、商店街のアーケードを通り、線路の高架下をくぐって駅に到着する。
「大丈夫だった? 肌とか痛くない?」
「うん、大丈夫。でも、夜はよく通る道なのに昼間はぜんぜん印象が違ってて、まるで知らない街に迷いこんだみたいでワクワクしちゃった」
ほのかに頬を上気させて目を耀かせる彼女に俺の鼓動が高まる。
「い、行こうか。もう電車が来る頃だ」
すると彼女はちょっと迷うそぶりをしてから、意を決したように小さくうなずき、俺の耳元に顔を寄せてきて囁いた。
「……ね、手をつないでもいいかな?」
俺たちはガタンゴトンと揺れる電車の中でもずっと手をつないでいて、なんだか嬉しくも恥ずかしい変な感覚だった。
万事に初々しい彼女と一緒にいると、なんだか自分が高校生の頃に戻ったかのようで、ちょっと不思議な感じがした。
やがて水族館に到着した頃にはすでにかなり陽が傾いて夕方になっていたが、校外学習だったのだろう、リュックを背負った子供たちの団体がちょうど帰るところだった。
先生の笛の合図に合わせてバスに乗り込んでいく子どもたちの様子が、なぜか彼女のツボにはまったらしくクスクス笑いだす。
「なにがそんなにおかしいの?」
「あの先生、ハーメルンの笛吹き男みたい」
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