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第三章:いろいろな問題を残しながらも、久々に城に帰る二人だが…?
3-5 愛は王家を救う
しおりを挟むその日、俺は泣いた。何度も、何度も…。
「……親父……」
久しぶりに父、と呼んだ気がする―――…
父さん、俺はきっと良い王になるから。安心していってくれ。
そして、静かに目を閉じた王は…天へと旅立ったのだ。
「………今まで、ごめんな…」
親不孝ものだったよな、俺。いつから嫌いになったんだ? どうして、嫌いに……?
すべては、『災い』というものが家族の絆さえも壊したんだ。もう、壊さない。
俺らの愛は永遠だから。
***
年齢、二十三歳。
王家に何の事件も災いも起きなかったし、王という身分もすんなりとロイドへと移った。そして、『陛下』と呼ばれることに少し慣れてきたころに…それは起こった。
「…なあ、最近…ユリアの姿が見えないんだが…エア知ってるか?」
王の仕事が忙しくてユリアと一緒にいられないことは仕方がない。…仕方がないのだけれど、姿さえ見られないとはどういうことだろう?
「ユリア殿…ですか?」
「なんだ、お前も知らないのか」
「陛下が毎晩、ベットの上でいじめているから家出したのではないですか?」
にこり、と嫌な笑みを浮かべてストレートに痛いところを衝く。
「いつも、うるさくて困ってます」
「すまん……て、こんな広い城の中で聞こえるわけないだろ!」
エアの笑顔につられて謝ってしまったが…何かおかしい。それに気づいたロイドはすかさず突っ込んだ。
「お前…盗み聞きしたんじゃないよな……?」
「……え、あの…こほん。今日はいい天気ですねー」
誤魔化しきれてないぞ、エア…。
わざと目を反らすエアに、ため息をつく。
(あーくそ! 恥ずかしいっ………あの、交じりを……エアが聞いていたと思うと、マジでどうしたらいいか分かんねー)
頭を両手で抱えていると…バタン、と扉の開く音が聞こえた。
「あ、ディアスさん。どうしたんですか?」
エアの上司で、ロイドの師匠であるディアスが少し慌てて言葉を発する。
「お嬢さんが廊下で倒れてな、今……医療室に」
「―――なっ」
嫌な汗が伝う。
………ユリアが倒れた?
その言葉だけが脳内を侵入してうめつくしていく。
「ロイド、別に命に別状は」
ない、という最後の言葉を聞かないまま、ロイドは部屋からいなくなっていた。
「……ロイド…昔は女にあまり興味がなかったのにな…成長……したのか?」
ディアスは誰に言うまでもなく呟いた。しかし、隣にいたエアが微笑んで答える。
「陛下も男だってことですよ。夜になると、ユリア殿を獣みたいに襲ってますし」
「…………盗み聞きか、悪趣味だな」
「それほどでも」
「誉めてないぞ」
と、まあ……こんな会話を繰り広げてからエアも医療室に向かう。
**
「――――ユリアっ!」
泣き叫ぶような声でロイドは名を呼ぶ。
「……………は、え……? どうしたんですか、ロイド様?」
きょとんとした顔が目に入る。
(―――――良かった…思ったより元気で)
ロイドは一気に脱力した。
「て、その花束は何だ?」
ユリアが座っているベットの横に花がたくさん置いてあった、それはキレイを通り越して異様だ。
「あ…これは、」
「―――子をやどすとは大慶至極、と書いてあります」
またも前ぶれもなく出現するエア。いい加減にやめてほしい、とロイドは思ったが……エアの『子をやどす』という発言に己の耳を疑った。
………ユリアが妊娠……?
「誰の子だ?!」
「陛下……貴方の子でしょうに。あんだけヤッといて…そのボケはないでしょう?」
「あ、そっか…俺の子か―――て、何でそれを俺に早く言わない!?」
そんなに俺はユリアにとって頼りないだろうか……そう思ってしまう。子ができたら避けられてしまうほどの想いだったのか―――。
「ごめんなさいっ、わたし…どうしていいか分からなくて…あの…だからっ」
ユリアは俺のひどく傷ついた表情に過剰に反応した。そして、彼女も泣きそうだった。
「私、はじめて子供が出来たって聞いたとき…ロイド様の顔が浮かんだんです。でも…今は陛下になってまもないのに、迷惑かけちゃいけないと思ったんです…」
「馬鹿だな、ユリア。迷惑なんて思うわけないだろ、俺の子だろ?」
「はいっ」
満面の笑みが舞い降りる。
「ところで、ユリア殿が倒れたのって妊娠が原因ですか?」
「………正確には違いますけど」
「? ……何だ、言えないのか?」
「え、えっと……メイドさんたちが婚儀のためにいろいろと花嫁衣装を着せるので……」
ちょっぴり疲れたのです、という言葉と被さり、ロイドの盛大に吹き出す音が響く。
「ぶ―――――っ!」
「ろ、ロイド様?! お、おお落ち着いて下さいっ。ヒッヒッフー。ヒッヒッフー……っ」
「………ユリア殿。それ、違いますよ。というか、陛下が子を産んでどうするんですか」
「あ、ああ…そうですね。え、えーと………婚礼はまだ先ですし、大丈夫です! 焦らないで下さいっ」
「そ、そうだな、うん。…ユリア、ありがとうな」
「いえ、ロイド様が落ち着いて良かったです」
健気すぎる。
「……………結婚する前に子供が産まれてしまったりして…。そしたら、出来ちゃった結婚ですねー」
「……………」
「? そうですね……?」
「ユリア、結婚しよう、今すぐに。とにかく早く結婚してくれ!」
「え、えぇ!?」
真剣な眼差しがユリアを心底動揺させる。
子が出来てからの結婚なんて情けなさすぎて笑えない、とロイドは心の中で嘆く。
しかし、すでに胎内に子を宿していること時点で…すでにそれは出来ちゃった結婚なのだが。それは知らなくて良い事実かもしれない。
***
騎士団本部の団長室にて。
ロイドはユリアとの婚儀についてと、王としてのこれからを話しに来ていた。目の前にはジンが不機嫌な顔でいつものようにロイドを見ていた。
「……結局…まだ根本的なことは解決されていませんが…一応、ジンさんの約束を果たせるよう頑張ります」
――――良い王になること、言葉で言うのはすごく簡単だけれども実現させるのはひどく難しい。
「せいぜい頑張れ」
頑なな厳しい声…それでも、ロイドにとっては安心できた。完全に認められたわけではないけれど―――他人に受け入れられたことが嬉しくて。ロイドは穏やかに微笑む。
そんなロイドに対して、ジンは気味が悪いな とぼやき、一言。
「あ、言っとくけど他の女と寝たら、オレが息の根を止めにいくからな、覚悟しとけ!」
「――――そんなの死んでもありえません」
真顔で断言され、ジンは驚く。
そして……
「恥ずかしいやつ」とジンは苦笑するのであった。
**
全速力で城に帰ってくると…、城門に見知った人影を見つける。それは紛れもない、愛すべき存在だ。
「ユリア、おいで」
「ロイド様っ―――お帰りなさいですっ」
より添うようにユリアはロイドの隣に並ぶ。
「ああ、ただいま」
――――運命に抗って辿り着けた場所。それがユリアのもとであったことが心底嬉しい。
………俺は幸せだ。
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