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すべては俺が活きるために

第四話 愛されるより愛したい

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部屋に戻っていないお嬢様を探すのには苦労した。
無駄に多い部屋数に、広い屋敷―――今まで、こんなデカイ屋敷に住んでいたことを煩わしく思ったことはない。

しばらく歩いていると、厨房の明かりがついていることに気付いた。

(………コックがこんな夜中に起きているわけないよな……もしかして、お嬢様?)

淡く光る部屋に俺が探していた、人物がひたすら何かを飲んでいた。
それは――大人だけが知る味。決して、未成年が口にして良いものではない。


「―――何を飲んでいるんですか!」
「あ………サクだぁ……」

完全に出来上がっている。赤く染まる頬を軽くつねると、俺は静かにそれを告げる。
「酒、ですか。成長途中の貴方が、こんなの飲んでいいと思っているんですか?」
「ひ、たぁい。」
あまりにも強くつねると本気で怒られるので、ぱっと手を離すと彼女は頬を擦りながら呂律ろれつが回っていない口調で大胆な発言をする。

「いいもん。成長したくないもん。大人になってもサクと結婚できなきゃ私、生きていく意味なんてないッ!」

………それは、また熱烈な愛の告白だな。
俺は苦笑して、皮肉る。

「お嬢様………貴方がそんなことを思っていたなんて意外です。プライドが高い人ですし」
「だって――いつもアレのときはいじめられるだけだし、初体験の相手は現れるし、しかもはっきり恋愛対象外って言ったじゃない!」
ああ、そういえば。
数時間前の出来事だったのに、俺は自分の想いでいっぱいだった。相手が嫉妬しているとも気付かずに。
それを知って、皮肉な俺は素直に彼女を苛めたいと思った。
「………やきもちか、」
「! ち、ちがっ――」
「違くないだろ。俺のこと愛してるって言ったくせに」
「~~~~っ」
「ずるい、そう思ったか? 仕方ない、それが大人だ。でも、喜べ。やっと分かったから……俺は敬語口調で誤魔化していたらしい。自分の本当の気持ちを」
「気持ち、サクの本当の気持ちなんてあるの…?」

「ええ、俺は貴方が好きだ」

前とは違う想い。復讐と混合することはない。
―――だが、違う醜い心だと気付く。こんなにも貴方を束縛し続けたいと願う。

「貴方は……俺の生きる希望だ」
だから、ずっと、側でお仕えしよう。

「………どうしよう、サクが優しい。怖いですわ」
急に、普通の口調に戻ったお嬢様に俺は驚いた。しかし、何だ。その疑うような言い方は!

「あのな、お嬢様……人が真剣に告ってんのに誤魔化すのはやめろ。」
「今まで散々、自分に誤魔化してきた人に言われたくありません………でも、私も好きです」
「――――あ?」
「だから、………て、サク聞こえてたでしょう?」
「あ、バレたか」
こんなひねくれた野郎でも好きだと言う、そんなお嬢様が好きだ。そんな貴方だから、俺は前に進める。
動き出した心が、静かにとくんと高鳴った。久しぶりの愛しいという気持ちにクラクラする。

―――ああ、愛しするってこんなにも嬉しいことだったんだ。
忘れていたよ、今まで。

「……さあ、お嬢様。酒に溺れるくらいなら俺に溺れて下さい。気持ち良くしますから」
「な、何よ! 急に!」
「急ではないです。俺たちは恋人同士なのですからね?」
「だったら、敬語口調やめてよ。」
「ああ、これは癖で。てか、俺は公私を混合するタイプなんです」
「そうなの……て、混合しないで!」
「おお、お嬢様も突っ込みを覚えましたか! 偉いです」
「馬鹿にしてるわね!? 絶対にしてるでしょ!」
「してます」
「ッ、――ッ!」
「悔しいのなら俺に口で勝ってみて下さい。ああ、俺との交わりで勝ってみせてもいいですけど?」

もちろん、そんなことは無理だと分かっている。だから言うのだ、俺はお嬢様の喜ぶ顔より悔しそうに俺を睨む顔や困っている顔の方が好きだから。
そこまで考えて、俺は復讐にかられていなくても、俺の変態さはなくならないのだと知った。

まあ、改めるつもりもないけどな。

***

さあ、寝るほかに使われていなかった俺の部屋に彼女を連れこもう。
自分だけのものとして、主張するように赤い痣もつけておこう。決して、俺以外の男に目が向かないよう、忘れられない夜を貴方に―――。

「まだ、ここは欲しがっているようです」

すでに、何回もかせた後なのだが………彼女のあそこはじわりと濡れた。

「ほ、欲しがってませんッ!」

強がっても無駄です。だって、貴方は………。

「マゾなんですから、遠慮なんかするな」
「それは、勝手にあなたが!」
「違う」

サドである俺は、最初、お嬢様がマゾであれば良いとは思っていたけれど。強制はしたことはない。
だから、これは。

「貴方の才能なんですよ」

笑顔でそう告げたときには、すでに彼女の中に入れたあとだった。

「うん、やっぱり貴方の中は最高です」
「―――この、サクのド変態ぃぃ!!」

彼女は顔を真っ赤にさせて怒鳴るけれども、それは逆効果だ。
だって、その言葉は俺にとっては最大級の誉め言葉なのだから。


第二弾 完結
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