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2日目【愛生との再会】
第15話
マジョレルのアトリエでの撮影会が終わると、二人は順路に沿って庭園を回った。
アトリエまでが大方の見せ場だったらしく、そのあとは程よく順路沿いの緑を堪能しながらエントランスまで戻ると庭園をあとにする。
庭園を出て、今度は間違うことなく元来た道をバス停まで行くと、愛生が即座に次のバスの時間を確かめた。
「さっき行ったところか……」
「……みたいですね、えっと次のバスは……」
悔しがる愛生の隣で、美佳が時刻表を指差しながら確認すると、その指がたどり着いた次のバスの時間にがっくりと肩を落としてしまう。
「あと四十分後です……」
「そんなに待ってられるかよ」
愛生は苛立ったように言うと、そのまま車が行き来する通りの手前まで歩いていった。
そして車の流れの中から、一台のタクシーに手を振って止めた。
タクシーには中年の女性の客が乗っていたが、愛生はお構いなしに運転手に行き先を尋ねてフナ広場に行くことを確認すると、美佳に大きく手招きする。
「このタクシー、フナ広場に行くってよ」
「……でも、いいんですか? お客さんが乗ってますけど」
「いいんだよ。ここでは、こうやって乗り合って行くのが当たり前なんだ」
言い終わらぬうちに愛生は助手席のドアを開けタクシーに乗り込んでいた。
「わ、わかりました!」
愛生の後を追うように、美佳は慌ててタクシーに駆け寄ると後部座席のドアを開けた。
後部座席に乗り込むと隣に座る女性──おばさんと目が合ったので、少し申し訳なさそうに笑ってみせた。おばさんは「ノープロブレム」というように、自分の子供くらいであろう日本人に笑みを返してくれた。
乗車人数いっぱいに満たされたタクシーは再び国道を走り出す。
「フナ広場まで一人三十ディルハム。バスよりちょっと高いけど炎天下の中、あそこでぼーっと待ってるよりはいいだろ?」
「はい、クーラーも効いていて座れるので、断然こっちの方がいいです」
助手席の愛生に答えると美佳はふうっと一息つき、シートにどっしりと背中を押し付けて休息モードに入る。
タクシーは市街地を抜けると、城壁の門のようなところを抜けて旧市街に入り、間もなく見覚えのあるフナ広場前に到着した。
二人は運転手に、それぞれ三十ディルハムを手渡すと運転手、おばさんに挨拶をしてタクシーを降りた。
そこから歩いて公園に入り、通りに並んでいる観光用の馬車を見ながらフナ広場に戻ってくると、二人は約束をしていた三十九番の屋台に向かった。
数ある屋台の中から記憶を頼りに、何とか三十九番の番号を見つけ出したが──
「あれ? 店の主人、いねーじゃねーか……」
「ホント……もぬけの殻になってますね」
「どーなってるんだ、いったい」
首を傾げる美佳の隣で、愛生が隣の屋台──記念写真を撮ってくれたお兄さんに声をかけた。三十九番を指差しながら二言三言、お兄さんと英語でやりとりすると納得したように頷きを返し、「やれやれ」というように溜息をついた。
「……なんて言ってるんですか?」
答えを求める美佳に、少し呆れたように回答する。
「お昼の休憩に行ってるんだってさ」
「なんていうタイミングの悪さ……」
主人が不在であることの理不尽さというより、彼との約束を守れなかったことを後ろめたく感じた。そんな美佳の気持ちを察したのか、フォローするように愛生が言う。
「しょーがねえ、また明日だな」
「……ですね」
頷くと二人は隣──三十八番のお兄さんに手を振ってフルーツジュースの屋台村をあとにした。
フナ広場での大きなミッションがなくなってしまったが、美佳にはもう一つ遂行しなければいけない重要なミッションが残されていた。
「愛生さん、私……銀行に行きたいんですけど」
「あ、そうだった。ATMの使い方教えるって言ってたっけ」
「はい、じゃなきゃ今日中に破産してしまいそうです」
「悪い悪い、すっかり忘れてたよ。じゃあ、今から銀行行くからついてきて」
愛生が「すまない」というように片手をあげると、緑のテントが並ぶ通りをさっと右に曲がり進路変更した。
屋台と人通りを縫うように歩くと、フナ広場の東側のエリアにある建物にたどり着く。
アトリエまでが大方の見せ場だったらしく、そのあとは程よく順路沿いの緑を堪能しながらエントランスまで戻ると庭園をあとにする。
庭園を出て、今度は間違うことなく元来た道をバス停まで行くと、愛生が即座に次のバスの時間を確かめた。
「さっき行ったところか……」
「……みたいですね、えっと次のバスは……」
悔しがる愛生の隣で、美佳が時刻表を指差しながら確認すると、その指がたどり着いた次のバスの時間にがっくりと肩を落としてしまう。
「あと四十分後です……」
「そんなに待ってられるかよ」
愛生は苛立ったように言うと、そのまま車が行き来する通りの手前まで歩いていった。
そして車の流れの中から、一台のタクシーに手を振って止めた。
タクシーには中年の女性の客が乗っていたが、愛生はお構いなしに運転手に行き先を尋ねてフナ広場に行くことを確認すると、美佳に大きく手招きする。
「このタクシー、フナ広場に行くってよ」
「……でも、いいんですか? お客さんが乗ってますけど」
「いいんだよ。ここでは、こうやって乗り合って行くのが当たり前なんだ」
言い終わらぬうちに愛生は助手席のドアを開けタクシーに乗り込んでいた。
「わ、わかりました!」
愛生の後を追うように、美佳は慌ててタクシーに駆け寄ると後部座席のドアを開けた。
後部座席に乗り込むと隣に座る女性──おばさんと目が合ったので、少し申し訳なさそうに笑ってみせた。おばさんは「ノープロブレム」というように、自分の子供くらいであろう日本人に笑みを返してくれた。
乗車人数いっぱいに満たされたタクシーは再び国道を走り出す。
「フナ広場まで一人三十ディルハム。バスよりちょっと高いけど炎天下の中、あそこでぼーっと待ってるよりはいいだろ?」
「はい、クーラーも効いていて座れるので、断然こっちの方がいいです」
助手席の愛生に答えると美佳はふうっと一息つき、シートにどっしりと背中を押し付けて休息モードに入る。
タクシーは市街地を抜けると、城壁の門のようなところを抜けて旧市街に入り、間もなく見覚えのあるフナ広場前に到着した。
二人は運転手に、それぞれ三十ディルハムを手渡すと運転手、おばさんに挨拶をしてタクシーを降りた。
そこから歩いて公園に入り、通りに並んでいる観光用の馬車を見ながらフナ広場に戻ってくると、二人は約束をしていた三十九番の屋台に向かった。
数ある屋台の中から記憶を頼りに、何とか三十九番の番号を見つけ出したが──
「あれ? 店の主人、いねーじゃねーか……」
「ホント……もぬけの殻になってますね」
「どーなってるんだ、いったい」
首を傾げる美佳の隣で、愛生が隣の屋台──記念写真を撮ってくれたお兄さんに声をかけた。三十九番を指差しながら二言三言、お兄さんと英語でやりとりすると納得したように頷きを返し、「やれやれ」というように溜息をついた。
「……なんて言ってるんですか?」
答えを求める美佳に、少し呆れたように回答する。
「お昼の休憩に行ってるんだってさ」
「なんていうタイミングの悪さ……」
主人が不在であることの理不尽さというより、彼との約束を守れなかったことを後ろめたく感じた。そんな美佳の気持ちを察したのか、フォローするように愛生が言う。
「しょーがねえ、また明日だな」
「……ですね」
頷くと二人は隣──三十八番のお兄さんに手を振ってフルーツジュースの屋台村をあとにした。
フナ広場での大きなミッションがなくなってしまったが、美佳にはもう一つ遂行しなければいけない重要なミッションが残されていた。
「愛生さん、私……銀行に行きたいんですけど」
「あ、そうだった。ATMの使い方教えるって言ってたっけ」
「はい、じゃなきゃ今日中に破産してしまいそうです」
「悪い悪い、すっかり忘れてたよ。じゃあ、今から銀行行くからついてきて」
愛生が「すまない」というように片手をあげると、緑のテントが並ぶ通りをさっと右に曲がり進路変更した。
屋台と人通りを縫うように歩くと、フナ広場の東側のエリアにある建物にたどり着く。
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