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「ようこそ、炎物執(えんもてと)神社へ。あなたの執着、デバッグ(炎切り)いたしましょう」
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夕暮れに染まる境内。神主の誤利益 幽異(ごりやく ゆうい)は、かるたの札から抜け出したような切れ長の両目を細め、完璧な角度で一礼した。
彼の前には、顔色を土色に変えた一人の女性。
「消して……あいつを、全部。私の前から、消して!」
女性が震える手でスマホを掲げる。賽銭箱に取り付けられたQRコードに端末が重なり、静寂の中に場違いな電子音が響いた。
『ペイペイッ♪』
(よし、一万円チャージ確認。決済完了。ログイン成功)
幽異は無機質な美貌を保ったまま、内心でガッツポーズを作る。
(この客のログは事前にスキャン済み。不倫相手の妻への嫉妬心……典型的な一時的バグだ。
僕の構築した完璧なUI(ユーザーインターフェース)で、15分あればクリーンアップできる。これなら定時に上がって、コンビニの新発売のスイーツが買えるぞ!)
隣では、巫女の枢(くるる)が退屈そうに盛り塩をこねている。
幽異は彼女にチラリと視線を送る。
(頼むよ、くるるさん。今は僕のターンだから。余計な『感』とか出さないで、大人しくファイアウォール(門番)しててよね)
「あー、もうだめ。これ、塩じゃ落ちないわ」
枢がポツリと零した瞬間、幽異の背筋に氷が走った。
「えっ……待って、くるるさん。まだ僕のメッセージ送信中……」
「嘘ついてるもん、この女。不倫相手に、奥さんの『殺害依頼メール』送ったでしょ? しかもそれを、あいつのせいにするプログラムまで組んで。……ねえ、『詐(いつ)』。これ、喰っていいわよね?」
その瞬間、幽異の手元の端末が悲鳴を上げた。
画面が真っ赤に染まり、巨大なフォントで警告が踊る。
【致命的なエラー:管理者権限が『詐』に委譲されました】
「うわぁっ!? 今!? こわっ!! せめて5秒、いや3秒前にプッシュ通知してよ!!」
幽異の悲鳴を置き去りに、枢の輪郭が溶ける。
霧の中から現れたのは、巨大な九尾の影――お稲荷様の真体、『詐(いつ)』。
「詐」が女性の眉間に鼻先を寄せた次の瞬間、境内の空気が爆ぜた。
物理的な衝撃ではなく、女性の中にあった「悪意のデータ」が、その因果ごと一瞬で初期化(フォーマット)されたのだ。
数分後。
「あー、スッキリした。お腹いっぱい」
元の巫女姿に戻った枢が、満足げに喉を鳴らす。
目の前には、記憶も感情も全消去された廃人のような女性が、虚空を見つめて突っ立っていた。
「……またやった。また通知なしの強制アップデートだ……」
幽異はガックリと膝をつき、バグだらけになった神社のログ画面を見つめる。
「くるるさん、後の修正パッチ当てるの僕なんだよ? 記憶の整合性取るのに、何時間かかると思ってるの……? 怖いんだよ、あの姿、本当に……。スイーツ、売り切れるじゃん……」
泣き言をこぼしながら、幽異は震える指でキーボードを叩き始める。
炎切り神社の一夜は、今夜も予定調和を無視して、不気味に、そして賑やかに更けていく。
彼の前には、顔色を土色に変えた一人の女性。
「消して……あいつを、全部。私の前から、消して!」
女性が震える手でスマホを掲げる。賽銭箱に取り付けられたQRコードに端末が重なり、静寂の中に場違いな電子音が響いた。
『ペイペイッ♪』
(よし、一万円チャージ確認。決済完了。ログイン成功)
幽異は無機質な美貌を保ったまま、内心でガッツポーズを作る。
(この客のログは事前にスキャン済み。不倫相手の妻への嫉妬心……典型的な一時的バグだ。
僕の構築した完璧なUI(ユーザーインターフェース)で、15分あればクリーンアップできる。これなら定時に上がって、コンビニの新発売のスイーツが買えるぞ!)
隣では、巫女の枢(くるる)が退屈そうに盛り塩をこねている。
幽異は彼女にチラリと視線を送る。
(頼むよ、くるるさん。今は僕のターンだから。余計な『感』とか出さないで、大人しくファイアウォール(門番)しててよね)
「あー、もうだめ。これ、塩じゃ落ちないわ」
枢がポツリと零した瞬間、幽異の背筋に氷が走った。
「えっ……待って、くるるさん。まだ僕のメッセージ送信中……」
「嘘ついてるもん、この女。不倫相手に、奥さんの『殺害依頼メール』送ったでしょ? しかもそれを、あいつのせいにするプログラムまで組んで。……ねえ、『詐(いつ)』。これ、喰っていいわよね?」
その瞬間、幽異の手元の端末が悲鳴を上げた。
画面が真っ赤に染まり、巨大なフォントで警告が踊る。
【致命的なエラー:管理者権限が『詐』に委譲されました】
「うわぁっ!? 今!? こわっ!! せめて5秒、いや3秒前にプッシュ通知してよ!!」
幽異の悲鳴を置き去りに、枢の輪郭が溶ける。
霧の中から現れたのは、巨大な九尾の影――お稲荷様の真体、『詐(いつ)』。
「詐」が女性の眉間に鼻先を寄せた次の瞬間、境内の空気が爆ぜた。
物理的な衝撃ではなく、女性の中にあった「悪意のデータ」が、その因果ごと一瞬で初期化(フォーマット)されたのだ。
数分後。
「あー、スッキリした。お腹いっぱい」
元の巫女姿に戻った枢が、満足げに喉を鳴らす。
目の前には、記憶も感情も全消去された廃人のような女性が、虚空を見つめて突っ立っていた。
「……またやった。また通知なしの強制アップデートだ……」
幽異はガックリと膝をつき、バグだらけになった神社のログ画面を見つめる。
「くるるさん、後の修正パッチ当てるの僕なんだよ? 記憶の整合性取るのに、何時間かかると思ってるの……? 怖いんだよ、あの姿、本当に……。スイーツ、売り切れるじゃん……」
泣き言をこぼしながら、幽異は震える指でキーボードを叩き始める。
炎切り神社の一夜は、今夜も予定調和を無視して、不気味に、そして賑やかに更けていく。
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