異世界でもメイクがしたい

小鳥遊 沙織

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「信じられない!!この世界、化粧水もないの!?」

ユミは思わず声を張り上げた。ユミは数日前、仕事終わりに急に異世界の王宮に飛ばされた。ネットの広告でよく見る「異世界転移」というやつだ。もちろん主人公補正も最強設定も持っていないため、「異世界からの客人」とは名ばかりで質素な小部屋に押し込められている。

「ケショウスイ……?なんですかそれは」

聞き慣れない言葉に眉をひそめたのは、護衛のエミリア。護衛として王がユミに当てがったのだ。護衛といえば聞こえは良いが、実際はただの監視である。

「化粧水っていうのは……なんて言ったらいいかしら。肌の調子が良くなる水よ。皮膚に潤いを与えて肌荒れを防ぐの」

ユミは持ち前の乏しい語彙でなんとか説明をする。この世界は美容が未発達であった。化粧水も乳液もないし、ファンデやコンシーラー、コントロールカラーという概念もない。
それはメイクが大好きなユミにとって、耐えがたいことだった。

「あれ?この世界って魔法があるのよね?じゃあもしかして美容も魔法で色々してるの?」
「いえ、美しくなるためには骨格・肌色そのものを変えなければなりませんよね?とても人体に負担がかかる行為ですし、原則法で禁じられています。簡単に顔を変えられては個人の識別に関わりますし」

メイクの概念がないため、こちらの世界の美容は「骨格ごと変える」、整形のような発想にしか至らなかった。そもそも美容に対する意識の高さがユミの世界とはまるで違うのだ。すっぴんが「当たり前」なのだから。

「ウッ、ありえない、耐えられない!ハイライトもシェーディングはおろか、基礎化粧品(スキンケア用品)までないなんて!!クレンジングもないのよね!?」
「……?」

一人騒ぎ立てるユミに、エミリアは困惑した顔で首を傾げた。
ユミはふかふかなベッドにだらしなく寝転がり、考える。化粧品がなければ作ればいいじゃない、と。

「ねえエミリア」
「なんでしょうユミ」
「私、化粧品を作るわ。自分のために、貴女のために、この世界の女の子のために……そうよ、クマもシミも消せるし色白にも小顔にもなれるのよ。鼻だって高く見せられる。私たちはいくらでも美しくなれるんだわ!」

がばりと起き上がり、エミリアの手を取ってそう言った。エミリアはその丸い目をぱちぱちと瞬かせる。
──そして、この日からユミの化粧品作りは始まったのだ。このとき、彼女はまだ、異世界における化粧品作りの大変さをわかっていなかった。
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