6 / 28
一章 少年は英雄の夢を見る
少年は魔物の群れと戦う
しおりを挟む
「まずジン、今のお前のステータス、それとスキルを確認してみろ」
「分かった」
ステータス、と暗唱すると視界に半透明の表示が現れる。
ステータス
LV10 職業:戦士 種族:人族 性別:男
生命:F+ 持久:F- 敏捷:F 魔力:F+ 頑強:F 筋力:F+ 技量:F- 魅力:G 運:E-
スキル
“一般級”
【鑑定】【魔力感知】【魔力操作】【体術】
“特別級”
【多言語理解】
“固有”
【英雄伝説】
魔法
“火属性”
下級魔法
【ファイアーボール】
【ファイアーアロー】
“水属性”
下級魔法
【ヒール】
“風属性”
下級魔法
【ウインドブースト】
“土属性”
下級魔法
【ロックシールド】
“空間属性”
下級魔法
【アイテムポーチ】
上級魔法
【アイテムボックス】
ステータスには、生命・持久・敏捷・魔力・頑強・筋力・技量・魅力・運の九つが存在し、それぞれがGからSまでの値で表される。そして、GとFやBとAなどの間程のステータスの場合には+や-を使用して現す。
こうしてステータスやスキルを見ても、あまり実感が湧かない。昨日魔物を狩っている中で、アレクは僕にいろいろな魔法を教えてくれた。どうやら僕には基本属性である“火”“水”“風”“土”の全てに適正があったようで、色々な魔法を覚えることが出来たのは幸いだ。
この世界の魔法には大別すると二種類が存在する。一つは基本属性である“火”“水”“風”“土”の四属性。これらはそれぞれ得意とする魔法が異なる。
火属性の魔法は攻撃、水属性の魔法は回復、風属性の魔法は付与、土属性の魔法は防御、という風に決まっている。勿論火属性の魔法で回復や付与を行うことも出来るが、それぞれの得意な魔法と効果を比べると倍近く変わってしまう。
アレク曰く、普通の人は一つの属性の魔法しか扱えず、天才と言われる人達でさえ二つの属性の適正しか持っていないらしい。なので、四属性全ての魔法に適正があった僕は運がいい。
そして、大別した時のもう片方は特殊魔法だ。これには、“光”“闇”“空間”“無”等の基本四属性以外の魔法が含まれる。光や闇の魔法は教えてもらいたかったけれど、残念ながら僕には光属性と闇属性の適正は無かったので渋々諦めた。
ただ、僕にも空間属性の魔法は使うことが出来たので、アレクに教えてもらい、これだけは上級魔法まで覚えた。
それぞれの属性の魔法には下級から始まって、上級・超級・帝級・神級の五つのレベルの魔法がある。僕が覚えている魔法のほぼすべては最もレベルの低い下級魔法だ。それでも魔法は十分すぎるほどに強いので重宝しているけど。
「ジン、自分のステータスを確認して何かおかしいと感じる点は無かったか?」
「え~っと……あっ! スキルにランクが付いていること!」
「そうではない。お前に言っていなかったか? スキルにもアイテムと同様にランクがあると」
「言われてないと思うけど……」
「そうか、ならば軽く解説するとしよう――」
スキルにはそのスキルの効果内容に合わせてランク分けされるらしい。最もランクが低いのは一般級スキルで、それ以降は特別級スキル、独一級スキル、伝説級スキル、幻想級スキル、世界級スキル、神話級スキルの順にランクが上がるようだ。
また、ランクが高い程スキルの内容もより強力になるそうで、スキルは使用し続けたり、同系統のスキルを獲得することによってより強力なスキルへと“進化”することもあるらしい。
「へぇ……。って、そうじゃなくてさ、他に何かおかしい点なんて僕のステータスにあった?」
「気付かなかったのなら教えてやろう。お前の職業は“戦士”であろう、それならば何故、魔力の値が生命や筋力と同じF+なのであろうな?」
「あ……! 本当だ、戦士だから生命や筋力の値が高いのは分かるけど、魔力何て戦士とは程遠いステータスのはずなのに高い……」
「結論から言うと、ステータスには職業によって補正がかかる。例えば戦士であれば、生命・頑強・筋力のステータスに補正がかかる。だが、あくまで補正、そのステータスが他のステータスよりも高くなりやすいだけのことだ」
なるほど、それなら僕の生命と筋力の値が高いことには頷ける。でも、やっぱり魔力の値が高くなることの意味は分からない。
「それで、だ。ジン、お前はこれまで魔物とどうやって戦ってきた?」
「えーっと、魔物の動きを観察して、相手が隙を見せたら魔法を使って倒してたよ」
「それが答えだ」
「えっ?」
別に僕は昨日の戦いを振り返っただけで――。
「そういうことかっ! ステータスの成長にはその人の経験が繁栄されるんだね?」
「ガハ八ッ! その通りだッ! だから昨日魔法ばかりを使っていたジンのステータスでは魔力の値が高かったのだ」
「でも、どうして狩りの前にこんな話をしたのさ」
「それはだな、ジンにはしばらくの間筋力と技量のステータスを上げることに専念してもらうためだ。そのために魔法の使用はもちろん禁止だぞ」
「嘘でしょっ!? 僕、運動神経凄い悪いんだよ!? いきなり剣で戦え何て言われても絶対にむ――「無理ではない。つべこべ言わずにやれ」はい……」
半ば強引に押し切られ、僕はそれまで楽しみにしていた狩りが一気に億劫になってきた。既に宿屋に戻りたいという衝動に駆られているが、アレスに首根っこを掴まれており、アレスはぐんぐんと森の奥へと進んでいってしまうため僕は引き摺られる様にして森の中へと姿を消した。
♢♢♢
森の中は僕の想像していたものとは違った。森と言えば静かな物だとばかり考えていたが、あちらこちらから魔物と思しき鳴き声が聞こえてくる。
「まずジンには今朝方に言った気配を感じ取るスキルを教えてやろう。そこでじっとしていろ」
僕がその場で立ち尽くしていると、僕の視界が何かで遮られる。これは……何かの布だろうか? 僕がアレクに文句を言おうとすると、左耳に何かを詰められた。
「ちょ、ちょっとアレク!? 何してるんだよっ!」
「いいから黙って我の言う通りにやれ、そうすればスキルを取得できる。このまま右耳にも綿を詰める。その後は絶対に目隠しも、耳栓も取ってはならぬぞ、何があってもだ」
「ちょっと、まっ――!」
言うことだけ言い終えると、アレクはすぐさま僕の右耳の中にも綿を詰め込んでくる。これで完全に視覚も聴覚も奪われた。
一体僕はどうすれば……。
「いっ……!?」
そんなことを考えていると、右のふくらはぎに痛みが走る。何事かと思って下を向くが視界を塞がれているため何も見えない。足を思い切り振るが、僕の右ふくらはぎの痛みは増すばかりだ。
恐らくだけど僕の右ふくらはぎに魔物が噛みついているんだ、なら……!
腰に差しておいたガレスさんから貰った剣を抜き、右ふくらはぎの近くに突き刺す。剣先が確かに中に突き刺さった感触がある。同時に僕の右ふくらはぎにあった痛みも消えた。
「はぁ……はぁ……」
凄く痛い、それに、凄く怖い。何も見えないし、聞こえない。そんな状況でどこから来るか分からない攻撃にそなえることは途方もなく僕の心を怯えさせる。
今すぐ逃げ出したい。でも――。
「僕は逃げない……っ!」
痛む右ふくらはぎのことなど忘れ、型も何もない出鱈目な構えで剣を強く握り、胸の前で構える。この森のことはよく知らないが、あれだけ多くの魔物の鳴き声が聞こえたんだ、恐らく僕の足から流れている血の匂いを嗅ぎつけて魔物がさらにやってくるはず。
その時だ、視覚でも聴覚でもない。しいて言うならば第六感。それが僕の背後から飛び掛かってくる魔物の存在を教えてくれる。僕はその場を半歩右にズレると、まだ空中にいる魔物目掛けて思い切り剣を振り下ろした。
スキル【気配探知】を獲得しました。
また次の魔物にそなえて剣を正眼に構えようとしたところで、はらりと視界を覆っていた布が外された。驚いて振り返ると、いつもみたいに豪快な笑みを浮かべるアレクの姿が映る。
少しの間とはいえ暗闇の中に居た僕には目に入る光が眩しくて目を細めていると両耳の綿も抜き取られた。
「よくやったなッ! このスキルは取れれば有用なのだが、その過程で断念してしまう者も多い。ジンは恐怖に打ち勝ち、見事に【気配探知】をものにしたのだ」
「ありがとう、アレク」
照れ笑いを浮かべていると、木の影からこちらを窺っている魔物がいることに気配で気が付く。数は三、同時にこちらに向かってきているみたいだな。
「ガハ八ッ! どうやらもう【気配探知】を使いこなしているようだ。ジンは剣を扱うのは下手だからな、魔物との戦闘中にアドバイスしてやろう。だから存分に行くがいいッ!」
「頼んだよっ!」
僕は剣を抜き、その場で構える。徐々に近づいてくる魔物の気配、ほぼ同時だが若干右側から来ている魔物が速く僕の元に辿り着くはず、なら、先に潰す。
右を向いて待っていると、牙を剥きだしにした犬の魔物が現れる。僕は犬に集中し、【鑑定】を使用する。
名前は“フォレストドッグ”LVは6で僕よりも低い、これなら……!
「GLUAAAAAAAAA!!」
「はぁぁぁぁぁああっ!」
飛び掛かってくるフォレストドッグの側面に回り込みながら、奴が突っ込んでくる勢いを利用してフォレストドッグを真っ二つに斬り流した。
すると息つく暇もなく、二匹のフォレストドッグが襲い掛かってくる。二匹は僕を中心に周り同じタイミングで襲い掛かってくる。
「後ろに跳べッ! そうしたら剣を両手で強く握り、切っ先を相手に向けたまま肩の上で構えろッ! 犬っころ共がこちらへと攻め込んできた瞬間が最大の好機だッ!!」
「はいっ!」
僕は言われた通りに剣を構え、フォレストドッグの動きを観察する。フォレストドッグ達も僕の出方を窺うように膠着状態が続いたが、痺れを切らしたフォレストドッグの片割れが僕に向かって突進してきた。
今だっ!
僕は脚に力を込めると地面を蹴り、フォレストドッグに肉薄する。
「剣の間合いに入った瞬間に思い切り剣で突けッ!」
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
「GULUAAAAAAAAUッ!!」
間合いに入った瞬間、僕の剣はフォレストドッグの身体を貫いた。だけどまだ終わりじゃない。僕のすぐ右まで近づいていたフォレストドッグの牙が僕に剥きだされる。
「剣を右に薙ぎ払えッ! そのまま続けて剣を犬に向かって振り下ろすのだッ!」
「ふっ……!」
「GLUA!?」
こと切れたフォレストドッグの死体が突き刺さったままの剣を思い切り右側に振り抜き、迫り来ていたもう一匹のフォレストドッグを吹き飛ばす。まだ僕の剣は止まらない。右下にある剣を斜めに振り上げながらフォレストドッグを切り裂いた。
「G……LUAA……」
「ふぅ……何とか勝てた……」
僕は剣に突き刺さったままのフォレストドッグの死体を振り払うと、残りの二匹と共にまとめて【アイテムボックス】の中に放り込み、剣を鞘に納めた。
「……」
思わず自分の手を見る。今の戦闘、僕はあれだけ素早い動きをするフォレストドッグ相手に動けていた。とてもではないけど、にわかには信じ難い。僕は小学校の通知表では体育の実技が常に三角だった男だ。自分で言っていて悲しくなるけれど、僕は運動神経が悪い。それなのに今、僕は易々とフォレストドッグをいなし、勝つことが出来た。
「驚いているようだな」
「アレク、これは一体……」
「それがステータスの恩恵だ。初めてジンに出会った時にステータスを確認させてもらったが、全てのステータスが最低のG-だった。それが今ではどうだ、持久や敏捷、筋力のステータスがこの世界に来る前に比べて飛躍的に上昇している。だからお前はあれだけ動けたのだよ」
英雄になりたいと願い、アレクはそれを手伝うと言ってくれた。でも、やっぱり実感が湧いてこなかった。でも、今僕は確信した。
僕は……僕は確かに強くなっているんだ……!
「さあッ! どんどん魔物を狩りに行くぞッ! ジンッ!」
「うんっ!」
僕達は更に森の奥へと踏み込んでいく。本来の目的であった依頼のことなど忘れて。
「分かった」
ステータス、と暗唱すると視界に半透明の表示が現れる。
ステータス
LV10 職業:戦士 種族:人族 性別:男
生命:F+ 持久:F- 敏捷:F 魔力:F+ 頑強:F 筋力:F+ 技量:F- 魅力:G 運:E-
スキル
“一般級”
【鑑定】【魔力感知】【魔力操作】【体術】
“特別級”
【多言語理解】
“固有”
【英雄伝説】
魔法
“火属性”
下級魔法
【ファイアーボール】
【ファイアーアロー】
“水属性”
下級魔法
【ヒール】
“風属性”
下級魔法
【ウインドブースト】
“土属性”
下級魔法
【ロックシールド】
“空間属性”
下級魔法
【アイテムポーチ】
上級魔法
【アイテムボックス】
ステータスには、生命・持久・敏捷・魔力・頑強・筋力・技量・魅力・運の九つが存在し、それぞれがGからSまでの値で表される。そして、GとFやBとAなどの間程のステータスの場合には+や-を使用して現す。
こうしてステータスやスキルを見ても、あまり実感が湧かない。昨日魔物を狩っている中で、アレクは僕にいろいろな魔法を教えてくれた。どうやら僕には基本属性である“火”“水”“風”“土”の全てに適正があったようで、色々な魔法を覚えることが出来たのは幸いだ。
この世界の魔法には大別すると二種類が存在する。一つは基本属性である“火”“水”“風”“土”の四属性。これらはそれぞれ得意とする魔法が異なる。
火属性の魔法は攻撃、水属性の魔法は回復、風属性の魔法は付与、土属性の魔法は防御、という風に決まっている。勿論火属性の魔法で回復や付与を行うことも出来るが、それぞれの得意な魔法と効果を比べると倍近く変わってしまう。
アレク曰く、普通の人は一つの属性の魔法しか扱えず、天才と言われる人達でさえ二つの属性の適正しか持っていないらしい。なので、四属性全ての魔法に適正があった僕は運がいい。
そして、大別した時のもう片方は特殊魔法だ。これには、“光”“闇”“空間”“無”等の基本四属性以外の魔法が含まれる。光や闇の魔法は教えてもらいたかったけれど、残念ながら僕には光属性と闇属性の適正は無かったので渋々諦めた。
ただ、僕にも空間属性の魔法は使うことが出来たので、アレクに教えてもらい、これだけは上級魔法まで覚えた。
それぞれの属性の魔法には下級から始まって、上級・超級・帝級・神級の五つのレベルの魔法がある。僕が覚えている魔法のほぼすべては最もレベルの低い下級魔法だ。それでも魔法は十分すぎるほどに強いので重宝しているけど。
「ジン、自分のステータスを確認して何かおかしいと感じる点は無かったか?」
「え~っと……あっ! スキルにランクが付いていること!」
「そうではない。お前に言っていなかったか? スキルにもアイテムと同様にランクがあると」
「言われてないと思うけど……」
「そうか、ならば軽く解説するとしよう――」
スキルにはそのスキルの効果内容に合わせてランク分けされるらしい。最もランクが低いのは一般級スキルで、それ以降は特別級スキル、独一級スキル、伝説級スキル、幻想級スキル、世界級スキル、神話級スキルの順にランクが上がるようだ。
また、ランクが高い程スキルの内容もより強力になるそうで、スキルは使用し続けたり、同系統のスキルを獲得することによってより強力なスキルへと“進化”することもあるらしい。
「へぇ……。って、そうじゃなくてさ、他に何かおかしい点なんて僕のステータスにあった?」
「気付かなかったのなら教えてやろう。お前の職業は“戦士”であろう、それならば何故、魔力の値が生命や筋力と同じF+なのであろうな?」
「あ……! 本当だ、戦士だから生命や筋力の値が高いのは分かるけど、魔力何て戦士とは程遠いステータスのはずなのに高い……」
「結論から言うと、ステータスには職業によって補正がかかる。例えば戦士であれば、生命・頑強・筋力のステータスに補正がかかる。だが、あくまで補正、そのステータスが他のステータスよりも高くなりやすいだけのことだ」
なるほど、それなら僕の生命と筋力の値が高いことには頷ける。でも、やっぱり魔力の値が高くなることの意味は分からない。
「それで、だ。ジン、お前はこれまで魔物とどうやって戦ってきた?」
「えーっと、魔物の動きを観察して、相手が隙を見せたら魔法を使って倒してたよ」
「それが答えだ」
「えっ?」
別に僕は昨日の戦いを振り返っただけで――。
「そういうことかっ! ステータスの成長にはその人の経験が繁栄されるんだね?」
「ガハ八ッ! その通りだッ! だから昨日魔法ばかりを使っていたジンのステータスでは魔力の値が高かったのだ」
「でも、どうして狩りの前にこんな話をしたのさ」
「それはだな、ジンにはしばらくの間筋力と技量のステータスを上げることに専念してもらうためだ。そのために魔法の使用はもちろん禁止だぞ」
「嘘でしょっ!? 僕、運動神経凄い悪いんだよ!? いきなり剣で戦え何て言われても絶対にむ――「無理ではない。つべこべ言わずにやれ」はい……」
半ば強引に押し切られ、僕はそれまで楽しみにしていた狩りが一気に億劫になってきた。既に宿屋に戻りたいという衝動に駆られているが、アレスに首根っこを掴まれており、アレスはぐんぐんと森の奥へと進んでいってしまうため僕は引き摺られる様にして森の中へと姿を消した。
♢♢♢
森の中は僕の想像していたものとは違った。森と言えば静かな物だとばかり考えていたが、あちらこちらから魔物と思しき鳴き声が聞こえてくる。
「まずジンには今朝方に言った気配を感じ取るスキルを教えてやろう。そこでじっとしていろ」
僕がその場で立ち尽くしていると、僕の視界が何かで遮られる。これは……何かの布だろうか? 僕がアレクに文句を言おうとすると、左耳に何かを詰められた。
「ちょ、ちょっとアレク!? 何してるんだよっ!」
「いいから黙って我の言う通りにやれ、そうすればスキルを取得できる。このまま右耳にも綿を詰める。その後は絶対に目隠しも、耳栓も取ってはならぬぞ、何があってもだ」
「ちょっと、まっ――!」
言うことだけ言い終えると、アレクはすぐさま僕の右耳の中にも綿を詰め込んでくる。これで完全に視覚も聴覚も奪われた。
一体僕はどうすれば……。
「いっ……!?」
そんなことを考えていると、右のふくらはぎに痛みが走る。何事かと思って下を向くが視界を塞がれているため何も見えない。足を思い切り振るが、僕の右ふくらはぎの痛みは増すばかりだ。
恐らくだけど僕の右ふくらはぎに魔物が噛みついているんだ、なら……!
腰に差しておいたガレスさんから貰った剣を抜き、右ふくらはぎの近くに突き刺す。剣先が確かに中に突き刺さった感触がある。同時に僕の右ふくらはぎにあった痛みも消えた。
「はぁ……はぁ……」
凄く痛い、それに、凄く怖い。何も見えないし、聞こえない。そんな状況でどこから来るか分からない攻撃にそなえることは途方もなく僕の心を怯えさせる。
今すぐ逃げ出したい。でも――。
「僕は逃げない……っ!」
痛む右ふくらはぎのことなど忘れ、型も何もない出鱈目な構えで剣を強く握り、胸の前で構える。この森のことはよく知らないが、あれだけ多くの魔物の鳴き声が聞こえたんだ、恐らく僕の足から流れている血の匂いを嗅ぎつけて魔物がさらにやってくるはず。
その時だ、視覚でも聴覚でもない。しいて言うならば第六感。それが僕の背後から飛び掛かってくる魔物の存在を教えてくれる。僕はその場を半歩右にズレると、まだ空中にいる魔物目掛けて思い切り剣を振り下ろした。
スキル【気配探知】を獲得しました。
また次の魔物にそなえて剣を正眼に構えようとしたところで、はらりと視界を覆っていた布が外された。驚いて振り返ると、いつもみたいに豪快な笑みを浮かべるアレクの姿が映る。
少しの間とはいえ暗闇の中に居た僕には目に入る光が眩しくて目を細めていると両耳の綿も抜き取られた。
「よくやったなッ! このスキルは取れれば有用なのだが、その過程で断念してしまう者も多い。ジンは恐怖に打ち勝ち、見事に【気配探知】をものにしたのだ」
「ありがとう、アレク」
照れ笑いを浮かべていると、木の影からこちらを窺っている魔物がいることに気配で気が付く。数は三、同時にこちらに向かってきているみたいだな。
「ガハ八ッ! どうやらもう【気配探知】を使いこなしているようだ。ジンは剣を扱うのは下手だからな、魔物との戦闘中にアドバイスしてやろう。だから存分に行くがいいッ!」
「頼んだよっ!」
僕は剣を抜き、その場で構える。徐々に近づいてくる魔物の気配、ほぼ同時だが若干右側から来ている魔物が速く僕の元に辿り着くはず、なら、先に潰す。
右を向いて待っていると、牙を剥きだしにした犬の魔物が現れる。僕は犬に集中し、【鑑定】を使用する。
名前は“フォレストドッグ”LVは6で僕よりも低い、これなら……!
「GLUAAAAAAAAA!!」
「はぁぁぁぁぁああっ!」
飛び掛かってくるフォレストドッグの側面に回り込みながら、奴が突っ込んでくる勢いを利用してフォレストドッグを真っ二つに斬り流した。
すると息つく暇もなく、二匹のフォレストドッグが襲い掛かってくる。二匹は僕を中心に周り同じタイミングで襲い掛かってくる。
「後ろに跳べッ! そうしたら剣を両手で強く握り、切っ先を相手に向けたまま肩の上で構えろッ! 犬っころ共がこちらへと攻め込んできた瞬間が最大の好機だッ!!」
「はいっ!」
僕は言われた通りに剣を構え、フォレストドッグの動きを観察する。フォレストドッグ達も僕の出方を窺うように膠着状態が続いたが、痺れを切らしたフォレストドッグの片割れが僕に向かって突進してきた。
今だっ!
僕は脚に力を込めると地面を蹴り、フォレストドッグに肉薄する。
「剣の間合いに入った瞬間に思い切り剣で突けッ!」
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
「GULUAAAAAAAAUッ!!」
間合いに入った瞬間、僕の剣はフォレストドッグの身体を貫いた。だけどまだ終わりじゃない。僕のすぐ右まで近づいていたフォレストドッグの牙が僕に剥きだされる。
「剣を右に薙ぎ払えッ! そのまま続けて剣を犬に向かって振り下ろすのだッ!」
「ふっ……!」
「GLUA!?」
こと切れたフォレストドッグの死体が突き刺さったままの剣を思い切り右側に振り抜き、迫り来ていたもう一匹のフォレストドッグを吹き飛ばす。まだ僕の剣は止まらない。右下にある剣を斜めに振り上げながらフォレストドッグを切り裂いた。
「G……LUAA……」
「ふぅ……何とか勝てた……」
僕は剣に突き刺さったままのフォレストドッグの死体を振り払うと、残りの二匹と共にまとめて【アイテムボックス】の中に放り込み、剣を鞘に納めた。
「……」
思わず自分の手を見る。今の戦闘、僕はあれだけ素早い動きをするフォレストドッグ相手に動けていた。とてもではないけど、にわかには信じ難い。僕は小学校の通知表では体育の実技が常に三角だった男だ。自分で言っていて悲しくなるけれど、僕は運動神経が悪い。それなのに今、僕は易々とフォレストドッグをいなし、勝つことが出来た。
「驚いているようだな」
「アレク、これは一体……」
「それがステータスの恩恵だ。初めてジンに出会った時にステータスを確認させてもらったが、全てのステータスが最低のG-だった。それが今ではどうだ、持久や敏捷、筋力のステータスがこの世界に来る前に比べて飛躍的に上昇している。だからお前はあれだけ動けたのだよ」
英雄になりたいと願い、アレクはそれを手伝うと言ってくれた。でも、やっぱり実感が湧いてこなかった。でも、今僕は確信した。
僕は……僕は確かに強くなっているんだ……!
「さあッ! どんどん魔物を狩りに行くぞッ! ジンッ!」
「うんっ!」
僕達は更に森の奥へと踏み込んでいく。本来の目的であった依頼のことなど忘れて。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる