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四話 トマトジュース
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僕たちは殺してほしいという女性が来るまで何もしなかった。
時計がないからといってわざわざ携帯で確認するということもしなかったし、学校には外が明るくなってから一日だけ行ったけど、着いたときには一時間目は終わっていた。
二時間目が始まるチャイムと同時に教室に入ったから、クラスメイトの多くの注目を浴びてかなり気まずかった。
先生はもう僕の存在を半ば無視しているから逆にそれでありがたいんだけど。
好奇の目というのはどこにでもあるものだ。
言い訳がましく聞こえるかもしれないけど、僕と山田くんの家は歩いて四十分か五十分くらいの距離があって、学校は僕の家の方面にあるから、学校まで行くのも必然的に遅くなった。
それに制服と通学カバン、教科書を取りに行かないといけないからさらに遅くなった。
だからといって早めに山田くんの家を出るなんてことは全くする気がないし、高校は卒業できればそれでいいから、いろんなところをかなりおざなりにしてしまっている。
僕たちは、たぶん朝に朝ご飯を食べて、たぶん昼に昼ご飯を食べて、その後は何も口にしなかった。
夜ご飯を食べない理由は、お腹が空かないのと作るのが面倒くさいというので半々。
外が暗くなったら一緒にお風呂に入って、それから無駄に広いベッドで寝るというただそれだけの単調な生活。
僕たちは、食事と睡眠以外の時間はリビングのソファーに座って瞑想している。
まあ瞑想っていうと響きが良すぎるか。
居眠りに近い。
ソファーは二つあるんだから一人一つ使えばいいのに、山田くんはいつも僕が座るソファーに無理矢理座ってくる。
実際このソファーは一人用だし、結構きつくて暑い。
山田くんの家だから僕は何も言わないけどさあ。
季節は梅雨。
もう六月に入り、気温も今日は最高で30度を超えるらしい。汗が止まらねえ。
朝ご飯を食べたときにNHKニュースの男性アナウンサーが言っていた。
しばらくうだうだしていたら、家の呼び鈴が鳴った。
外はもうすぐ暗くなる。
「俺、出てきます。」
呼び鈴で起きた山田くんが立ち上がって玄関に向かった。
ドアを開けると、二十代に見える女性が一人。
水色のウィンドブレーカーに黒い半ズボン。ワークキャップをかぶっていることからなんちゃってキャンプと名付けてあげた。
今にもBBQだのキャンプファイアーだの言いそうだ。
そんなわけない。
一言、二言の会話を交わした後で、山田くんとなんちゃってがこちらに歩いてきた。
もう面倒くさいから以下キャンプ省略。
ソファーに座っていた僕は席を譲るために立つ。
その瞬間、彼女と目が合った。
遠慮がちな目。
僕はどうでもよさそうに、というかどうでもいいので、すぐに目をそらして紅茶を淹れるためにキッチンに行った。
「どうぞ。」
「…ありがとうございます。」
なんちゃっての前に紅茶のカップを置いた。
でも、それを飲もうとはしない。
山では水分が大事だからかな。
「俺は山田翔太です。中学二年生。一人暮らしです。」
山田くんが自己紹介コーナーを設ける。
世界一無駄な時間だ。
「あ、なんちゃってです。二十四歳です。よろしくお願いします。」
彼女の名前を覚える気はないし、意味もないので、勝手になんちゃってに脳内変換する。
お互いの自己紹介を終えると、山田くんが僕のときと同じように殺傷道具を取り出してきた。
順番に机に置いていく。
「どれがいいですか?」
明らかになんちゃっての顔がこわばったのが分かった。
「えっと…。」
なかなか答えようとしない。
怯えているのか、目は忙しなく動き、口はだらしなく半開きになっていた。
なんかイライラする顔だからキャベツでも口に突っ込んでやろうかと思ったけど、なけなしの理性が働いたのでやめた。
そして、ようやく答えが出たようだった。
なんちゃってが口を開く。
「私…すいません、帰ります。」
僕と同じく選択肢外を選んだ。
なんちゃってがゆっくりと立ち上がる。
突っ立っていた僕とぶつかりそうになって、会釈しながら避けようとした。
だけど、山田くんがそれを許さなかった。
左手で包丁を掴み、右手で彼女の腕を掴んだ。
「このまま了解するわけないですよね?」
当事者じゃない僕は呑気に怖いなあとか左利きなんだとか思う。
ハンマーは右手で持っていたような。
山田くんが包丁を振りかざすと、なんちゃっての首からフリードリンク(トマトジュース限定)が噴き出した。
僕にも一部血がかかる。うええ。
なんちゃっては山田くんの一撃によって、地面に崩れ落ちる。
雑魚すぎるよ。
僕たちは魚のエサを見下ろした。
勝者の優越。
声を上げる暇もなくあっけなく死んで、彼女は最期に何を思ったんだろうか。
やっぱり死ねてよかった?
葬式は盛大にお願いします?
来世はトマトになります?
キャンプ、もしくは登山の帰りみたいな服を着たエサは驚いた表情をしていて、最期に何を思ったかなんて僕には分からなかった。
それから、山田くんと一緒になんちゃってを殺人部屋に運んだ。
死んだ人間ってものすごく重い。
ただなんちゃってが太っていただけかもしれないけど。
首から大量出血していて、それが流れ出たからか、リビングから殺人部屋までの十メートルくらいある床に引きずった跡ができちゃったけどそれは後で拭くとして。
引きこもりで体力のない僕たちはエサを運ぶだけで息が上がって、その日はそれ以上何もできずに殺人部屋で寝落ちした。
時計がないからといってわざわざ携帯で確認するということもしなかったし、学校には外が明るくなってから一日だけ行ったけど、着いたときには一時間目は終わっていた。
二時間目が始まるチャイムと同時に教室に入ったから、クラスメイトの多くの注目を浴びてかなり気まずかった。
先生はもう僕の存在を半ば無視しているから逆にそれでありがたいんだけど。
好奇の目というのはどこにでもあるものだ。
言い訳がましく聞こえるかもしれないけど、僕と山田くんの家は歩いて四十分か五十分くらいの距離があって、学校は僕の家の方面にあるから、学校まで行くのも必然的に遅くなった。
それに制服と通学カバン、教科書を取りに行かないといけないからさらに遅くなった。
だからといって早めに山田くんの家を出るなんてことは全くする気がないし、高校は卒業できればそれでいいから、いろんなところをかなりおざなりにしてしまっている。
僕たちは、たぶん朝に朝ご飯を食べて、たぶん昼に昼ご飯を食べて、その後は何も口にしなかった。
夜ご飯を食べない理由は、お腹が空かないのと作るのが面倒くさいというので半々。
外が暗くなったら一緒にお風呂に入って、それから無駄に広いベッドで寝るというただそれだけの単調な生活。
僕たちは、食事と睡眠以外の時間はリビングのソファーに座って瞑想している。
まあ瞑想っていうと響きが良すぎるか。
居眠りに近い。
ソファーは二つあるんだから一人一つ使えばいいのに、山田くんはいつも僕が座るソファーに無理矢理座ってくる。
実際このソファーは一人用だし、結構きつくて暑い。
山田くんの家だから僕は何も言わないけどさあ。
季節は梅雨。
もう六月に入り、気温も今日は最高で30度を超えるらしい。汗が止まらねえ。
朝ご飯を食べたときにNHKニュースの男性アナウンサーが言っていた。
しばらくうだうだしていたら、家の呼び鈴が鳴った。
外はもうすぐ暗くなる。
「俺、出てきます。」
呼び鈴で起きた山田くんが立ち上がって玄関に向かった。
ドアを開けると、二十代に見える女性が一人。
水色のウィンドブレーカーに黒い半ズボン。ワークキャップをかぶっていることからなんちゃってキャンプと名付けてあげた。
今にもBBQだのキャンプファイアーだの言いそうだ。
そんなわけない。
一言、二言の会話を交わした後で、山田くんとなんちゃってがこちらに歩いてきた。
もう面倒くさいから以下キャンプ省略。
ソファーに座っていた僕は席を譲るために立つ。
その瞬間、彼女と目が合った。
遠慮がちな目。
僕はどうでもよさそうに、というかどうでもいいので、すぐに目をそらして紅茶を淹れるためにキッチンに行った。
「どうぞ。」
「…ありがとうございます。」
なんちゃっての前に紅茶のカップを置いた。
でも、それを飲もうとはしない。
山では水分が大事だからかな。
「俺は山田翔太です。中学二年生。一人暮らしです。」
山田くんが自己紹介コーナーを設ける。
世界一無駄な時間だ。
「あ、なんちゃってです。二十四歳です。よろしくお願いします。」
彼女の名前を覚える気はないし、意味もないので、勝手になんちゃってに脳内変換する。
お互いの自己紹介を終えると、山田くんが僕のときと同じように殺傷道具を取り出してきた。
順番に机に置いていく。
「どれがいいですか?」
明らかになんちゃっての顔がこわばったのが分かった。
「えっと…。」
なかなか答えようとしない。
怯えているのか、目は忙しなく動き、口はだらしなく半開きになっていた。
なんかイライラする顔だからキャベツでも口に突っ込んでやろうかと思ったけど、なけなしの理性が働いたのでやめた。
そして、ようやく答えが出たようだった。
なんちゃってが口を開く。
「私…すいません、帰ります。」
僕と同じく選択肢外を選んだ。
なんちゃってがゆっくりと立ち上がる。
突っ立っていた僕とぶつかりそうになって、会釈しながら避けようとした。
だけど、山田くんがそれを許さなかった。
左手で包丁を掴み、右手で彼女の腕を掴んだ。
「このまま了解するわけないですよね?」
当事者じゃない僕は呑気に怖いなあとか左利きなんだとか思う。
ハンマーは右手で持っていたような。
山田くんが包丁を振りかざすと、なんちゃっての首からフリードリンク(トマトジュース限定)が噴き出した。
僕にも一部血がかかる。うええ。
なんちゃっては山田くんの一撃によって、地面に崩れ落ちる。
雑魚すぎるよ。
僕たちは魚のエサを見下ろした。
勝者の優越。
声を上げる暇もなくあっけなく死んで、彼女は最期に何を思ったんだろうか。
やっぱり死ねてよかった?
葬式は盛大にお願いします?
来世はトマトになります?
キャンプ、もしくは登山の帰りみたいな服を着たエサは驚いた表情をしていて、最期に何を思ったかなんて僕には分からなかった。
それから、山田くんと一緒になんちゃってを殺人部屋に運んだ。
死んだ人間ってものすごく重い。
ただなんちゃってが太っていただけかもしれないけど。
首から大量出血していて、それが流れ出たからか、リビングから殺人部屋までの十メートルくらいある床に引きずった跡ができちゃったけどそれは後で拭くとして。
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