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久しぶり
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なんてくだらないことを抱きしめられたまま考えていると、唐突に教会の奥から何かが倒れる音が響く。ガシャーン! という音と、何かが連鎖して倒れるような感じだ。
驚いて立ち上がる。音はすぐにやんで、再び静寂が教会内を満たした。
「何だろう? 誰かいるのか? 居るならマリーさんが教えてくれてそうだけど」
「さあ、教会に泥棒に入るという罰当たりは居ないとは思うが、確認しにいくぞ」
「分かった。この音、多分庭の方かな」
さっきのふにゃふにゃはどこへやら、アルは固い表情で、教会の居住スペースへ向かう。
礼拝堂を抜け、扉が連なる廊下に出る。白い壁には子供が描いたのだろう落書きがあったり、ところどころ塗り直したように、色が変わっている。大人数で暮らしてる賑やかさが、声も無いのに伝わってきた。
どこが何の部屋か分からないから、俺はアルの後ろをついていくしかない。庭への扉も俺は知らない。
足早に進み、アルは大きな両開きの扉前で足を止める。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開いて外の様子を確認して、動きが止まった。
「アル?」
「なんだ、あれ……って、わ、ちょっ」
お前が邪魔で見えない。アルの背中を押して、無理やり中から外へ追い出す。警戒心が強いのは結構だが、時には思い切りも必要だ。
教会裏は青々とした芝生が植えられ、物干し台やボールなどが転がっていた。周囲は背の高い生垣で覆われ、その根元は濃い影で黒に染まっていた。
いや、違うな。影に混じって黒い生き物がいる。
「……ぴゅー太?」
「え?」
俺に押されて転がっていたアルが起き上がる。後で謝ろう。許せ。
生垣の影に近い部分。洗濯物を引っ掛けたままうずくまっていた何かの生物が、俺の声に反応し顔を上げた。
物干し台にでもつっこんだのか、はたまた移動しようとして引っかかったのか、いや、そもそもこの大きさの生き物が誰にも見つからずここまでこれるものだろうか。
人が一人乗れそうなほどの大きさになったぴゅー太(仮名)は、黒い翼を折り畳み小さな唸り声を上げる。
犬っぽかった顔は、竜に近い形状に変化していた。毛は相変わらずもふもふしている。グリフォンに似ているかもしれない。
俺が脅かさないようにゆっくり地下ずくと、ぴゅー太の目が一瞬赤く染まり、すぐに深い青に変わる。感情で変化をするのだろうか。
「ユーリ、危ないんじゃないか?」
「あの子なら大丈夫だ。それに、あの男から逃げてきたのかもしれないし、気になる」
そう、クラウスとかいう野郎からな。あいつにいじめられたから怯えているのかもしれない。俺は虫や爬虫類は苦手だが、こういう生き物は大好きだ。全力で贔屓する。
すでに手が届きそうな距離だが、ぴゅー太は動く気配がない。
そろりと手を伸ばし、鼻先に触れる。少し撫でると、ぐるぐると喉が鳴るのが分かった。猫要素もあるのかお前。
でかくなってるが、やっぱりあの子だ。この人懐っこい感じと、目でわかる。
「本当にあの子なのか? 博士のところの子だよね」
「おそらくそうだ。あいつ、嘘ついていたようだな」
「嘘?」
「こいつが魔石で動く機械だなんて、機械が成長するわけない」
「改造した、わけないか……」
あいつ、やはり生物実験をしていたのではないか、この子も検体なのだとしたらとりあえず保護して、父に助けを求めたいところだ。使えるものはなんとやらである。
頭を摺り寄せてくる姿はあの頃のままだ。可愛い。両手を使って撫でるが、それでも足りない。俺はどうやら、動物が不足していたらしい。必要な栄養素だ。
「ん? ユーリ、これ」
アルがぴゅー太の首の下、胸の辺りを指さす。
一度体を離し、視線をそちらへ向けると赤い石のようなものが見えた。何か確認しようと屈んだ瞬間、唐突にぴゅー太が立ち上がり後ずさる。
大きなかぎ爪が地面を抉って、芝生の下の土をあらわにした。洗ったばかりのタオルが宙を舞い、荒れた芝生の上にひらひらと落ちていく。
「ぎゃうぅ……!」
「すまない、驚かしたか? ちょっとそれを見せて……」
警戒して毛を逆立てたぴゅー太は、一度翼を広げると低く呻った。黒くて大きくて、アルが好きそうな翼だ。
そしてドロリと体が溶け、芝生に落ちた影に混ざって跡形もなく消えた。
後に残されたのは、あの子が倒したと思わしき物干し台と汚れた洗濯物だ。
そういえば以前も影の中にもぐって消えたな。これがぴゅー太の能力なのだとしたら、逃げるには持って来いだ。だが、まだこの街に居るということは逃げられていない、あるいは逃げたいわけではないのだろうか。
しかしどうしてこんな所に、前も変なところにいたし適当に動き回っている可能性もある。お散歩というわけだ。
「前より警戒心強くなってるね」
「ああ、……心配、だな」
胸の石みたいなやつ、前は無かったと記憶している。あれがぴゅー太が進化した結果出来たものとうのも、ポケットなモンスターじゃあるまいし考えにくい。
そして、クラウスは以前生物に魔石を埋め込む実験をしていたと噂がある。考えれば考える程嫌な予感がした。
「うん。何もされてないと良いんだけど」
アルもあの男に不信感を持っているらしい。父が時間ある時を狙って、話をしてみよう。ただ、疑いだけでは何もできない。どうしたものか、俺がただの学生なのも弱い。
はっとして辺りを見回す。まずい。でかい生き物が暴れたから、子供たちの遊び場が酷いことになっていた。
「あのさ……洗濯もの、やり直しかな」
「だろうな、この時間からは……」
神父さんたちに、なんて説明しよう。
驚いて立ち上がる。音はすぐにやんで、再び静寂が教会内を満たした。
「何だろう? 誰かいるのか? 居るならマリーさんが教えてくれてそうだけど」
「さあ、教会に泥棒に入るという罰当たりは居ないとは思うが、確認しにいくぞ」
「分かった。この音、多分庭の方かな」
さっきのふにゃふにゃはどこへやら、アルは固い表情で、教会の居住スペースへ向かう。
礼拝堂を抜け、扉が連なる廊下に出る。白い壁には子供が描いたのだろう落書きがあったり、ところどころ塗り直したように、色が変わっている。大人数で暮らしてる賑やかさが、声も無いのに伝わってきた。
どこが何の部屋か分からないから、俺はアルの後ろをついていくしかない。庭への扉も俺は知らない。
足早に進み、アルは大きな両開きの扉前で足を止める。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開いて外の様子を確認して、動きが止まった。
「アル?」
「なんだ、あれ……って、わ、ちょっ」
お前が邪魔で見えない。アルの背中を押して、無理やり中から外へ追い出す。警戒心が強いのは結構だが、時には思い切りも必要だ。
教会裏は青々とした芝生が植えられ、物干し台やボールなどが転がっていた。周囲は背の高い生垣で覆われ、その根元は濃い影で黒に染まっていた。
いや、違うな。影に混じって黒い生き物がいる。
「……ぴゅー太?」
「え?」
俺に押されて転がっていたアルが起き上がる。後で謝ろう。許せ。
生垣の影に近い部分。洗濯物を引っ掛けたままうずくまっていた何かの生物が、俺の声に反応し顔を上げた。
物干し台にでもつっこんだのか、はたまた移動しようとして引っかかったのか、いや、そもそもこの大きさの生き物が誰にも見つからずここまでこれるものだろうか。
人が一人乗れそうなほどの大きさになったぴゅー太(仮名)は、黒い翼を折り畳み小さな唸り声を上げる。
犬っぽかった顔は、竜に近い形状に変化していた。毛は相変わらずもふもふしている。グリフォンに似ているかもしれない。
俺が脅かさないようにゆっくり地下ずくと、ぴゅー太の目が一瞬赤く染まり、すぐに深い青に変わる。感情で変化をするのだろうか。
「ユーリ、危ないんじゃないか?」
「あの子なら大丈夫だ。それに、あの男から逃げてきたのかもしれないし、気になる」
そう、クラウスとかいう野郎からな。あいつにいじめられたから怯えているのかもしれない。俺は虫や爬虫類は苦手だが、こういう生き物は大好きだ。全力で贔屓する。
すでに手が届きそうな距離だが、ぴゅー太は動く気配がない。
そろりと手を伸ばし、鼻先に触れる。少し撫でると、ぐるぐると喉が鳴るのが分かった。猫要素もあるのかお前。
でかくなってるが、やっぱりあの子だ。この人懐っこい感じと、目でわかる。
「本当にあの子なのか? 博士のところの子だよね」
「おそらくそうだ。あいつ、嘘ついていたようだな」
「嘘?」
「こいつが魔石で動く機械だなんて、機械が成長するわけない」
「改造した、わけないか……」
あいつ、やはり生物実験をしていたのではないか、この子も検体なのだとしたらとりあえず保護して、父に助けを求めたいところだ。使えるものはなんとやらである。
頭を摺り寄せてくる姿はあの頃のままだ。可愛い。両手を使って撫でるが、それでも足りない。俺はどうやら、動物が不足していたらしい。必要な栄養素だ。
「ん? ユーリ、これ」
アルがぴゅー太の首の下、胸の辺りを指さす。
一度体を離し、視線をそちらへ向けると赤い石のようなものが見えた。何か確認しようと屈んだ瞬間、唐突にぴゅー太が立ち上がり後ずさる。
大きなかぎ爪が地面を抉って、芝生の下の土をあらわにした。洗ったばかりのタオルが宙を舞い、荒れた芝生の上にひらひらと落ちていく。
「ぎゃうぅ……!」
「すまない、驚かしたか? ちょっとそれを見せて……」
警戒して毛を逆立てたぴゅー太は、一度翼を広げると低く呻った。黒くて大きくて、アルが好きそうな翼だ。
そしてドロリと体が溶け、芝生に落ちた影に混ざって跡形もなく消えた。
後に残されたのは、あの子が倒したと思わしき物干し台と汚れた洗濯物だ。
そういえば以前も影の中にもぐって消えたな。これがぴゅー太の能力なのだとしたら、逃げるには持って来いだ。だが、まだこの街に居るということは逃げられていない、あるいは逃げたいわけではないのだろうか。
しかしどうしてこんな所に、前も変なところにいたし適当に動き回っている可能性もある。お散歩というわけだ。
「前より警戒心強くなってるね」
「ああ、……心配、だな」
胸の石みたいなやつ、前は無かったと記憶している。あれがぴゅー太が進化した結果出来たものとうのも、ポケットなモンスターじゃあるまいし考えにくい。
そして、クラウスは以前生物に魔石を埋め込む実験をしていたと噂がある。考えれば考える程嫌な予感がした。
「うん。何もされてないと良いんだけど」
アルもあの男に不信感を持っているらしい。父が時間ある時を狙って、話をしてみよう。ただ、疑いだけでは何もできない。どうしたものか、俺がただの学生なのも弱い。
はっとして辺りを見回す。まずい。でかい生き物が暴れたから、子供たちの遊び場が酷いことになっていた。
「あのさ……洗濯もの、やり直しかな」
「だろうな、この時間からは……」
神父さんたちに、なんて説明しよう。
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