悪役令息さん総受けルートに入る

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女神(男)

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「んじゃ、まず現状説明な。お前らしゃきっとしろしゃきっと!」
 客間まで戻ってきた後、緊張感から解き放たれソファでだらけはじめた俺たちに、カイル先輩の喝が飛ぶ。
 体が沈み込むような座り心地のソファに全身を預けていた俺は、胡乱な目で先輩の方を向いた。百年くらい休みたい。
 全員が自分の方を向いたのを確認したカイル先輩は、胸から小さな魔石の埋め込まれたペンを取り出した。
 万年筆にも似たそれは、魔石部分に指を添えるとふわりと何かの映像が浮かぶ。ヴィルが持っていた投影機のようなものだろう。
 スローモーションで流れだしたのは、魔獣の姿だ。世界樹を襲う姿を撮影したものだろうか、狼のような魔獣と戦う兵士の姿も見えた。
 襲い掛かる魔獣を剣で斬るが、魔獣の傷はみるみる治り元通りになっていく。まるで逆再生のようだ。
 この魔獣、普通の魔獣と違い体に魔石のようなものがこびりついている。岩石が魔獣に変化したものにしては、獣の特徴のが目立つ。それに、硬化している個所がばらばらで、よく見ると魔獣の種類もランダムだ。獣型も居れば、爬虫類型も居る。
「この魔獣、魔石病かな」
「でも魔獣で魔石病は聞いたことがありませんよ」
「ユーリが話しかけてくれるなんて嬉しいな」
「今そういうの要りません」
「ま、まあまあもう少し見てろって」
 言われるがまま、俺とヴィルは口を閉ざし再び魔獣を追いかける。
 草むらに転がった魔獣の腹に、赤く光る個所がある。そこも魔石で覆われているのだが明らかに他と様子が違う。
 魔獣が体勢を立て直した次の瞬間、光の矢がそこを貫く。
「体が、消えた?」
 アルの声に、カイル先輩が頷く。
 赤い場所が砕けたと同時に、魔獣の体が粉のようになって空中に消えていった。
「そう、こいつらは弱点以外は再生しちまうが、今みたいにコアを狙えばすぐに倒せる」
 消えるのか、魔石が本体ということだろうか。生物ではなく、幻影のようなもの? にしては質量があるように見えた。
「何体か捕まえて調べようとしたんだが、捕獲と同時に勝手にコアが割れて消えた。捕まったら勝手に割れるように設定されているか、こいつらを操っている奴がいるかだろうって話だ」
「でも、もう世界樹のところ入って来れないんでしょ?」
「世界樹のとこには来れないかもしれないが、俺たちが襲われる可能性はある。知っておいた方が良いから共有した」
 襲われる、と聞いてクロエが面倒臭いとでも言いたげに目を側める。
「犯人の目星、ついてないんですか?」
「そこまでは言えないな。俺たちがやるべきことは、世界樹の修復と衰弱の原因調査。知る必要はない情報だ」
「余計なことは考えるなってことですね」
「そうだ。特にユーリ」
 別に犯人捜しなんてしようとは思っていない。
 よく考えたら、スタジュエのユーリ死亡ルートからは逃れられたわけだ。なのにわざわざ死地に飛び込む真似はしない。
 俺の目標はあくまで二十歳を越えることだ。後の人生はオマケである。
 だが、最近魔獣に魔石を、という話を聞いたなぁとどうしても頭に浮かぶ。
 安直すぎるだろうか、クラウス博士。貴方の研究成果として残されてはいないが、生物への魔石移植の研究を行い学会から怒られた記事は残っている。
 彼はその後、方針を変えたには変えたが、その研究資料が悪用されている可能性はある。本人か、あるいはその近しい人間か。
 まあ、俺のような学生が思いつくことなど国を支える方々がたどり着かないわけがない。アクションがないというのは、つまりは無実。はたまた調査中だろう。
「さて、休んでないでそろそろ行くぞ。ユーリ、さっきの箱を貸してくれ」
「はい」
 ソファから立ち上がって、カイル先輩に箱を渡す。
 ぱか、と開いたその中心には、銀の指輪が鎮座していた。シンプルな無地のそれには、世界樹の指輪という割に何の細工も施されていない。
 他の三人も先輩の周りに集まる。こうしていると部活動してるみたいだな。俺は部活なんてやったことないが、悠太はある。経験はないが記憶はあるってなんか悲しいな。
「この指輪、魔力を流し込むと、こう」
「あ、緑になった」
「んで、この時に誰と行きたいか頭に浮かべると自分以外も世界樹の庭にいける」
「転送装置ですか」
「ああ、帰る時は、扉からでも良いしもっかい魔力を流せば元の場所に帰れる。あと、世界樹の庭には城内からも行けるが、この指輪が無いと入れないからな」
 言いながら、先輩は俺の手を取る。あまりに自然な動作だったので、俺も何も考えず先輩に先を任せた。
「どの指が良い? サイズは後で勝手に調節されるから気にしなくて大丈夫だぜ」
「カイル、自分でつけさせればいいと思うよ?」
「そうですよ。あ、ユーリが面倒だっていうなら俺が」
 面倒だなこいつら。怪訝な顔をしているカイル先輩から指輪を取って、右の人差し指にはめた。
 この世界でも、婚約指輪というものは存在している。ただし指は薬指ではなく小指だ。
 指輪に魔力を集中して、まぶたを伏せる。
「これで、四人で行く、と念じる感じですか?」
「お前含めて五人だ」
「ユーリ、誰かはぶこうとした?」
 した。ヴィルは置いていきたい。そんな感情が出てしまった。
 後でとやかく言われるのも面倒だ。しぶしぶだが、五人と頭に浮かべた。

 音が遠のき、足元が揺らいだ直後、空気が変わる。

 生命の気配が近い。呼吸をするたび、清らかで透き通った空気が肺を満たし、体に染みわたる。
 さわさわと葉が揺れる音に、閉じていたまぶたをひらいた。陽光を透かした鮮やかな緑が頭上に広がり、その隙間からは光が零れ俺たちに降り注いでいた。
 目の前に存在する巨木は太陽を覆い隠し、天を目指すようにどこまでも上に伸びている。遠くから見たことはあったが、近くで見ると木という認識ができないほど圧を感じた。
 周囲を確認するため振り返る。
 足元には青々とした草が生え、倉庫で見た絵画を思い起こさせた。
 四方を石壁で囲まれ、窮屈さを覚える空間のはずなのに、あまりにも空気が良いものだからここが城の中なのを忘れそうだ。
 高い壁の一部はガラスがはめ込まれ、そこから世界樹を見ることができるようだ。あそこが監視用の一室なのかは、ここからでは分からない。
 王城の一部は一般開放され、観光名所のような扱いになっている。その為、改修工事を行い観光用の一部だけ妙に近代化されている。
 それ以外が古臭くて今にも崩れそう、ということはなく、綺麗に管理され歴史を感じさせる風格を残している。ここは、その中でももっとも古い歴史の場所だろう。
「ユーリ、遅いよ」
 耳に届いた聞きなれない声に、俺は世界樹へと視線を移す。
 そこにいたのは、ふわふわと宙に浮いた。――男性だった。
 白い修道服、葉を最も陽に透かしたような薄い緑色の髪の毛。慈愛すら感じさせる笑顔。
 いや、誰?
「ユーリ、女神の声は聞こえるか?」
「女神は居ませんね」
「失礼な。ここにいる。きみたちに合わせて性別を変えてみたよ、どう?」
 愛らしい少女が、笑顔がメロい感じの男性になっている。メロいの使い方あってるかは知らない。俺は令和日本人ではないので、今初めて使った。
「女神、はいない」
「なにがいるのー、おれたちは見えないんだけどー」
 俺は間違ってない。女神は居ない。女の姿じゃない場合、神になるのか? 男神? なんでこいつ俺に合わせたんだ? と頭に疑問を浮かべていると、唐突に思い出した。
 こいつ、隠し攻略キャラだ。たしか、戦闘があまりにもクリアできないとか、攻略キャラとのイベント全スルーすると現れるはず。条件がはっきり思い出せない。ゲームオーバー回数だった気もしてきた。
 悠太が、こいつがあまりにも強すぎるから使わないと決めたせいで、ナビゲーターキャラの認識が強い。
 現実はゲームオーバーしたら帰って来れないので、絶対叶わないルートである。
「神? が、俺に合わせて男の姿になった」
「なにそれどういう気遣い?」
「そこに居るには居るってこと? ど、どうしよう。頭下げておく? お祈りする?」
 アルに比べてクロエの態度のでかさよ。竜と人間では神に対する認識が違うのか、と思ったが、ヴィルもカイル先輩も腕を組んで堂々としているので、性格の差だ。
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