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1話

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 慣れ親しんだ、異常なまでの体のダルさを抱えながら帰宅する。体調の悪さを感じない日など、いつが最後だったか、思い出せないほどだ。
 大学を卒業して、働き始めて既に2年が経った。
 今日は、少し短い2時間の残業で会社を後にする。毎日毎日12時間くらい働いて、家に帰れば飯食って寝るだけ。
 なんの楽しみも、夢も、目標もない。ただただ、その日が過ぎるのを待つだけの生活。
 もっと明るく、楽しい未来が待っていると思っていた。だけど現実はそんなに甘くは無かった。
 辛い現実から逃げてきた人間に待っているのは、さらに辛いだけの現実だ。
 
 だからなのか、今でもよく思い返してしまう。2年前のあのときのことを。いや、正確にいうと2年と半年くらいだろうか?
 間違いなく人生で一番辛い時期だったにも関わらず、人生で一番必死だった時のことを。思い返えすと、辛かった気持ちと一緒に、何ごとにも変えられない楽しい日々の思い出も付いてくる。
 だから、余計に嫌なのだ。辛いだけのものだったら、どれほど楽だっただろうか。
 いい意味でも悪い意味でも、思い出補正が入っているから、今正確なことは言えない。だけど、もう少し周りが見えていたら何か、変わっていたのだろうか?
 
 いや、決してそんなことは無いと、分かりきっている。だけど、そう思わないではいられない。
 いやだめだ。これでは、また今の辛い現実から逃げ出そうとしているだけだ。
 そんな、いつまでたっても、何も変わらない、変えられない今を生きていくしかないのだ。
 だって、なにも向き合う必要などないのだから
 あれ以来一回もpvpのゲームもFPSもしていない。

 あれほど熱く、夢中になれたものは俺の人生では他に無かったにも関わらず。

 あれ以来、業界の情報は一切入れないようにしているが、それでも時々目にすることがある。
 しかしそれは、ゲームの素晴らしさや、盛り上がりなどが中心ではなく、若い世代の特集がほとんどだ。

 ゲームという内容が後押ししてか、10代後半、へたをすると前半くらいの子どもが素晴らしい活躍をしているようだ。
 それを横目に見ると、今ゲームやっている子たち恵まれているなと思わざるを得ない。
 いや、恵まれているのではなく、本来そうでなければいけないだけか。
 最近は全ての物事に対して低年齢化が進んでいる。それは勿論良いことだと思う。だって努力が報われている証拠で、才能を腐られず発掘していることだからだ。
 スポーツも学力も芸術も音楽も、全部若い人の活躍が中心だ。インターネットが発達して質が良く鮮度がいい情報を集め放題になった、世の中で、物事に没頭するだけの、環境を作りやすいのも要因だろう。
 そのものごとに熱中していて結果が出て、周りに認められる。それは本当にいいことだと思う。
 何より、努力は報われるべきだ。

 もし仮に、俺が生まれるのがもう少し遅ければ、あんなことににはなっていなかったかもしれない。

 もし仮に、時代がもう少しだけ、早く進んでいたら、今頃業界を背負って立つ男になっていたかもしれない。

 仮の話をし始めたら切りがない。
 だけど、そうやって、少しだけ特別だった自分を思い返し、えつにひたるのが、今の俺の唯一の楽しみだ。
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