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59話

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 実況
・第2マッチ勝者はODDS&ENDS! 第1マッチの仕返しと言わんばかりに、圧倒的勝利を収めました。いかがですか大柳さん

 解説
・いや、さすが日本一をかけた試合だけあって、面白い展開になりましたね。なんといっても今回はタイガ選手の活躍が素晴らしかったです。何一つミスのない立ち回りと、AIM力でしたね

 実況
・大胆な動きでしたね

 解説
・そうですね。奇襲って訳ではないですが、端から一気に駆け上がるのは、本来弱いんですよ。なぜかというと、大体はどのチームも境界ラインまで前線を上げるので、どちらか一方によると囲まれやすくなるんですよね。ですが、STRADAは後方に2人いる分索敵が薄いので、効果的だったんですよ

 実況
・なるほど。一見無敵の陣形と思いきやの弱点ですね

 解説
・はい。まあ、それ以上に一つ一つの行動に、一切の迷いがなく、ほぼノンストップで進めたのも大きかったですね



「タイガよくやった!」

 今回は、3人が立ち上がり、喜びあっている。タイガのおかげで、第1マッチの悪い流れが完全に断ち切られた。
 俺はというと、ヘッドフォンは外したものの、3人に混ざることが出来ないでいる。素直に申し訳無い気持でいっぱいだ。
 本当に、最低限の動きは出来たものの、あんなくらいじゃチームにとってなんの足しにもならない。

「ヴィクターさん」

 そう思っていると、タイガが拳を俺の方に突き出す。俺はそれを見て、合わせるように同じことをする。

「やっぱり、僕にはオーダーは難しいです」

「いやいや、十分すぎるくらい出来てたよ。普段から全体のこと考えてプレーしているのが、良く分かったよ」

 改めて、突如俺の目の前に現れた天才少年の偉大さを知った。この舞台で、この土壇場であれ程のことが出来る人間はそうはいない。
 多くの人は、口では誰かの空いた穴を埋めるというが、それがどれほど難しいかを知らない。ましてや、足りない分を残っている人で埋めるなんてことは、普通ならできない。
 それを準々決勝で見せられただけでなく、決勝のこの場でも見せつけられるなんて。

「でも、やっぱり無理ですよ。作戦考えながら、火力出すのは僕にはまだ早いみたいです」

 タイガがさっきのマッチで、あそこまで出来たのは、本当に凄いことだ。どのゲームでもそうだが、戦闘中に作戦を考えながら、敵に銃を当てるのは、相当なエネルギーを使うのだ。

「次は任せて大丈夫ですか?」

 さっきの鬼気迫る表情ではなく、優しいいつもの顔に戻ったタイガが、俺にそう投げかける。

「ああ、もう大丈夫。任せてくれ」

 やらないわけには、いかない。

「みんな迷惑かけてごめん」

「大丈夫ですよ」

「待ちくたびれましたよ」

 3人が俺に向ける笑顔は、ここ数日だけでも何度も見てきた。これは嘘偽りないものだ。
 大丈夫、まだ1対1だ。全然巻き返せる所にいる。俺が本気を出せばあんな奴ら相手じゃない。

「まあ、負ける前でよかったっすよ」

 もし、そんなことになっていたら、もう二度と合わせる顔なんて無かっただろう。

「さあ、ここからチームODDS&ENDSの快進撃がスタートですね!」

「おお!」「よっしゃ!」「ええ!」



 実況
・どうやら、ODDS&ENDSの方は、だいぶ勢いづいているようですね

 解説
・みたいですね。なんだか、ヴィクター選手もやっと本調子に戻ったようで。ここからが勝負ですね。お互いに、1勝づつで、実力ではほぼ互角。何があってもおかしくない、この決勝戦。目が離せませんね

 実況
・そうですね。あと2試合か3試合で終わってしまうんですものね? 一視聴者としてはずっとやっていて欲しいくらいですが、選手からすればとんでもないほど、しんどい時間でしょうね

 解説
・プレッシャーも緊張も、とんでもないことになっているでしょうね。私も選手時代は、そういったことで体調が悪いことが多かったですよ。

 実況
・やっぱり、それほどの負担があるんですね

 解説
・そうなんです。決して座ってゲームだけをしているからって、楽なことをしているわけではないんですよ。ただ、それでも選手たちは、勝利というものを追いかけ続けて、絶え間ない努力をしてここにいるんです

 実況
・大柳さんが言うと説得力がありますね。決勝という舞台にふさわしい言葉だと思います

 解説
・今見ている子ども達は、選手たちの頑張りに感化されて、自分の夢を叶えて欲しいですよね



「ヴィクターさん」

「なに?」

 隣に座るタイガが俺の方を向く。

「ここまでの貸ということで、一つお願いがあります」

「え? なに急に?」

 何を言い出すかと思ったら、実にタイガらしくないセリフだ。もうすぐ試合が始まるというこのタイミングでいったい何を言っているんだ?
 だけど、そんな前振りをされたら、聞かないわけにいかないだろうに。

「お願いです。ただ勝つだけじゃダメです。僕みたいな人を増やせる試合にしましょう」

「はっはっは!」

 俺より先に隣のテツが笑いだす。
 ただ、言いたいことは分かった。

「そうだな。魅せてやるか」

「はい!」

 か。次はいったいなんて名前が付けられるかな?
 火種はどこにあるか分からない。全く予想もしないような所で、直接は関わり合わないかもしれない、ゲームとは関係ないかもしれない、だけど楽しみだな。

「今度は4人もいますからね、倍増ですよきっと!」

 タイガの話に乗った! と言わんばかりにニシが続く。

「じゃあ、行きますか!」

「はい!」「おう!」「ええ!」

 実況
・それでは準備が整ったようですので、第3マッチスタートです

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