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62話

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 第4マッチがスタートした。これに勝てば、俺たち日本一が決まる。
 スタートと同時に、走り出す。

「行くよ! 3人とも気負い過ぎないようにね。俺達なら絶対に勝てるから」

 普通の人間なら誰だって、こんな場面に遭遇したら緊張するに決まっている。

「もちろん!」

「大丈夫だよな!」

「はい!」

 しかし、この3人なら大丈夫だと信じている。後は俺が勝ちを急ぎ過ぎないことだ。
 さっきまでと同じく、境界ラインまでは取れると、こちらも動きやすくなるのだが。今回俺たちは、初めは4人固まって行動し、敵の位置を補足してから散開して戦う戦法を取っている。
 ガンガン前に出ててくるチームではないので、いきなり囲い込まれるような心配がないから、この作戦が建てられる。
 後は、乱戦になる前の盾は最強だからだ。ほぼ味方を守り続けることが出来る。初期段階で盾の耐久値を全部削りきることは、そうは簡単なことではないからだ。

 すると、発砲音と同時に俺のHPが半分ほど削られた。

「敵の射線に入ったぞ!」

 そろそろ、境界ラインに差し迫ると思った矢先、スナイパーの弾が飛んできた。もう位置バレを気にせずに、取れるところを取りに来たようだ。
 俺はあわてて盾を構える。一発ヘッドショットじゃなかったことが、唯一の救いだ。

「タイガ、テツは右サイド! ニシは、左サイドで少し俺寄りに展開して!」

「「「了解!」」」

 恐らく、先頭の俺を撃ってきたということは、後ろに3人いることも見えていただろう。そうすれば、俺が盾を構えて、少なくともタイガとは一緒にいると思うはず。その逆手を取る。
 テツが、中距離制圧をしている間に、タイガが距離を詰められれば、ほぼ勝てるだろう。後は、左サイドからニシが援護。俺が中央から前に出られれば、相手を追い詰めることが出来る。

「もう、いつスナイパーの弾が飛んできてもおかしくない状況だから、気を付けて。相手はかなり前線上げて来てるよ」

 相手も多少の焦りはあるようで、こんなにも早く開戦するとは思っていなかった。そして、射線的に、一人は中央に陣取っているうようだ。そうなると、後一人は、左右のどちらかだが、早めに見つけられるとこちらが有利になるのだが。

「ヴィクターさん! 前出ますか?」

 3人が俺が指示を出した場所に着いたようで、次の行動をタイガが聞いてきた。俺たちはまだ、中央ラインに到達しきれていない。それは相手も同じだろうが、このままだとどちらにもエリアポイントは入らず、均衡したままになる。

「俺が前に出るから、それでいったん様子を見よう。ニシは常に俺が見える位置にいて!」

「「了解」」「分かりました!」

 返事と同時に、俺は盾を構えた状態で、前に出ていく。ニシにだけ俺を援護出来る範囲にいてもらうのは、もし俺が相手4人からフォーカスされるのを防ぐためだ。もし、敵の位置が分かって、こちらが有利に動けるのであれば、タイガとテツに一気に突っ込んでもらう。
 すると、俺の視界の端に、敵が動いているのが見えた。
 ニシのいる方だ。それにこのままだと確実にぶつかる。

「ニシ! そっちに敵が」

 俺が言い切る前に、スナイパーの銃声がする。それが着弾したのは俺ではなく、ニシだった。

「やばい!」

 大きくHPが削られると同時に、さっき視界に入った、敵が勢いよくニシの方に突っ込んでいくのが見えた。それに気づき、先に撃ちだすことが出来たようだが、スナイパー分のアドバンテージがあった、敵が撃ち勝った。

「ごめんダウンした!」

 初めから待機していた敵の目の前に、出てしまったようだ。
 そうなると、左サイドは完全に制圧されたことになる。

「二人の方に行く! 敵見えたら撃っていいぞ!」

 俺は、盾と遮蔽をうまく使って、二人と合流を目指す。恐らく、右サイドは手薄だ。この状況で、二人が俺の方に来ると後方以外に敵に囲まれてしまうことになる。
 それだったらいっそ、壁を背負って少しでも射線を減らすことを意識した方がいいだろう。

「了解! 出来る限り牽制する!」

 俺が、向かう方に見方がいることは、相手から見れば明白だ。そうすれば、さっきニシを倒した敵は、ヒールして俺を追ってくるだろう。それを、タイガとテツが倒してくれれば、まだチャンスはある。
 それに、最悪時間を稼いでニシの復活を待てば、まだまだ勝負は分からない。

「恐らく、二人の前方にスナイパーいるから、気を付けて」

「いや! ヴィクターさんの方にいるっすよ!」

 テツの声を遮るように、俺の目の前を弾が飛んでいく。遮蔽物から出てくるのを予測して、置かれていたようだ。俺の左右は完全に2本の射線で塞がれる。どうやら、中央に2人いたようだ。
 このまま動けないでいると、後ろにいるアタッカーにやられてしまう。

「頑張ってそっち行く!」

 俺が出した答えは、それでも元の作戦は変えないことだった。二人にこちらに寄ってきてもらう方が、リスクが高いと判断したからだ。

「ヴィクターさん! もう後ろのやつ来てる!」

 どうやら俺が一瞬躊躇している間に追いついたようだ。

「テツ! 危ない!」

 テツが、俺の援護をしようと、少し横にずれた時、最後のアタッカーが二人の正面から射撃していた。

「おお! すまん」

 相手の射撃より先に、タイガが気づいたため、間一髪でテツは、ダウンせずに済んだ。だが、HPの半分くらいを持っていかれた。
 しかし、その隙に俺は二人がいる遮蔽物までたどり着いた。

「すんません、油断して」

「いやいや、大丈夫」

 俺が来た方向に盾を構えて、テツの回復を待つ。

「来てます」

 タイガの報告通り、じりじりと俺達を取り囲むように、相手が寄ってきているのが分かった。威嚇のつもりか定期的に、スナイパーの弾も飛んできている。恐らく、相手の作戦は、このまま後ろに下がらせて、四つ角まで追い込むつもりだろう。そうすれば、ニシが復活してきても俺達が、取れる策は極端に少なくなる。

「ヴィクターさん! 正面に二人来てます!」

 俺達に行動する隙を与えないように、アクションを起こしてきた。すぐに、タイガが牽制射撃をするが、もう一本のスナイパーの置きAIMにより、思うように顔を出せないでいる。
 俺の構えている盾にも、弾が着弾している。
 このままだとジリ貧だ。

「タイガ、テツ! 前出てその二人をやるよ! 遮蔽物から出たら、俺の盾から出ないようにして」

「「了解」」

「いくぞ!」

 その合図とともに、3人で飛び出す。
 正面の敵は目の前の遮蔽物にいるため、すぐにたどり着くことが出来た。するとすぐさま二人が右回りで相手に攻撃を仕掛ける。
 俺は、中央ラインと左サイドにいた敵から二人が攻撃されないように、盾を構える。

「一人やった! けど」

 タイガがスナイパーの一人をやったようだが、どうやら腰撃ちで撃たれたのが当たったようで、HPが半分ほど減っている。

「ごめんダウンする」

 HPがローになっているタイガにもう一人いる、アタッカー射撃してタイガはダウン。その間、フリーになったテツが気合いで、そのアタッカーをダウンさせた。
 これで2対2になった。

「え!?」

 しかし、一瞬遮蔽物から体を出した、テツがスナイパーのヘッドショットでダウンしてしまった。ポイントで既に強化していたようだ。
 盾職一人になった俺を、ほっときはしない敵は、アタッカー、スナイパー両方が俺の方へと突っ込んでくるのが、分かった。
 俺はそのまま、なすすべなくキルを取られた。



 LOSE

 俺達の日本一への戦いは、2対2にもつれ込んだ。






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