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二十二話
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アイゼン帝国の最北端、万年雪を戴く山々の麓に、その場所はある。
「蒼銀の湖(そうぎんのこ)」と呼ばれるその湖は、帝国で最も純度の高い魔力が集まる場所として知られていた。
周囲を深い針葉樹の森に囲まれた湖畔の別荘に、フィオーレとヴォルフラムは二人きりで訪れていた。
「……ふぁ、すごい」
馬車から降りたフィオーレは、目の前に広がる絶景に目を細めた。
湖面は鏡のように空を映し出し、風が吹くたびに細かな宝石を散りばめたような輝きを放っている。森からは松の清々しい香りが漂い、肺の奥まで洗われるような心地だった。
「ここは帝国の『心臓』の一つだ。お前のその聖種の力も、ここの清浄な空気なら少しは落ち着くだろう」
ヴォルフラムは、重厚な外套を脱ぎ捨て、動きやすい薄手のシャツ姿になっていた。
彼はフィオーレの肩を抱き寄せ、静かな湖面を指さす。
「どうだ、フィオーレ。少し、水に触れてみるか」
「はい! ……でも、私、泳ぎ方は知りません。ラングリスでは、水遊びさえ許されませんでしたから」
フィオーレの言葉に、ヴォルフラムの金の瞳がわずかに揺れた。
彼は何も言わず、ただ優しくフィオーレの手を引き、浅瀬へと導いた。
「俺が教えてやる。案ずるな。俺の腕の中でお前が溺れることなど、天地がひっくり返ってもあり得ん」
別荘で用意された薄手の白い水衣に着替えた二人は、再び湖へと向かった。
フィオーレは、初めて剥き出しにする自分の肌に少しだけ照れながら、恐る恐る水を蹴った。
水温は冷たすぎず、むしろ心地よい刺激となって肌を撫でる。
「……っ、冷たくて気持ちいい!」
フィオーレがはしゃいだ声を上げると、ヴォルフラムは満足げに口角を上げた。
彼は自ら水に入り、腰のあたりまで浸かると、両腕を広げてフィオーレを誘う。
「来い。まずは浮かぶ感覚を覚えろ。俺を信じて、力を抜くんだ」
フィオーレはヴォルフラムの胸に身を預けるようにして、水面に体を横たえた。
ヴォルフラムの大きな手が、フィオーレの腰と背中をしっかりと支える。
耳元で聞こえるのは、穏やかなさざなみの音と、ヴォルフラムの力強い鼓動。
「そう、上手だ。お前はもともと、水のようにしなやかだからな」
ヴォルフラムの低く心地よい声が、フィオーレの全身を包み込む。
彼の手のひらからは、安心させるような熱が伝わってきた。
フィオーレは、空を見上げながら、全身の力を抜いた。銀色の髪が水面に広がり、まるで大輪の花が咲いたように揺れる。
その時だった。
フィオーレの右肩にある「聖種の紋様」が、水中の魔力に呼応するように、淡い青色の光を放ち始めた。
ドクン、と熱い鼓動が指先まで走り、フィオーレの体からあふれ出した黄金の魔力が、水の中に溶け出していく。
「あ……これ、は……」
フィオーレが呟いた瞬間、驚くべき光景が広がった。
二人の周囲の水面から、クリスタルのような光を放つ、透き通った「蓮の花」が次々と芽吹いたのだ。
それは本来、この湖には存在しないはずの幻の花。
フィオーレの生命力と、湖の純粋な魔力が共鳴して生まれた、刹那の奇跡だった。
「……なんて、美しい」
ヴォルフラムが溜息を漏らす。
彼は浮かんでいたフィオーレを優しく引き起こし、花々に囲まれたままで、その細い腰を抱きしめた。
水面に浮かぶ何百もの光る花が、二人の姿を幻想的に照らし出す。
「ヴォルフラム様、見てください。お花たちが、歌っているみたいです」
「ああ。……お前の力は、ただ土を育てるだけではないのだな。お前がいるだけで、この国のすべての命が喜びを享受している」
ヴォルフラムは、フィオーレの濡れた髪を愛おしげに耳にかけた。
彼の金の瞳には、かつての冷徹さは微塵もなく、ただ目の前の番への熱烈な愛だけが宿っている。
ヴォルフラムはフィオーレの顎を掬い上げると、光る花々に囲まれた水面の上で、静かに唇を重ねた。
重なる吐息。
唇から伝わるのは、湖の冷たさとは対照的な、焼けるような熱。
フィオーレはヴォルフラムの広い肩に手を回し、彼から与えられるすべてを受け入れた。
「……フィオーレ。この景色を、俺は一生忘れん。……お前が俺の元へ来てくれたこの奇跡を、命ある限り守り抜くと誓おう」
ヴォルフラムが耳元で囁く。
フィオーレは、彼の胸に顔を埋め、幸せの涙を湖に一粒落とした。
湖畔の夜は、まだ始まったばかりだった。
二人の絆は、この蒼い水の底に深く根を下ろし、決して枯れることのない永遠の約束へと変わっていく。
「蒼銀の湖(そうぎんのこ)」と呼ばれるその湖は、帝国で最も純度の高い魔力が集まる場所として知られていた。
周囲を深い針葉樹の森に囲まれた湖畔の別荘に、フィオーレとヴォルフラムは二人きりで訪れていた。
「……ふぁ、すごい」
馬車から降りたフィオーレは、目の前に広がる絶景に目を細めた。
湖面は鏡のように空を映し出し、風が吹くたびに細かな宝石を散りばめたような輝きを放っている。森からは松の清々しい香りが漂い、肺の奥まで洗われるような心地だった。
「ここは帝国の『心臓』の一つだ。お前のその聖種の力も、ここの清浄な空気なら少しは落ち着くだろう」
ヴォルフラムは、重厚な外套を脱ぎ捨て、動きやすい薄手のシャツ姿になっていた。
彼はフィオーレの肩を抱き寄せ、静かな湖面を指さす。
「どうだ、フィオーレ。少し、水に触れてみるか」
「はい! ……でも、私、泳ぎ方は知りません。ラングリスでは、水遊びさえ許されませんでしたから」
フィオーレの言葉に、ヴォルフラムの金の瞳がわずかに揺れた。
彼は何も言わず、ただ優しくフィオーレの手を引き、浅瀬へと導いた。
「俺が教えてやる。案ずるな。俺の腕の中でお前が溺れることなど、天地がひっくり返ってもあり得ん」
別荘で用意された薄手の白い水衣に着替えた二人は、再び湖へと向かった。
フィオーレは、初めて剥き出しにする自分の肌に少しだけ照れながら、恐る恐る水を蹴った。
水温は冷たすぎず、むしろ心地よい刺激となって肌を撫でる。
「……っ、冷たくて気持ちいい!」
フィオーレがはしゃいだ声を上げると、ヴォルフラムは満足げに口角を上げた。
彼は自ら水に入り、腰のあたりまで浸かると、両腕を広げてフィオーレを誘う。
「来い。まずは浮かぶ感覚を覚えろ。俺を信じて、力を抜くんだ」
フィオーレはヴォルフラムの胸に身を預けるようにして、水面に体を横たえた。
ヴォルフラムの大きな手が、フィオーレの腰と背中をしっかりと支える。
耳元で聞こえるのは、穏やかなさざなみの音と、ヴォルフラムの力強い鼓動。
「そう、上手だ。お前はもともと、水のようにしなやかだからな」
ヴォルフラムの低く心地よい声が、フィオーレの全身を包み込む。
彼の手のひらからは、安心させるような熱が伝わってきた。
フィオーレは、空を見上げながら、全身の力を抜いた。銀色の髪が水面に広がり、まるで大輪の花が咲いたように揺れる。
その時だった。
フィオーレの右肩にある「聖種の紋様」が、水中の魔力に呼応するように、淡い青色の光を放ち始めた。
ドクン、と熱い鼓動が指先まで走り、フィオーレの体からあふれ出した黄金の魔力が、水の中に溶け出していく。
「あ……これ、は……」
フィオーレが呟いた瞬間、驚くべき光景が広がった。
二人の周囲の水面から、クリスタルのような光を放つ、透き通った「蓮の花」が次々と芽吹いたのだ。
それは本来、この湖には存在しないはずの幻の花。
フィオーレの生命力と、湖の純粋な魔力が共鳴して生まれた、刹那の奇跡だった。
「……なんて、美しい」
ヴォルフラムが溜息を漏らす。
彼は浮かんでいたフィオーレを優しく引き起こし、花々に囲まれたままで、その細い腰を抱きしめた。
水面に浮かぶ何百もの光る花が、二人の姿を幻想的に照らし出す。
「ヴォルフラム様、見てください。お花たちが、歌っているみたいです」
「ああ。……お前の力は、ただ土を育てるだけではないのだな。お前がいるだけで、この国のすべての命が喜びを享受している」
ヴォルフラムは、フィオーレの濡れた髪を愛おしげに耳にかけた。
彼の金の瞳には、かつての冷徹さは微塵もなく、ただ目の前の番への熱烈な愛だけが宿っている。
ヴォルフラムはフィオーレの顎を掬い上げると、光る花々に囲まれた水面の上で、静かに唇を重ねた。
重なる吐息。
唇から伝わるのは、湖の冷たさとは対照的な、焼けるような熱。
フィオーレはヴォルフラムの広い肩に手を回し、彼から与えられるすべてを受け入れた。
「……フィオーレ。この景色を、俺は一生忘れん。……お前が俺の元へ来てくれたこの奇跡を、命ある限り守り抜くと誓おう」
ヴォルフラムが耳元で囁く。
フィオーレは、彼の胸に顔を埋め、幸せの涙を湖に一粒落とした。
湖畔の夜は、まだ始まったばかりだった。
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