おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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2人の聖女編 〜臣従儀礼式典とサプライズ〜

327.おっさん、友人と飲む

 午後2時にバシリオ達キドナの一行がやってくる。
 俺は騎士団に訓練に行くことを控え、今日は夕食会まで瑠璃宮の中で大人しくしていることにした。
 朝、フィンが護衛任務を終えて官舎に戻った後、俺はアビゲイルと2人でお茶を飲みながらゆっくりしていた。
「王城は朝から大忙しです」
 バーニーが現在の王城の様子を伝えてくれる。
「第1部隊のおっさん達も、要人警護の任務についてるから、物々しいわよ。
 いっつもだらしない格好しているけど、今日はビシッと決めてるわね」
 アビゲイルが揶揄うように笑い、俺も年上のおっさん騎士達の普段と任務の時のギャップを想像して笑った。
「ロイは今頃何してるかな」
「そろそろキドナの先発隊が到着しますので、最後の調整に余念がないでしょう」
 バーニーが時計を確認して教えてくれた。


 2週間前に出立したという、キドナの先発隊。
 行政機関、軍部の高官、騎士達が転移魔法ではなく陸路で向かっていた。
 俺もここから2週間かけてキドナの王都ブリストルまで行ったのだ。その逆の道筋を200名近い団体で向かってくる姿は壮観だろうなと思った。
「2時に転移魔法陣が起動し、すぐに王との謁見式がございます。
 ショーヘイ様は6時からの夕食会にご同席されますので、4時過ぎに準備を開始いたします」
「ショーへーちゃんも大変ね」
「仕方ないさ。そういう立場になっちゃったから」
 同情されるように言われ、俺は苦笑いを浮かべた。

 ロイとディーの婚約者になり、こういう行事には強制参加となることはわかっていた。
 彼らを愛してプロポーズを受け入れた時から、こうなることはわかっていたし、覚悟も出来ていた。
 とは言っても、いまだに慣れない。
 いまだに俺なんかが、と思うこともあり、場違い感は拭えていなかった。





 昼食の少し前、ディーが瑠璃宮に戻ってきた。
「ショーヘイ~」
 入ってくるなり抱きしめられ、ロイのように俺の匂いを嗅ぐ。
「会いたかったです」
 1日も経っていないのに、寂しかったと訴えてくるディーに呆れる。
「昨日の今日だろ」
「22時間と48分も離れていたんですよ」
「なんじゃそりゃw」
 細かい時間を言われ、呆れながら笑ってしまった。
「もう片時も離れていたくないのに…」
 グリグリと頭を押し付けて擦り寄ってくるディーの頭をよしよしと撫でながら、仕方ないなと受け入れる。
「これから出迎えと謁見式もあるだろ」
 また離れるだろと言うと、ディーはむくれる。
「せめて昼食くらい一緒に」
 子供のような態度に笑い、ディーは俺の頬を両手ではさむと顔を近付ける。そしてそのままキスをした。
「もう、あてられちゃうわね」
 アビゲイルが笑い、小さい声でシェリーに会いたいな、と言う呟きが聞こえ、俺はクスッと笑った。







 ロイは昼食にも戻ってこれないのか、3人での食事をなる。
「軍事訓練の方はどうなった?」
「つつがなく」
 ディーが微笑む。
「ミネルヴァやレインにはある程度の事情は説明しました。
 エイベルやグスタフには詳細は伝えていませんが、そこは上手くね」
 ディーは軍事訓練の内容の中に、7年前にあった聖王国からの侵略という事実を盛り込み、それに対処する布陣の訓練を急遽捩じ込んだと説明した。
 戦争においては前兆がない場合もかなり多く、突然の訓練内容変更は、騎士や兵士達にとっても有益だと言った。
 参加している者にとっては、計画されていた行動がいきなり変わったことに戸惑うだろうが、これが実際の戦闘行動だと想定すれば緊張感も高まる。その緊張感が圧力に繋がるのだろう。
「聖王国側も砦からこちらの動きを見て、何事かと焦ってると思いますよ。
 何も知らない砦兵は、すぐに上層部へ報告するでしょうが、そこはアランが揺さぶりをかけてますからね。相当混乱するでしょうね」
「なんか気の毒~」
 アビゲイルがクスクスと笑い、俺も同じように思った。
「まさか教皇選抜がこんな事態になるなんて、聖王国の王様も夢にも思わないだろうな」
「そうですね。今のジェラール王はカーターと一蓮托生です。
 カーターの失脚に合わせてジェラール家がどうなるか、見ものですよ」
「政権交代もあり得る?」
「充分考えられます。現王や王太子に反発する身内も多いですからね」
「…それってジェラール家の分家ってこと?」
「ええ。現王の姉君は筆頭公爵家に嫁いでいて発言力もあります。さらに末弟は中央から遠ざかっていますが、国土の3分の1を治める優秀な領主です」
「へえ……」
 俺は血の繋がった王族の間でも色々あるんだなと思った。

 言われてみれば、キドナにおいても兄弟間の王権争いが起こっていた。帝国でも然りと歴史書で読んだし、昔、公国でも王弟による簒奪未遂があったのだ。
 君主制国家において、身内同士の権力争いは避けられないものなのだろうと思った。

 元の世界にいた頃には全く縁のない話であり、こんな身近で聞くことになるとは思いもしなかった。

 生きてきた世界とは全く違う常識や認識を改めて考えさせられた。






 ディーは昼食を終えると名残惜しそうに王宮に戻って行く。
 それをエントランスで見送ると、自室に戻った。
 執務室で習得したばかりの解毒魔法の勉強をしようと思ったのだが、バシリオとの再会や、共に来るというロビンに会えることに気持ちが落ち着かなかった。
 結局、自室に持ち込んだ治癒魔法の本を読みながら時間を潰すが、あまり内容が頭に入ることはなかった。



 午後4時になって、専属衣装班が到着し着替えに取り掛かる。

 2時に到着したバシリオ達は、レイブンへの謁見を終えて、宿泊する離宮に向かったはずだ。
 離宮は以前ユージーン達が泊まっていた王族の客人のための宮である。そこにバシリオや公、侯爵など、従者を含めて30名ほどが宿泊する。
 それ以外の関係者達は、離宮と近い、王城と騎士団官舎の間にある宿舎にて泊まることになっていた。
 使用人を含めて200人を超える大所帯に、式典に携わっている外務局員、内政官、警護にあたる騎士や兵士達。さらに執事やメイド、夕食会と夜会での料理を提供するコックや給仕、そして数日前から各商会から物資も次々に運び込まれており、のべ2000人を軽く超える人員がこの2日間のために動いている。
 この国を挙げての行事をキースとロイが統括している。
 その重責を考えると、俺なら絶対にストレスで潰れてしまうだろうと思った。

 そんなことをつらつらと考えながら、いつものようにヘアメイクと着替えを済ませた。
 いつものごとく『男性用ドレス』姿になったが、今日はベールもどきはない。それだけでもだいぶ身軽だと感じた。

 5時過ぎにディーが迎えに来てくれた。
「4時間27分ぶりです」
「止めろww」
 また分刻みで会えなかった時間を言われ、笑ってしまった。
「ロイは?」
「警備責任者ですから、離宮へリオを迎えに行きました」
「ああ、そっか」
 ロイとは30時間くらい会っていないなとディーのように時間で考えてしまって心の中で笑った。





 夕食会は王城の中にある大広間で執り行われる。
 いつもはガランとした広間なのだが、そこに幅も長さもあるテーブルが運び込まれ、真っ白なテーブルクロスに、同じく真っ白なチェアカバー。そして、テーブルには花々や豪華な燭台などの装飾品が飾られていた。
 まさに、元の世界で見たことのある宮中晩餐会の光景で、俺はその雰囲気に呑まれて緊張で体が固くなった。
「緊張しますか?」
「ああ。こういうのは慣れないよ。きっと一生慣れることはないだろうな」
 苦笑いを浮かべながら言うと、ディーは笑う。
 ぐるっと周囲を見渡すと、向かい側に座っているギルバートと目がぱちっとぶつかる。
 途端にダニエルのことを思い出した俺は、彼らがどういう話し合いをしたのか、その結果が気になってしまった。
 それが表情に出たのか、ギルバートは俺をじっと見つめた後、目を細めると優しく微笑みながら僅かに頷いたような気がした。


 公国側がホストとなるため、まずはレイブン以外の出席者が会場に入って席につく。
 俺の席は当然ディーの隣で、空いている左隣はロイの席だった。
 上座の2席はレイブンとバシリオとなるが、下座に向かって身分の順番というわけではなかった。
 公国側の配慮が含まれており、属国として下に見るのではなく同格であるとし、公国側とキドナ側が順不同で混ざり合って座るようになっていた。

 俺は緊張でドキドキしながら開始時刻を待つ。
 開始15分前にはロイも大広間に入ってきて俺の隣に座る。
「あ“ー…疲れた…」
「お疲れ様」
 座ってすぐ盛大なため息をつくロイに、笑顔で慰めた。


 6時になると大広間の扉が開かれ、レイブンとともにバシリオ達が登場する。
 俺達はその場に立って出迎える。
 約1ヶ月ぶりのバシリオの姿に、俺は笑顔を浮かべながら彼を見た。

 キドナの正装姿のバシリオは1ヶ月ぶりであったが、すでに王としての貫禄が出ているような気がした。
 バシリオの目が大広間の中を見渡し、俺と目が合うと、嬉しそうにニコリと微笑んだ。
 バシリオの背後にいるキドナ側の出席者、ウェーバー、ハルバート両公爵、ベイリーやバルカムなど、キドナで見た顔ぶれが勢揃いしていた。
 残念ながら従者であるオリバー、そしてロビンの姿はない。彼らは従者であり、ここに参加する資格はないのだと思い、それが少し寂しかった。


 全員が着席すると、レイブン、バシリオと続いて挨拶し、食事が始まった。
 晩餐会という形ではあるが、雰囲気はとても和やかで、緊張していた体は次第にほぐれていく。
 バシリオ達キドナ側も終始笑顔だった。



 夕食会は滞りなく終わり解散するかと思いきや、ウェーバーやバルカム達はお酒も入っていい気分になったのか、レイブンやサイファー、アラン、ギルバート、アルベルト公爵達と別室で飲むことになったため、それに参加しないハルバート公爵や他貴族達は離宮へと戻る。
 元バシリオ派の面々だけが残ることになり、キドナの新政権において過去の派閥が生きているのだと思った。
 そしてバシリオはそちらに混ざることをせず、歳が近い俺達とということになり、夕食会で個人的に話せなかったので喜んで場所を移動した。


 王宮ではなく、王城にいくつか用意されている来客用の談話室に移動すると、もう国同士の対話という形ではなく、友人として接する。
 バシリオが移動する時、大広間の外で控えていたオリバーと、そして白い犬耳尻尾の青年が付き従った。すぐに彼がロビンだと気付く。
「……」
 その容姿は思わずニヤけてしまうほど可愛かった。
 男性だとわかっていても、その可愛い顔は中性的で、はっきりとした目鼻立ちに柔らかそうな白い髪、犬耳と尻尾も白く艶もある。
 その三角形の犬耳が若干伏せられて、怯えているように見え、伏せ目がちな目線も含めて庇護欲を掻き立てられるような気がした。
「ショーヘイさん、会いたかったです」
 談話室に入るとバシリオがやっと話が出来ると近付き、俺の手を取ると口付ける。
「リオ、元気そうで良かった。オリバーも」
 俺はバシリオと背後にいるオリバーに微笑む。
「えっと、そちらは」
 そしてわざとロビンのことを持ち出す。
「彼は僕の新しい従者です」
 バシリオがロビンを振り向きながら言うと、ロビンは静かに一歩前に進み出て、右手を胸に添えてしっかりとした貴族流の挨拶をした。
「初めまして聖女様。ロビンと申します」
 挨拶後顔を上げたロビンが俺にニコリと微笑み、俺は少し頬を染め「可愛い」と心の中でニヤけた。
「ディーゼル殿下、ロイ小公爵様。いつぞやは救っていただきありがとうございました」
 そしてロビンはロイとディーに向き直り、丁寧に謝辞を述べた。
 2人はロビンへニコリと微笑む。

 そういえば2人はロビンの受け入れの件を知っているのだろうか。昨日キースが教えてくれたダニエルの件は知らないと思うが、ロイも今回の式典に携わっているし、ディーだって魔法技術の件で、あれから何度もキドナに出向いている。
 事前に確認を取れば良かったと後悔したが、それは気苦労に終わった。

「ロビン、何も心配いらねえからな」
「ええ。後は全てギル様が取り計らってくれます。安心してください」
 2人がギルバートが彼をスカウトすることを言ってくれたおかげで、把握していると知ることが出来た。
「ありがとうございます」
 遠慮が混じった笑顔で礼を言ったロビンは、2人やバシリオに頭を下げる。
「さ、飲みましょうか」
 ディーが音頭を取り、談話室でそれぞれ席に座る。
 オリバーとロビンは従者という立場から最初遠慮したが、最終的には一緒に飲むことになった。

 それぞれの手にグラスを持ち酒を飲み交わす。
 最初は今のキドナの状況についての話が多かったが、徐々に話は小難しい話からプライベートな話題へとシフトしていった。
 友人として気を許しているせいもあるだろうが、全員がアルコールのせいで気が大きくなったせいもあるだろう。
 ほろ酔いという気分で気持ちが良い。
「ショーヘイさん達の話は我が国でも広まってますよ。
 聖女様と王子、英雄の恋物語」
 バシリオがほんのりと赤くなった頬で笑う。
 彼も俺に求婚した1人だが、もうそれは過去のことで、はっきりと踏ん切りもついているんだとホッとする。
「そーなんですかー?」
 ディーも赤い顔で話が広まっていることを嬉しそうに答える。
「王子と英雄が聖女様を奪い合って決闘したとか」
「決闘ってwww」
 俺はその言葉に笑い、つい頭の中で、

 『私のために争わないで!』

 などという臭い三文芝居が思い浮かんで声に出して笑う。
「いいなそれ。ディー、今度ショーヘーをかけて決闘するかw」
「勝った方が丸1日ショーへーを独占する」
「そこは身を引け、じゃないんですね」
 勝者が1日独占権ということに、オリバーが笑い、言われた2人もその考えはなかったのかアハハと笑った。
「ずっと聞きたかったんですけど…」
 バシリオは俺達をじっと見て質問する。
「皆さんがお互いの想いに気付いたのって、本当はいつなんですか?
 ショーヘイさんと出会ったのって、去年の…」
「5月くらいだな」
 ロイが答えた。
「もうな、俺は一目惚れよ」
「私はその少し後ですねー」
 ロイとディーは笑いながら恋を自覚した時期を教えた。
「そんなに前…?」
 それに食いついたのは、質問したバシリオではなくロビンだった。
「こちらの諸事情で、公表出来ず隠していたんですよ」
 ロビンはきっと恋物語の通り、最近互いに自覚したと思っていたのだろう。
 だが、当の2人から出会ってすぐにという言葉を聞いて驚いたようだった。
「聖女様もですか?」
「ん~…、俺は1ヶ月くらいかかったかなぁ」
 俺はロイから猛アピールされ、元の世界と俺の中での常識、散々悩んだことを思い出し、そんなこともあったなぁ、とそんな過去の話でもないのだが、やたら古い記憶に感じて笑ってしまった。
「それでも1ヶ月…」
 ロビンは1ヶ月でも短いと思ったのか何やら考え込む素振りを見せる。
 俺はそんなロビンを見て心の中でほくそ笑む。

 ロビンが俺達の話を聞いて、何か思う所があったのだと察した。
 それがダニエルのことであると、そう直感が告げる。
 ダニエルと出会ってから約1ヶ月だ。
 そして、ついこの間の再会。
 果たしてダニエルがロビンに何を言ったのか。ロビンは何を思ったのか。
 それ以前に、会わなかった1ヶ月、ロビンは何を思っていたのか。
 それを根掘り葉掘り聞きたくてうずうずしてしまうのを必死に抑え込んだ。

「俺達が出会うのも、愛し合うのも運命だったんだ」
 俺の思考を遮るようにロイが上機嫌で言った。
「運命…」
 ロビンが小さく呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
「運命ですか…」
 さらにオリバーも呟き、そばにいるバシリオにチラッと視線を向ける。
 そのなんとも言えない表情を見たディーが途端にニヤつき始めた。
「リオはどうなんですか?」
「え?」
「運命の相手とはどうなんだ?」
 ロイもニヤニヤしながらバシリオとオリバーへ視線を向けた。
「お前ら…」
 そんな2人の下世話な態度に俺は顔をしかめつつ、それでも俺も気になっていたため、参戦はしないが2人を見つめてしまった。
 自分達のことに矛先が向けられた2人はほぼ同時に赤面した。決してお酒のせいではない赤面に、俺はつい笑ってしまう。
「あ、いや、ぼ、僕らは」
「そ、そんな」
 目に見えて狼狽えるバシリオとオリバーにロイとディーは詰め寄る。
 だが決して無理強いはしない。言葉巧みに誘導するように2人の関係が進んでいるのかを確認していた。

 結果、2人はキスをする間柄までは進んだらしい。
 だが、それもまだ数度。
 純愛路線を突き進んでいる2人の様子に、俺は生暖かい目を向けた。



 お互いに揶揄い合うような話題に、恥ずかしかったりもしたが、互いに笑い合って楽しい時間を過ごした。
 夜11時を過ぎ、そろそろお開きにとなった所で、バシリオが改めて俺達を見た。
「ディー、ロイ、ショーヘイさんを幸せにしてあげてください。
 ショーヘイさんも、どうかお幸せに」
「…ありがとう」
 2人は当然だと笑い、俺は礼を言う。
 そして、俺は素直に自分の気持ちを聞かせた。
「俺はロイとディーに幸せにしてもらおうとは思ってないよ」
 俺の言葉に、ロイとディーは驚いたように俺を見た。
「幸せにしてもらうんじゃなくて、一緒に幸せになるんだ」
 俺はロイとディーを見てニコリと笑う。
「俺にとっては、身分や立場があったとしても、互いを深く知って、理解し合えることが幸せなんだ。
 俺はこれからも2人を知って行きたい。2人にも俺をもっと知って欲しい。
 そうやって一緒に幸せになって行きたいよ」
 なるべく言葉を選んで言ったつもりだ。
 本当に俺が思っていることの一つだったが、あえてこの話をしたのはオリバーとロビンに聞かせたかったからだった。

 彼らはきっと身分と立場を気にしている。
 それがある前提で物事を考え、いくら関係がないと説いても、生まれた時から染み付いているものを拭い去ることは出来ない。
 だから、視点を変え、身分と立場という前提があっても何も問題がない、幸せを望み、共に目指すことは出来ると言ったつもりだった。

「一緒に幸せに……。素敵ですね。本当にその通りだと思います」
 バシリオは俺の言いたいことを理解し、嬉しそうに微笑んだ。
 ロイとディーも嬉しそうに笑い、俺の肩や腰に腕を回して寄り添う。
「一緒に幸せになりましょう」
「もっとお前のことを教えてくれ。早速今夜、ショーへーの隅々を…」
 せっかくの和やかな雰囲気をロイの下ネタが台無しにし、俺はその腹に肘打ちを喰らわせた。
 ぐふっと呻いて腹を抑えたロイを見て笑いが起こる。
 オリバーとロビンも声に出して笑っていた。


 伝わっただろうか、と思いつつ別れるが、最後、2人は俺に向かってペコリと会釈をしてきて、その嬉しそうな目を見て、きっと理解してくれたと思うことにした。
 
 



 王城のエントランスで、バシリオの護衛任務についている第1部隊のおっさん騎士2名が待っていた。
 アビゲイルが言っていたように、いつものだらしないおっさんというイメージは何処にもなく、髭も整え、背筋を伸ばした騎士然とした姿に同一人物かと疑いたくなってしまう。
「こんな遅くまで申し訳ありません」
 自分のせいで待たせることになり、バシリオは騎士に謝罪すると、おっさん達は笑顔で応える。
「頼むぞ」
 ロイが護衛を任せると、そのままバシリオを見送った。
 おっさん騎士達は一度俺に振り返ると、バチンと思い切りウィンクを投げてよこし、俺は笑ってしまう。
「あれが余計だっつーの」
 ロイも文句を言うが、笑っていた。







 瑠璃宮に3人で戻る途中、ロイとディーは最後の俺の言葉の意味を確認してきた。
「あれはオリバーに言った言葉でしょ」
 ディーに聞かれ、俺は笑う。
 そこにロビンの名前がなかったことに、ダニエルとロビンのことはまだ知らないんだと理解した。

 いや、どうなるかはまだ俺の妄想の域を超えていない。
 ロビン自身、ダニエル本人に「そばに」と言われたはずだ。そして、きっとロビンは戸惑っている。
 だから身分と立場という障害を持つ2人に向けた話だった。
 どう受け取るかは2人次第だが、僅かでもいい、きっかけになってもらいたかった。

「身分やなんだって、ほんとめんどくせえ」
 ロイも呆れたように言うが、それでもそれらを無視したり、捨てることはそう簡単には出来ないということも理解している。
「オリバーは想いを打ち明けても、やはり何処かで一線引いてますからね。
 リオを幸せにしたくても、身分差でそれが出来ないと思い込んでる節がありました」
 見ていて少しイライラしてました、とディーが苦笑した。
「一緒に幸せに、か。上手いこと言うな」
 ワハハとロイが笑い、俺の肩を抱き寄せた。
「惚れ直したわ」
 俺は褒められてドヤ顔を決めると、ロイが俺の頬にキスを落とす。
「流石私のショーヘイ」
 ディーも反対側に寄り添い、頬にキスしてくれる。
「俺のな」
「私のです」
 途端に俺の私のと言い合いが始まり俺は笑う。
「マジで独占権かけて決闘するか」
「いつでもいいですよ。私に投げられて地面に背中をつけたのを忘れたわけじゃないですよね」
「っはん、あん時は油断してただけだ」
「ふん、どうだか」
「手加減しねえぞ」
「こっちこそ」
 俺は本当に決闘しそうな勢いになってきた2人に、先ほど妄想した三文芝居を思い出してしまった。
「やーめーろー」
 俺は呆れながらこの場で始めそうな2人の間に割って入ると、2人の腕にしがみつく。
「俺は2人と一緒がいいんだよ。一緒に幸せになるんだよ」
「「……」」
 ギュッと腕に絡みついてきた翔平を見下ろし、すぐに2人は目を合わせるとニヤリと笑った。
「それじゃあ、今から幸せになりましょう」
「そうだな。3人で幸せに」
「……は?」
 2人が絡ませた俺の腕をガシッと掴むと、歩くペースを早める。
「ちょ、え?何?」
 両脇から抱えられるように歩かれて、2人の息のあった行動に狼狽えるが、すぐにその目的に気付いて顔を真っ赤にした。




 瑠璃宮に到着すると、言葉通り3人で幸せになった。
 ロイとディーにたっぷりと愛され解かされて、心も体も幸せに包まれる。
 時間をかけて幸せになり、心地よい気怠さと甘い空気の中眠りについた。



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