おっさんが願うもの 〜異世界行ったらイケメンに大切にされ、溺愛され、聖女と呼ばれ、陰謀に巻き込まれ。それでも幸せ目指して真面目に頑張ります〜

猫の手

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キドナ編 〜断罪劇の後始末〜

268.おっさん、キースと再会する

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 昼食を終え、そろそろお開きにしようとした時、オリバーが食堂へやってきた。
「皆様、転移魔法陣が完成いたしました。
 午後3時に起動いたします」
 今から1時間半後にキースとロマに会える。そしてメイノールはセシリア王女に。
 俺たちは顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。
「一度部屋に戻って準備をしましょう」
 ディーが言い、全員が席を立った。
 オリバーは笑顔で扉の前から離れると、バシリオの元へ行こうと顔を向け、その動きが止まる。
 テーブルの上に、リオの左腕が乗っている。正確には義手だ。
「あ、オリバー、ついさっきショーヘイがリオの腕を…」
 オリバーはディーが話している最中にフラフラと進み始め、テーブルや椅子にぶつかって何度も転びそうになりながらバシリオに駆け寄って行った。
「リオ様!!」
 オリバーがバシリオを正面から飛び込むように抱きしめた。
「おやおや」
 メイノールがクスッと笑い、ディーも笑顔を浮かべるが、俺は突然の行動に唖然とした。
「リオ様…腕が……腕が元に……リオ様…」
「ちょ…オリ……」
 バシリオは抵抗して体をよじるが、がっちりと抱きしめられ、腕の中に包み込まれた。
 まだゲストである翔平達がいるのに、とバシリオは必死に抜け出そうとするが、オリバーの強い力に全く敵わなかった。
「良かった…リオ様」
 バシリオの頭を抑え、自分の胸に押さえつけるようにボロボロと涙を流して抱きしめ続ける。
「オリ……はな…し……」
 顔をオリバーの胸元に押し付けられているため、抗議の声も上手く出せず、バシリオはオリバーの腕や服を掴んで引っ張って引き剥がそうとしていた。
 俺はディーとメイノール、バシリオとオリバーの姿を交互に何度も見つめる。
 バシリオとオリバーが主従関係だというのは知っていたが、彼のこの行動は本当にそれだけなのか、と思ってディーに目で確認した。するとディーは意味ありげな笑みを浮かべて小さく頷く。
 それで、そういうことかと俺は気付いた。

 ついさっき俺はバシリオをふり、もっと良い人が見つかることを願ったのだが、こんなに身近にいたとは。
 オリバーの中に、主人に対する感情以上のものがあると気付いた。
 なんだ、ちゃんとバシリオを真剣に心から愛してくれる人がいるんだ、と俺はホッとする。
 バシリオは戸惑っているだけで嫌がっているようには見えないし、これはひょっとしたらひょっとするかもと、くすぐったい予感のようなものを感じた。
「リオ、また後で」
 ディーがバシリオとオリバーに声をかけ、メイノールも笑いながら食堂を出る。
 バシリオは何とか挨拶を返そうとするが出来ず、食堂の扉が閉められた。

 廊下に出ると、ライアンがすぐにメイノールの隣に並ぶ。
「ライアン、やっとセシリアに会えるよ」
 嬉しそうにライアンに話しかけるのを見て、俺も嬉しくなった。
「私達も一度戻りましょう。ロイも戻ってるはずです」
 ディーと共に部屋に戻った。




 バシリオはオリバーが全く離してくれないことに、引き剥がすのを諦めた。
 良かった良かったと泣く彼の好きなようにさせた。
 翔平達が食堂を後にした数分後に、オリバーはようやく離してくれた。
「落ち着いた?」
 バシリオは取り乱したオリバーに苦笑する。
「……リオ様」
 オリバーはまだグスグスと鼻を啜っており、そっとオリバーの復活した左手を取ると、愛おしそうに優しく撫で、その甲に口付ける。
「オリバー」
 チュッチュッと何度も左手にキスするオリバーに苦笑する。
「リオ様、俺は悔しい…」
 突然辛そうな表情を浮かべたオリバーにバシリオは真顔になる。
「何が…?」
「貴方を守ると決めて、俺は影になった。
 ずっと貴方のそばに、貴方のためだけに生きると決めていた。
 だけど、貴方が亡くなったと聞いて、その左腕を見た時、俺は…」
 オリバーの目から再び涙が落ちる。
「貴方のそばで、一生守ると決めたのに、それが出来なかったことが悔しくて。辛くて……死のうと思った。
 貴方の左腕を奴から奪い返し、その腕を抱いて死ぬつもりだった」
 バシリオはオリバーの告白に目を丸くした。
 まさかそこまで思い詰めるほど彼を追い込んでしまったのか、とバシリオは辛くなる。
「実際に腕を奪いに行った時、キーラに止められ、説得された。
 もしここで俺が死んだら、きっとリオはあの世で俺を拒絶し、来世でも会うことは出来ないだろうと…。
 死ぬなら、リオが望んだことを全部お前が叶えてから死ねと言われた」
 オリバーは、乱暴だが必死に奮い立たせてくれたキーラに感謝する。
 キーラの言葉で思いとどまったおかげで、バシリオが生きていると知り、再会出来た。
「俺は今世も、来世も、その次も、ずっとリオと共にいたい。未来永劫リオのそばにいたい!
 愛してる!リオ!愛してるんだ!!」
 オリバーが泣きながら叫び、再びバシリオを抱きしめた。
「好きだ…。もうずっと、何年も前から。お前だけ、リオだけを愛してる。お前のためなら、何だってする」
 力強く抱きしめられ、バシリオは触れた箇所から彼の愛を含んだ魔力が流れ込んでくるのを感じた。
 それはとても熱く体を包んでくる。
 先ほど感じた翔平の魔力と似ているが、違うものだった。体の奥深くまで染み渡るような熱を伴っている。

 気が付けば、バシリオはその熱さに絆されるように体から力を抜き、彼に体を預けていた。無意識で、その熱をもっと感じたくて、オリバーの背中に両手を回し、しがみついていた。
 オリバーから感じる魔力は、翔平の優しく癒すためのものではなく、己を全て取り込んで大切に包んでくれるような、安心させてくれるものだった。


 人を好きになる、愛するというのは、こんなにも熱いのか。


 バシリオは目を閉じてその熱を受け止める。そして、自分が感じていた翔平への恋心は、これほど熱い思いではなく、ほんのりと温かい憧れに近いものであることに気付いてしまった。
 自分は翔平に対してここまで熱いものを感じてはいなかった。ロイとディーに対して敵わないと思ったのも、きっとこの違いなのだろうと。

 ロイとディーが翔平に抱く強く熱い愛情を、自分は今オリバーから感じている。
 体を燃やし尽くされるような熱い想いを受け取り、バシリオはその熱にのまれていった。
「オリバー…」
 名を呼ぶと、オリバーは静かにバシリオを離し顔を見る。
「僕、ショーヘイさんにフラれちゃったよ」
 バシリオは笑顔で言った。
 オリバーは泣き笑いのような表情を浮かべ、バシリオの頭を慰めるように撫でた。
「俺は、絶対にフリませんよ。どんなに貴方が嫌がっても、ずっとそばにいます。
 絶対に1人にしない」
 バシリオはその言葉に嬉しそうに笑った。

 家族を失い、1人になってしまったバシリオにとって、今一番欲しかった言葉であり、家族のように無条件で愛してくれる存在が必要だった。
 その存在がオリバーだと気付く。
 オリバーがそばにいてくれるから、悪夢から解放された。
 彼の存在が、彼から向けられる無条件の愛がバシリオの心を救った。


 オリバーからの無限の愛を受け取ったバシリオの心の中で、小さな芽が顔を出す。
 いつかその芽は大きく成長し、愛という大輪の花を咲かせることになるが、それはまだ少し先の話になる。





 ディーと2人で部屋に戻ると、ロイがソファでだらけていた。
「おかえり~」
 ダラダラした状態でロイが首だけを動かして俺たちを出迎える。
「聞いたか?3時に転移してくるって」
「ええ、聞きましたよ」
「早く帰りてぇなあ~」
 あ~と両手をソファの背もたれに広げ、天井を見上げながら呟いた。
 そんなロイの様子にクスッと笑いながら、俺は先ほどのオリバーのことを確認する。
「あのさ、オリバー様って、もしかしてバシリオ様のことを?」
「ええ、そうですよ」
 やっぱりそうか、と俺は自然と笑みが溢れた。
「どうかしたのか?」
 ロイが両腕を下げ、昼食で何かあったのか?と聞いてきたので、俺たちの関係をはっきりと伝えたこと、さらにバシリオの腕を再生治療したこと、オリバーがバシリオを固く抱きしめて喜んでいたことを伝えた。
「そおか~。バラしたかあ~」
 ロイはライバルが減ったと目に見えて喜んでいた。
「リオはとっくに諦めてたようですね」
「そりゃあな。俺たちの愛に勝てるもんかよ」
 フフンとドヤ顔を決めるロイに苦笑して、バシリオの悲しそうな目を思い出した。
「……心配だったんだよな…」
 目を伏せ、バシリオを思う。
「家族を一気に失って…。しかも酷い死に方を見せられて…。精神的にやられてもおかしくないだろ。
 でも、すごく頑張ってる……」
 俺の言葉に、ロイもディーも真顔になると2人もバシリオのことを思った。
「リオを動かしているのは、王族であるという責任感と、国と国民に対しての強い思いです」
「そうだな。生半可な思いじゃない」
「きっと、必死に感情を押し殺して、心を擦り減らしてると思ったんだよ。
 いつか…壊れてしまう、そう思うと心配でさ。腕を戻す以外に、何か出来ることがないかなって思ってたけど…」
「まさか、そばにいて支えてやろうと思ったわけじゃないですよね」
 ディーが苦笑いを浮かべる。
「違うよ。そうじゃない。
 ただ、家族のように、家族以上に彼を愛してくれる人がいないかなって思ったんだ。そんな人を探せないかなって。
 でも、近くにいたんだな」
 俺は、初恋の相手である俺がそばにいても、彼の心が癒されることはないと思った。
 今の彼に必要なのは、彼が愛する人ではなく、彼を心から愛してくれる人。そう思ったのだ。
 それがオリバーだった。
「オリバーは男爵家出身で、バシリオと年が近いこともあって、遊び相手として召し上げられたそうです。
 ですが、彼はバシリオを好きになり、一生涯尽くすことを決めたそうですよ」
「リオの影となり、仕えることでその身を捧げようとしたわけだ。
 だが、今回の件で感情のタガが外れた」
「そっか…。なら大丈夫だな。
 きっとオリバー様がバシリオ様を支えてくれる。心を癒して救ってくれるよ」
 そう確信しホッと胸を撫で下ろした。
「今回はショーヘイの救済は必要ないってことですね」
 ディーが笑いながら言い、俺は??と首を捻る。
「救済?俺が?」
 俺が答えると、ロイとディーは一瞬驚いた後、声を上げて笑い出した。
「??何だよ。俺が何かしたか?」
 それに2人は答えず、ただおかしそうに笑っていた。


 キースやシェリーの心の闇を曝け出させ、救ったことに気付いていないのか。
 ついこの間はユージーンを救っているのに。
 心の怪我を治療しているということに気付いていない翔平に、2人は笑う。


 翔平は答えてくれない2人にむぅと口を真横に結んで不貞腐れるような顔をした。
「そんな顔しないで」
 隣にいるディーが俺の肩を抱いてチュッと頬にキスをする。
 ロイも向かい側のソファから移動すると、ディーとはさむように反対側に座った。
「ショーヘーはそのままでいてくれ」
 ロイも反対側の頬へキスをした。
 俺は意味がわからず変な顔をしたが、それでも、触れた所から伝わる2人の愛を含んだ魔力に絆され、まあいいか、と考えるのを止めた。










 午後2時半、デクスターが俺たちを迎えに来た。
 俺はキースとロマに会えると、ウキウキしながら部屋を後にする。



 元々キドナにも転移魔法陣はある。
 公国と違って、数百キロという長距離移動は出来ず、目的地が遠い場合は各場所にある転移魔法陣を次々に使用しなければならなかった。到着してすぐ次の場所へ転移出来るわけもなく、魔力の補充、向かう先の座標の設定など、細かな調整が必要となるため、一番遠くの転移先に行くためには約半日ほど時間がかかるのが現状だった。
 転移に必要な魔力を溜める魔鉱石も公国に比べると随分と小さく、数も少ない。それが長距離移動が出来ない原因にもなっている。

 ギルバートとデクスター主導で、長距離移動に必要な魔力を維持できる魔鉱石が集められた。
 その魔鉱石はダニエルが見つけていた。
 ベネット経由でザカン商会へ流れた魔鉱石の中には、公国と同じような大きさの巨大な魔鉱石がいくつもあった。
 それはナイゼルの指示でザカン商会が隠し持っていた物で、来るべき時、つまりは軍事目的のために保管されていた。
 さらに現在軍事用として使われていた魔鉱石も、当面は不要となったために転移魔法のために使われることになった。
 後は、小中距離の魔法陣を長距離のものに書き換え、座標の設定をするだけである。


 王城の一角にある転移魔法陣の広間に、キドナ、公国、マールデンの関係者が勢揃いする。
 皆、表情が明るく今か今かとと起動を待つが、キドナ側は初めての長距離転移に緊張した表情を浮かべていた。

 午後3時。デクスターが転移魔法陣が起動する。

 何度見ても面白いと俺は思った。
 直径10mほどの魔法陣全体が眩い光を放ったかと思うと、光の柱が立ち上がる。
 その光が安定し光の粒子が舞い始めると、その中心部分に蜃気楼のようなぼんやりした映像が現れ、映像が立体的になり、最後にははっきりと人の姿になる。
 魔法陣の中に、キース、ロマ、セシリアの姿が現れた後、光の柱は薄まり徐々に消えていった。

「お待ちしておりました」
 魔法陣から光が消え去り、バシリオが一歩進み出る。
 キースを先頭に、3人は魔法陣から出てきた。
「お出迎え、感謝いたします」
 キースが笑顔でバシリオの正面に立つと、バシリオはすぐにキースの前に跪き手を取って口付けた。
「キース王子妃殿下、キドナ暫定国王バシリオ・クルーズでございます。この度はわざわざこちらにお越しくださり、国を代表して心よりお礼申し上げます」
 俺は、数週間ぶりのキースの姿に涙が出そうになるのを、両手を握りしめて必死に堪えていた。
 妃殿下と呼ばれたキースは、いつもの執事服ではなく正装姿だった。王族の1人として、サンドラーク王家の紋章が入った長いローブを羽織っており、それがとてもよく似合っていて、俺は感無量だった。
 その姿と醸し出される気品は、まさに王族に相応しいと嬉しかった。
「大賢者ロマ様。セシリア王女殿下。ようこそおいでくださいました」
 バシリオがキースの後ろにいる2人へも跪いて挨拶する。
「お久しぶりですね、バシリオ殿下」
 ロマがバシリオに微笑み、現在彼の置かれている状況や心境を慮って優しく語りかけ、彼の手を取って立たせると、そっと抱きしめていた。
 キドナ側の挨拶が終わると、バシリオ達は俺たちとメイノールの再会を邪魔しないため、壁際まで下がる。


 メイノールは小さく震えていた。
 目の前に、ずっと会いたいと願っていたセシリアがいる。
「セ……」
 その名前を呼ぼうとしたが、声が出ない。それと同時に目の前が涙で歪み、その姿さえまともに見ることが出来なかった。
 メイノールが一歩前に進もうと足を出したが、膝が震えてよろめいてしまう。
 ライアンがすかさず支え、彼の歩みを助けるように進み始めた。
「お兄様……」
 セシリアも前に出た。
「セシリア……」
 その声を聞き、メイノールはようやっと声が出た。
「セシリア!!」
 震える足を前に出し、セシリアへと急いだ。彼女もまた兄の元へ駆け寄る。
「お兄様…」
 お互いに触れる位置まで近づき、互いに手を伸ばす。その手に触れ、本当に目の前にいると存在を確かめた。
 メイノールの手が伸び、恐る恐るセシリアの頬に指先が触れる。
「ああ…セシリア……僕の…可愛い妹……」
 メイノールの美しい顔がクシャクシャに歪むと大粒の涙が滝のように溢れる。だが、その涙を拭うこともせず、両手でセシリアの頬を包み、微笑んだ。
「ノール兄様…」
 セシリアもメイノールの顔を見て、涙を流し、頬に触れているメイノールの手にそっと手を重ね、握った。
 2人の脳裏に、ありし日の姿が、過ごした日々が蘇る。
 どちらかともなく両腕が伸び、しっかりと抱きしめ合った。そのまま崩れ落ちるように座り込み、抱き合ったまま声を上げて泣いていた。


 俺は感動の兄妹の再会に、堪えきれない涙をハンカチで拭う。
 400年という長い年月を経て、再び会えた喜びが兄妹の涙を止めることはなかった。


 良かった。本当に良かった。


 俺は目元をハンカチで抑えながら、感動に心が打ち震えた。
 ロイとディーが俺を気遣ってそっと左右から抱きしめてくれた。
 顔を上げると、2人も少しだけ目が潤んでいる。ジャニスやアビゲイル達も涙を浮かべ、この場にいる全員が兄妹の再会を目撃して泣いていた。

「ショーヘー」
 ロイが俺の背中を押す。
 涙を拭いて隣のロイを見上げ、そして促されるように正面へ顔を向けた。
 そこにキースが涙を浮かべて立っていた。
「キース……」
 キースが静かに俺に近付くと、触れられる場所で立ち止まりじっと俺の顔を見つめた。
「少し、お痩せになりましたね」
 キースが泣きそうな表情で笑顔を作る。そして、その目から静かに涙が溢れた。
 たった2週間やそこらで、こんなに目に見えて痩せてしまうなんて、とキースの手が俺の頬に触れそっと撫でる。
 その頭にあるウサ耳が垂れ下がり、小さく震えている。
 この動きは、悲しみであることを俺は知っている。
「大丈夫。いっぱい食べて、すぐに元に戻るよ」
 俺も笑顔を浮かべるが、涙が頬を伝った。
「ショーヘイさん……」
 堪えきれなくなったキースの顔がくしゃっと歪むと、両腕でしっかりと俺を抱きしめた。
「無事で、本当に良かった」
 キースの手が俺の頭を撫で、背中をさする。その手が細かく震えており、キースから不安や恐怖といった感情を含んだ魔力を感じ取った。
「……キース…ごめ……」
 黙って出て行ってごめん、と俺もキースの背中に両腕を回した。
「会いたかった」
「うん、俺もだ」
 キースを抱きしめ、俺はその体が俺と同じように痩せてしまったことを知った。きっと俺が出て行き、キースは心労で食が細くなってしまったのだろう。
「ごめん……ごめんな、キース」
 こんなになるまで心配をかけてしまった。俺は申し訳なくて、キースにしがみつき嗚咽を漏らした。
「ショーヘイ」
 キースの後ろからロマが声をかける。
「ロマ様……」
「とても心配したんだよ」
 俺はロマにも抱擁する。
 ロマは俺の頭をよしよしと撫でてくれ、俺は一回りも小さいロマに抱きしめられ、母親に甘えているような錯覚を起こす。
「すみません、勝手な行動をして」
「本当だよ。皆どれだけ心配したことか」
 ロマは咎めるように言うが、頭を撫でてくれる手は優しかった。
「でも、あれが最善だったんだね。あれしか方法がなかったんだ」
 ロマは俺を離すと、俺が出て行ったことは正しいことだったと認めてくれた。
「お前ばっかり辛い思いをさせてすまないね。本当にごめんよ」
 ロマが泣きながら謝りはじめ、俺は母親を泣かせてしまったような気分になって逆に辛くなってしまった。
「謝らないでください。貴方に泣かれると、とても辛いです」
 俺は再びロマの小さな体を抱きしめる。
「ショーヘイ、ユリアを守ってくれてありがとう」
 ロマが顔を上げ、再び俺の頭を撫でた。


 それぞれが再会を果たし喜びあう中、バシリオが口を開く。
「オスカー様、モーリス様、準備が整いました」
 キース達と入れ違いに戻る3人が魔法陣に近付いて行く。
「じゃあ、先に戻ってるな」
「ではまた王都で」
 オスカーが鞄片手に俺の頭をポンポンと撫でるように叩き、ヒラヒラと手を振る。
 モーリスは俺たちに丁寧に頭を下げ、スミスと共に魔法陣へ向かった。
「お世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
 バシリオが2人へ深々と頭を下げ、握手を交わし、3人は転移魔法陣の中央へ移動した。
「転移魔法陣起動します」
 デクスターが告げると、先ほどと同様に光の柱が立ち上がり、逆再生するように見えていた姿が朧げになり、そしてシュンとかき消えた。
「それでは皆様、お部屋をご用意しております。積もる話もございましょう。どうぞ本日はごゆっくりとお過ごしください」
 ウェーバーが広間の扉を開けると、案内するためのメイドが入ってきた。
 場所の移動を開始するが、慌てたようにセシリアがメイノールから離れて俺の方へ駆け寄ってきた。
「聖女様」
 セシリアが静かに俺の前に跪き、頭を下げた。
「兄メイノールを救っていただき、誠にありがとうございました。
 400年の時を経て再び兄に会えたのも、貴方様のおかげでございます」
「王女様、どうかお立ちになってください」
 俺は彼女の手を取ると、立たせて正面で向かい合う。
 彼女の顔を見て、とても美しい女性だと思った。メイノールにもメルヒオールにも、どこか似ている。確か520歳くらいだと聞いているが、俺よりもずっと若く20代後半から30代といった姿だった。
「メイノール様は、ずっと貴方を探しておいででした。貴方にお会いしたいと、ずっと願っておいででした。
 どうかメイノール様の思いを聞き、受け止めてくださいますよう、私からもお願い申し上げます」
 静かに頭を下げた。
 こんなこと、無関係な俺が頼む筋合いではない。

 俺がメイノールと一緒にいた時間は短い。その事情を知ったのもつい最近で、彼からしか話は聞いていない。だが、彼の悔恨の気持ちや悲しみは本物だと思った。
 セシリアにも思う所はたくさんあるだろう。エルフ至上主義の洗脳のまま彼女を罵り、存在まで否定するような発言をしたのは事実であり、それを覆すことは出来ない。
 だが、セシリアに謝りたいと言ったメイノールの気持ちは本物で、実際に会った今、彼はようやく救われる。救ってやって欲しいと心から願った上での頼みだった。

 セシリアは俺の言葉に優しく微笑む。
「聖女様。兄に寄り添っていただきありがとうございます。
 私はそのつもりでこちらに参りました」
 セシリアが俺に深々と頭を下げた。
「ショーヘイ、ありがとう」
 泣いて目を赤くしたメイノールも俺に近寄ると、一度キュッと抱きしめてくれる。
 そして2人は手を取り合って広間を後にした。その後ろ姿を見て、400年の時間を埋めるのに、そう時間は必要ないだろうなと思った。
 それほど互いを見る目は家族に対する愛情が込められており、長い年月会っていなかったことなど嘘だと思えるくらい仲睦まじい姿だった。



 俺達も移動する。
 まずは、一度キースとロマが宿泊先の部屋に荷物を置くために別れ、俺たちは大きめの応接室に案内された。
 ややしばらくしてキースとロマもやってくると、3人掛けのソファに俺、ロイ、ディーが。その向かい側に、ギルバート、キース、ロマが座った。
 騎士達は周りにある円卓やソファにそれぞれ座る。
 ロイとディー、ギルバート、護衛騎士達。そしてキースとロマが揃ったことで、俺は瑠璃宮にいるような感じがした。


 メイドがお茶やお茶菓子の準備が終わり出て行った後、話が始まる。
 キースはじっと俺を見て、魔力が枯渇したと聞いているようで、俺の体調ばかり気にしていた。
「キース、本当にもう大丈夫だよ」
 俺は何度もキースに伝えるが、それでも不安な表情は消えなかった。
 そんなキースの様子に、後で2人だけで話をしようと思った。
 きっと彼は専属執事としての立場もそうだが、何よりも友人として俺を心配してくれている。いやそれ以上の、家族のように思ってくれている。
 俺はそれが嬉しかった。


 俺の体調の話から、ロマが話を切り出す。
「ショーヘイ、今度正式に魔力量の測定をしてみないかい?」
「出来るんですか?」
 王都についてから、測定の話は1度出ただけで終わっていた。王都にある鑑定スクロールでは、俺の魔力は測れないらしい。
 測れるのは50万ほどが上限で、普通ならそれでこと足りる。
「ガリレア聖教会の本部にある鑑定魔法陣なら、もしかしたら可能かもしれないと思ってね」
「本部…。カレーリアのですか?」
 王都へ向かっている時と、キドナへ向かう時、2度カレーリアを通過した。そこに大きな大聖堂があるのを遠くから見ていた。
「そうだよ。一度王都に戻って落ち着いてからの話になるけど、一度きちんと調べておいた方がいいと思ってね」
 ロマが真剣に言った。
「それと、ロイ、ディーゼル。お前達も正式に魔力を鑑定しなさい。
 ロイは一度鑑定しましたが、簡易的なものではなく、正確に測っておいた方がいいでしょう」
 ギルバートが2人に微笑んだ。

 ロイは赤い月の時に枯渇と復活を繰り返して爆発的に増えた。
 ディーは翔平が出て行ったと知った時に起こした魔力暴走で魔力が変質し、何らかの覚醒が起こったと考えられると付け加えた。
「わかりました。では今度カレーリアに」
 俺が返事をし、ロイとディーも頷いた。
「大司教にはあたしの方から連絡しておくよ」
 大司教なんて人がいるのか、と元の世界の宗教を思い出す。言葉は知っているが、偉い人という認識だけだ。
 これは行く前に聖教会についても勉強しとかないと、と頭の片隅にメモを取った。

 とりあえず、これからやることが一つ出来た。
 年末年始を乗り切れば、日常が戻ってくる…はずだ、と昨日聞いた憂鬱な行事にため息が出そうになった。


 そして話は本題へと移行する。
 オスカーが欠けてしまったが、モーリスとスミスがいない状況で、今回のキドナ謀略の件についてのまとめが始まった。



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目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

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