27 / 81
27
しおりを挟む
2人が飛鳥寺に戻ってくると、どうやら椋毘登と恵慈も出先から戻ってきているようだった。
厩戸皇子は恵慈の元に会いに行き、椋毘登は稚沙が書物の仕訳をしている部屋にいるとのことだったので、雪丸を皇子に返し、急いで彼の元へとやってきた。
「椋毘登、ごめんね!ちょっと外に出ていたから」
稚沙が思わず椋毘登本人を見ると、彼は彼女が自分あてに書いた木簡を握っていた。
そしてどうやら、彼はかなり不機嫌そうな様子をしている。
「く、椋毘登、もしかして怒ってる……」
「当たり前だ!お前は今まで一体何をやっていたんだ!それに何だよこの内容は!!」
稚沙は慌てて、自身が書いた木簡を手に取ってあらためて読んでみる。
木簡には「厩戸皇子と外に行ってきます。帰る頃までには戻ってくるね!」みたいな内容が漢字をもちいて書かれていた。
「お前な、書くならもう少し内容のわかることを書いておけよ。
それと仕事を皇子に手伝わせて、早く終わったから外に出掛けるとか、一体何を考えてるんだ!」
(何よ椋毘登、何もそこまで起こらなくても......)
こうして稚沙はその後、椋毘登から散々に説教を受けるはめになった。そして飛鳥寺の部屋の中では、今日は椋毘登は声がとてもよく響いていた。
その後、彼らの様子が気になった厩戸皇子が部屋にやって来る。そして彼の説得により何とか無事にその場を納めることができた。
だがそれとは別に、稚沙にはもう1つ悲しいことがあった。
それは厩戸皇子が雪丸を連れて斑鳩に戻る時間になってしまったからだ。
「雪丸~せっかく仲良くなれたのに~!」
「くぅーん!くぅーん!」
雪丸の方も稚沙とお別れするのが分かっているようで、悲しく声を出して泣いている。
「うーん。今日の雪丸はずっと稚沙の腕の中にいたから、すっかり懐いてしまったようだ」
この状況には、さすがの厩戸皇子も少しばかり苦笑いをしてしまう。
「稚沙、いい加減あきらめて、厩戸皇子にその犬を渡せよ」
椋毘登は半分呆れたようにして、彼女にそう催促する。彼も早いところこの場を切り上げたいのだろう。
「何よ、椋毘登!雪丸はこんなに可愛いんだから」
「……いいから渡せ」
稚沙も先ほどまで椋毘登に散々怒られていたので、今は中々彼に反論がしにくい。
「そ、それは分かってるんだけど、次いつ会えるかも分からないから……」
稚沙はそういって、尚も雪丸を抱き締める。
だがしばらくして、稚沙もさすがにこれ以上駄々をこねるのは悪いと思い、渋々に厩戸皇子に雪丸を渡した。
皇子の住む斑鳩では、きっと彼の家族達が、雪丸がやって来るのを今か今かと待っているばすだ。
一方の雪丸のもジタバタ暴れて、何とか稚沙の方に行きたい素振りを見せてくる。
そんな雪丸のいたいげな姿を見て、稚沙も胸をジーンとさせた。
(ゆ、雪丸~!)
「雪丸、本当に元気でね。私のこと忘れないで~」
「お前な、何も今生のお別れって訳じゃないんだから」
そんな稚沙の様子を見た厩戸皇子は、何とも愉快そうにしながら彼女にいった。
「そうだよ、稚沙。また雪丸に会わせてあげるから」
「う、厩戸皇子、それは本当ですか!」
「あぁ、本当だよ。だから安心しなさい」
それを聞いた稚沙はやっと納得することが出来た。もちろんまたすぐに会える訳ではないだろうが、厩戸皇子が会わせてくれるといっている。ならその時を楽しみに待つことにしよう。
(雪丸、しばらくは会えないけど元気でいるのよ)
それから皇子は雪丸を布に納めると、紐で器用に自身の胸下に巻き付ける。
そして既に厩から連れ出してきた自身の馬にさっとまたがって乗った。
「じゃあ、私は斑鳩宮に戻るとするよ。稚沙と椋毘登も気をつけて帰るんだよ」
厩戸皇子は2人にそういうと、壮快に馬を駆け出していった。
稚沙と椋毘登は、そんな皇子を姿が見えなくなるまでその場から見送っていた。
そして気が付くと、日が傾き出してきたので、椋毘登もさっさと稚沙を家まで送り届けることにした。
こうして今日も、慌ただしい日常がやっと終わりを告げることになった。
厩戸皇子は恵慈の元に会いに行き、椋毘登は稚沙が書物の仕訳をしている部屋にいるとのことだったので、雪丸を皇子に返し、急いで彼の元へとやってきた。
「椋毘登、ごめんね!ちょっと外に出ていたから」
稚沙が思わず椋毘登本人を見ると、彼は彼女が自分あてに書いた木簡を握っていた。
そしてどうやら、彼はかなり不機嫌そうな様子をしている。
「く、椋毘登、もしかして怒ってる……」
「当たり前だ!お前は今まで一体何をやっていたんだ!それに何だよこの内容は!!」
稚沙は慌てて、自身が書いた木簡を手に取ってあらためて読んでみる。
木簡には「厩戸皇子と外に行ってきます。帰る頃までには戻ってくるね!」みたいな内容が漢字をもちいて書かれていた。
「お前な、書くならもう少し内容のわかることを書いておけよ。
それと仕事を皇子に手伝わせて、早く終わったから外に出掛けるとか、一体何を考えてるんだ!」
(何よ椋毘登、何もそこまで起こらなくても......)
こうして稚沙はその後、椋毘登から散々に説教を受けるはめになった。そして飛鳥寺の部屋の中では、今日は椋毘登は声がとてもよく響いていた。
その後、彼らの様子が気になった厩戸皇子が部屋にやって来る。そして彼の説得により何とか無事にその場を納めることができた。
だがそれとは別に、稚沙にはもう1つ悲しいことがあった。
それは厩戸皇子が雪丸を連れて斑鳩に戻る時間になってしまったからだ。
「雪丸~せっかく仲良くなれたのに~!」
「くぅーん!くぅーん!」
雪丸の方も稚沙とお別れするのが分かっているようで、悲しく声を出して泣いている。
「うーん。今日の雪丸はずっと稚沙の腕の中にいたから、すっかり懐いてしまったようだ」
この状況には、さすがの厩戸皇子も少しばかり苦笑いをしてしまう。
「稚沙、いい加減あきらめて、厩戸皇子にその犬を渡せよ」
椋毘登は半分呆れたようにして、彼女にそう催促する。彼も早いところこの場を切り上げたいのだろう。
「何よ、椋毘登!雪丸はこんなに可愛いんだから」
「……いいから渡せ」
稚沙も先ほどまで椋毘登に散々怒られていたので、今は中々彼に反論がしにくい。
「そ、それは分かってるんだけど、次いつ会えるかも分からないから……」
稚沙はそういって、尚も雪丸を抱き締める。
だがしばらくして、稚沙もさすがにこれ以上駄々をこねるのは悪いと思い、渋々に厩戸皇子に雪丸を渡した。
皇子の住む斑鳩では、きっと彼の家族達が、雪丸がやって来るのを今か今かと待っているばすだ。
一方の雪丸のもジタバタ暴れて、何とか稚沙の方に行きたい素振りを見せてくる。
そんな雪丸のいたいげな姿を見て、稚沙も胸をジーンとさせた。
(ゆ、雪丸~!)
「雪丸、本当に元気でね。私のこと忘れないで~」
「お前な、何も今生のお別れって訳じゃないんだから」
そんな稚沙の様子を見た厩戸皇子は、何とも愉快そうにしながら彼女にいった。
「そうだよ、稚沙。また雪丸に会わせてあげるから」
「う、厩戸皇子、それは本当ですか!」
「あぁ、本当だよ。だから安心しなさい」
それを聞いた稚沙はやっと納得することが出来た。もちろんまたすぐに会える訳ではないだろうが、厩戸皇子が会わせてくれるといっている。ならその時を楽しみに待つことにしよう。
(雪丸、しばらくは会えないけど元気でいるのよ)
それから皇子は雪丸を布に納めると、紐で器用に自身の胸下に巻き付ける。
そして既に厩から連れ出してきた自身の馬にさっとまたがって乗った。
「じゃあ、私は斑鳩宮に戻るとするよ。稚沙と椋毘登も気をつけて帰るんだよ」
厩戸皇子は2人にそういうと、壮快に馬を駆け出していった。
稚沙と椋毘登は、そんな皇子を姿が見えなくなるまでその場から見送っていた。
そして気が付くと、日が傾き出してきたので、椋毘登もさっさと稚沙を家まで送り届けることにした。
こうして今日も、慌ただしい日常がやっと終わりを告げることになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
魔王の残影 ~信長の孫 織田秀信物語~
古道 庵
歴史・時代
「母を、自由を、そして名前すらも奪われた。それでも俺は――」
天正十年、第六天魔王・織田信長は本能寺と共に炎の中へと消えた――
信長とその嫡男・信忠がこの世を去り、残されたのはまだ三歳の童、三法師。
清須会議の場で、豊臣秀吉によって織田家の後継とされ、後に名を「秀信」と改められる。
母と引き裂かれ、笑顔の裏に冷たい眼を光らせる秀吉に怯えながらも、少年は岐阜城主として時代の奔流に投げ込まれていく。
自身の存在に疑問を抱き、葛藤に苦悶する日々。
友と呼べる存在との出会い。
己だけが見える、祖父・信長の亡霊。
名すらも奪われた絶望。
そして太閤秀吉の死去。
日ノ本が二つに割れる戦国の世の終焉。天下分け目の関ヶ原。
織田秀信は二十一歳という若さで、歴史の節目の大舞台に立つ。
関ヶ原の戦いの前日譚とも言える「岐阜城の戦い」
福島正則、池田照政(輝政)、井伊直政、本田忠勝、細川忠興、山内一豊、藤堂高虎、京極高知、黒田長政……名だたる猛将・名将の大軍勢を前に、織田秀信はたったの一国一城のみで相対する。
「魔王」の血を受け継ぐ青年は何を望み、何を得るのか。
血に、時代に、翻弄され続けた織田秀信の、静かなる戦いの物語。
※史実をベースにしておりますが、この物語は創作です。
※時代考証については正確ではないので齟齬が生じている部分も含みます。また、口調についても現代に寄せておりますのでご了承ください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる