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56【謎の事件】
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久々に小墾田宮にも喜ばしい知らせが入ってきた。それは厩戸皇子が以前からが建立を発願していた、斑鳩寺がことたび無事に完成したとのこと。
この寺院は、元々厩戸皇子の父親にあたる橘豊日大王が、自らの病気平癒のために建立を発願した。だが大王がほどなくして亡くなってしまったため、それを皇子の彼が引き継ぐことにしたのだ。
(厩戸皇子、ついに完成されたんですね)
稚沙自身もこの寺院の建立の話は聞いていたので、それがやっと完成したと知り、我がごとのように喜んでいた。
「よし!次に厩戸皇子にあったら、ぜひとも祝いの言葉をお伝えしなくっちゃ!!」
それから彼女はふと回れ右をして、自身の仕事場へと軽い足取りで向かっていきだした。今までは休憩中だったが、もうそろそろ仕事場へ戻らないといけない時間になっている。
そして彼女が1人黙々と歩いていた時のこと。突然に「おーい、稚沙ー!」と誰かが声をかけてきた。
(一体誰だろう?)
彼女は思わずその声の主の方に顔を向ける。するとそこに1人の青年が立っており、相手は蘇我馬子の息子の蝦夷だった。
「あ、蝦夷!久しぶり!!」
彼とは最近会って話をすることがなく、わりと久しぶりな感じがした。本人も小墾田宮にはちょくちょくきているのだろうが、彼女の前にはどういうわけか全く姿を見せないでいた。
そんな蝦夷はゆっくりとした歩きで稚沙の元にやってくる。彼は相変わらず、背も高くがっちりとした体格をしている。
また彼の場合、普段はどちらかというと崩した服装をしている印象があるのだが、今日はわりと立派そうな服装をしている。
「それは俺が小墾田宮にきても、稚沙がいつも仕事に追われて忙しいそうだったから、何となく悪い気がしたんだよ」
「えぇ?そうだったの。それはごめんなさい」
「それに椋毘登の目もあるから、なかなか難しい所もあって。まぁ、俺なりに色々と気を遣ってるわけ」
蝦夷は少し拗ねた感じで稚沙にそう話す。今の彼にとっての彼女は、自身の従兄弟の相手の女性っていう扱いなのだろう。
「まぁ、椋毘登は変なところで気にするから...」
「本当にあいつは、何で自分の女にはこうも神経質なんだろうな」
それをいわれると稚沙も中々言葉に困ってしまう。確かに椋毘登がちょっと心配性なのは確かなのだが。
「蝦夷だって今は相手の女性が既にいるわけなんだから、そこら辺は多めに見てもらいたい。確か物部の人なんだっけ?」
ちょうどこの頃蝦夷の周りの人達は、彼と物部一族の鎌姫という娘の婚姻を考えていた。また蝦夷本人もどうやらまんじゃらでもないようで、何とも良い兆しが見えている。
「まだ正式に決まったわけではないんだがな。それと稚沙も知ってるとは思うが、過去に物部守屋が倒された時に、何も全ての物部一族全てが処分された訳じゃないからさ」
「そうよね。葛城の人達だって今も大和の皇族に仕えてるわけだし。まあ、あくまで一部の人達が倒されたってことよね?」
この寺院は、元々厩戸皇子の父親にあたる橘豊日大王が、自らの病気平癒のために建立を発願した。だが大王がほどなくして亡くなってしまったため、それを皇子の彼が引き継ぐことにしたのだ。
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「よし!次に厩戸皇子にあったら、ぜひとも祝いの言葉をお伝えしなくっちゃ!!」
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そんな蝦夷はゆっくりとした歩きで稚沙の元にやってくる。彼は相変わらず、背も高くがっちりとした体格をしている。
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「えぇ?そうだったの。それはごめんなさい」
「それに椋毘登の目もあるから、なかなか難しい所もあって。まぁ、俺なりに色々と気を遣ってるわけ」
蝦夷は少し拗ねた感じで稚沙にそう話す。今の彼にとっての彼女は、自身の従兄弟の相手の女性っていう扱いなのだろう。
「まぁ、椋毘登は変なところで気にするから...」
「本当にあいつは、何で自分の女にはこうも神経質なんだろうな」
それをいわれると稚沙も中々言葉に困ってしまう。確かに椋毘登がちょっと心配性なのは確かなのだが。
「蝦夷だって今は相手の女性が既にいるわけなんだから、そこら辺は多めに見てもらいたい。確か物部の人なんだっけ?」
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「まだ正式に決まったわけではないんだがな。それと稚沙も知ってるとは思うが、過去に物部守屋が倒された時に、何も全ての物部一族全てが処分された訳じゃないからさ」
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