大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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29P《春を彩る、女神を見て》

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  こうしてこの日の、桜見物は終わりとなった。瑞歯別大王達みずはわけのおおきみはそのまま宮に戻るとの事だった。

  それを聞いた忍坂姫おしさかのひめは、やはり雄朝津間皇子おあさづまのおうじとの婚姻の件で、大王と話しをしたいと思った。
  その為、大王に少し時間を作って欲しいとお願いした。

  雄朝津間皇子は何で自分抜きなんだと、少し怒っていたが、そこを何とかお願いして大王と2人にさせてもらった。



「忍坂姫。で、俺に話しとは何だろうか」

  瑞歯別大王は彼女にそう聞いてきた。

(それにしても、大王は本当に素敵な方ね。彼の前だと変に緊張するから、出来れば余り2人きりにはなりたくなかったけど、ここは仕方ないわ)

「はい、まずは今回の私の婚姻の件での了承と、雄朝津間皇子の宮での生活を勧めて下さり有り難うございます。
  父も、こんなにあっさりと大王が了承されたので、内心ちょっと驚いてました」

  忍坂姫自身も正直、父親と同じ意見だった。しかも雄朝津間皇子の了承は無しにでだ。てっきり雄朝津間皇子の了承あっての事だとばかり思っていた。

「でも実際に弟に会ったら、違っていただろう?」

  瑞歯別大王もやはりその辺は予想していたようだ。

「はい、皇子は渋々了承させられたと言ってました。私が思うに、あっさり皇子が断るのを大王は予測して、それで1ヶ月と言う猶予期間を作る事にしたのかなと思いました」

  それを聞いた瑞歯別大王は、やはりこの娘はちゃんと分かっているなと思った。

「あぁ、君の言う通りだ。あいつは最初に断るとはっきりと言っていたからな。
弟も年齢的にそろそろ妃を娶って貰いたいと思っていた。
  だが中々その気配がなくて、それで少し行動に起こしてみようと思ったんだ」

  確かに雄朝津間皇子の今の状態を考えると、本人任せにしても中々話しがまとまらないだろう。であれば今回のような事をしないと何も変わらない。

「今の雄朝津間皇子の状態を考えると、大王がそうされる気持ちも良く分かります」

  忍坂姫はふと今の自分の状況を考えてみた。確かに最近少し雄朝津間皇子の様子が変わってきている感もなくは無いが、それでも自分を妃にしたいと思っているとは中々思えない。

「で、現状的に今はどんな状態なんだ」

  瑞歯別大王は彼女に質問した。

「はい、雄朝津間皇子にその意思は恐らくまだ無いと思っています。まぁ、皇子も多少は変わったかなとは思ってますが」

「なる程な。だが今日俺が見た限りでは、割と仲良くしているふうに見えたし、見込みが無くもないとは思うが。
  ちなみに君自身はあいつの事をどう思っているんだ。君にだって選ぶ権利はあるんだ」

(私が雄朝津間皇子をどう思ってるか……)

「えぇ~と。そうですね。別に嫌ではないのですが、何分あんな性格の皇子なので、やはり不安ですね。
  大王と違って1人の女性を大事にする感じでもありませんし。まぁ、これは皇族の皇子なので仕方ありませんが」

  こうやってはっきりと言葉にすると、やはり不安が大きいのだなと思った。
  それに彼が自分の事を好きになってくれるのかも分からない。


「とりあえず、まだ日数があるから、もう少し様子を見て貰えないだろか。俺も弟が変わってくれるのを期待したい」

  瑞歯別大王が思うに、弟がこの娘に対して全く関心がないとは流石に考えにくいと感じた。なので、もう少し時間が立てばそれもはっきりしてくるだろう。

「分かりました。ではそのようにしてみます。大王わざわざ話しを聞いて下さり、有り難うございます」

  忍坂姫は瑞歯別大王にそう言った。
  確かに雄朝津間皇子も、若干だが変わってきてる感もある。もう少し様子を見てみる事にしよう。

  そしてその後大王は「じゃあ俺は家臣を待たせてあるから」と言い、そのままその場を去っていた。

  忍坂姫は改めて桜の木々を見た。

  桜は満開で、本当に春の訪れを表しているようだ。だがそんな桜の花が咲き誇るのは、ほんのわずかな間だけで、その後直ぐに散ってしまう。

  そのわずかな期間の為だけに、毎年桜は花を咲かすのだ。
  それを人は美しいと思い、そして皆その光景に魅了される。

  自分の淡い恋心も、いずれこの桜の花のように散ってしまうのだろうか。


  そして彼女がこの小高い山を降りると、そこに1人の青年が立っていた。
  良く見ると、それは雄朝津間皇子だった。

「あれ、雄朝津間皇子。待っていてくれたんですか?」

  他の人達はどうやら先に宮に戻って行ったようだ。そんな中、何故彼が帰らずに待っていたのだろうか。

「大王との話しは終わったんだろう。今さっき大王と会ったよ」

  雄朝津間皇子は少しぶっきらぼうな感じで彼女に言った。

「はい、今回この宮に来たのは大王の提案でしたから。そのお礼とその他諸々のお話しをしていました」

  雄朝津間皇子はそれを聞くと、彼のそばにいた馬に乗るよう彼女に催促する。

「帰りはこの馬で一緒に帰ろう。その為に君を待っていた」

  そう言って雄朝津間皇子は忍坂姫を馬に乗せ、それから自身も乗った。

  すると辺りから風が吹いてきて、桜の花びらが空を舞っていた。
  彼女はそんな光景にふと見惚れた。

「桜の花が咲くのってほんの一瞬だけど、だからこそそんな一瞬の為に、美しく咲き誇れるのかもしれない」

  雄朝津間皇子がふとそんな事を言った。

  忍坂姫は、思わず雄朝津間皇子に持たれて、そんな彼の言葉を聞いていた。

(本当に皇子の言う通りね……)

  2人は暫く無言で、そんな桜の花びらを見ていた。
  そして風も止んだ頃、皇子はやっとこさ馬を走らせた。

「雄朝津間皇子、どうして皇子がここで待っていたんですか?」

  忍坂姫は自分の後ろにいる彼に聞いた。

「君が大王と話しがしたいと言ったから、ちょっと気になってね。それに宮に君を1人で帰らせるのも心配だったから」

  雄朝津間皇子はそれだけ彼女に言った。
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