大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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31P《村娘 千佐名の心配》

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  今日忍坂姫おしさかのひめは、雄朝津間皇子おあさづまのおうじ市辺皇子いちのへのおうじと一緒に夕食をとっていた。
  市辺皇子は日中も一緒にとる事があるが、雄朝津間皇子は日中はいない事が多く、夕食時のみである。

「ねぇ、忍坂姫。今日聞いたんだけど、忍坂姫がここにいるのは、あともうちょっとだけなんだよね?」

  どうも市辺皇子が、今日宮の使用人から聞いたようだ。
  この宮で彼女が最近暮らすようになったので、てっきり彼女はずっとこの宮にいるものと思っていたみたいだった。

「そうね、その後は元々住んでいた所に帰る予定になっているわ。でもこの宮から歩いてもそこまで距離がかかる所じゃないから、市辺皇子も私の所にはすぐに来れるわよ」

  市辺皇子はそれを聞いて、ちょっと安心したみたいだった。

「そっか~それなら良いかな。じゃあその時は、誰かに連れて行ってもらうよ」

  忍坂姫としても、市辺皇子とそれ以降会えなくなるのは、少し寂しいと思った。
  だが頻繁にと言う訳には行かないが、自分からこの宮に遊びに来る事も可能ではある。

  だがそんな話しを聞いて、忍坂姫と雄朝津間皇子の2人の場合は、少し状況が異なる。

(瑞歯別大王みずはわけのおおきみは、もう少し様子を見て欲しいと言っていたけれど、私と皇子はその後も特に何も無いし……)

  皇子はこの事について特に何も思わないのだろうか。
  忍坂姫が彼を見ると、普段とかわらずに食事をとっている。

(先日大王にも話したけど、確かに最近皇子が少し変わってきたような気はしている。でもだからといって、何か特別進展があった訳でもないのよね)

「忍坂姫、どうかしたか?」

  雄朝津間皇子は、彼女が少し元気が無いように思えた。

「いいえ、雄朝津間皇子。何でもありませんよ」

  忍坂姫は何とか笑顔を作って、彼に言った。

  先日の桜見物から宮に帰ってきた時、雄朝津間皇子はそのまま一人で、自分の部屋に戻って行った。
  それ以降2人は特に話しをする事もなく、今の夕食に至っている。
  そんな感じの為、進展する要素はまるで感じられない。

(私ももっと何か努力をした方が良いのかしら。元々皇子の場合は、女性の方から言い寄られる事が多かったらしく、自分の方から動く事は余りしなかったのかもしれない)

  とは言っても、忍坂姫も今まで同年代の異性と親しくするなんて事は、そんなに多くはなかった。
  だから、その辺の微妙な男女のやり取りの事は余り良く分かっていない。

  とりあえず、今日は早いところ食事を済ませて横になろう。
  彼女はそう思う事にした。


  忍坂姫がそんな風に思っている時だった。急に部屋に誰かがやって来た。

「雄朝津間皇子、ちょっと宜しいですか?」

  どうやら、宮の家臣の男が1人やって来たようだ。こんな夜に来るとは、何か急な要件でもあったのだろうか。

「うん、何だ?部屋の中で聞くから入って来いよ」

  雄朝津間皇子にそう言われて、男は何故か気まずそうにしながら、部屋の中に入ってきた。

(この男の人、一瞬私を見たような……)

  忍坂姫は何だろうと思って、その彼の姿を追った。

  そして男は雄朝津間皇子の横に来て、何やら小さな声で彼と話しをしている。どうやら、他の人に余り知られたくない話しのようだ。

  雄朝津間皇子はその男の話しを食事をしながら聞いていた。
  そしてどんな内容かだんだん分かってきたようで、少し困ったような表情をしていた。

(一体何の話しなんだろう?)

  2人がとても小さな声で話しをしているので、忍坂姫にはどんな内容なのか全く分からなかった。

  話しを聞き終えた雄朝津間皇子は、その男に一旦戻るように言って、その男を部屋から下がらせた。

  すると雄朝津間皇子はその場で頭を抱えた。何か問題事でもあったのだろうか。

「忍坂姫、ちょっと良いかな」

  雄朝津間皇子は忍坂姫に言った。

「はい、皇子何でしょうか?」

  忍坂姫は雄朝津間皇子からの話しを聞く為、食事を一度中断した。
  雄朝津間皇子の感じからして、余り良い内容の話しではなさそうだ。

「今さっきここに来た家臣の男から聞いた話しなんだが。
  実はこの付近の村を管理している、日田戸祢ひだとねと言う男がいる。
今回はそいつから連絡が来たみたいだ」

  その日田戸祢と言う男に、何か問題事でもあったのだろうか。

「それで、これは非常に話しにくいんだが。その男には1人娘がいて、名前を千佐名ちさなと言う。
  それでその千佐名がずっと寝込んでいるらしく、父親の日田戸祢が、俺に彼女に会ってやって欲しいと連絡を寄越して来たみたいなんだ……」

  忍坂姫はその話しを聞いて、その意図が何なのか分かった。恐らくその千佐名と言う娘が、雄朝津間皇子が時々通っていた村の娘なのだろう。

  それを聞いて忍坂姫は思わず黙ってしまった。雄朝津間皇子がよその娘に通っていた事は以前から聞いている。その現実を今本当に聞かされた感じだ。

「その娘は、元々皇子が通われていた娘なんですよね。それで今は寝込んでいると」

  雄朝津間皇子は特に動じる事もなく、静かに答えた。

「あぁ、君の言う通りだよ」
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