大和の風を感じて2〜花の舞姫〜【大和3部作シリーズ第2弾】

藍原 由麗

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52P《雄朝津間皇子の奮闘》

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「わぁ、やっと着きましたね。ここが佐由良さゆら様が話されていた丘の上なんですね」

  忍坂姫おしさかのひめは丘の上からここら一体の村や景色を眺めた。桜は散ってしまっているが、木々と一緒に農民の住居や田畑が見えて、確かにここは村一体を見渡すのには丁度良いと思った。

「えぇ、そうなの。だから大王も良くここから村を見渡しているわ」

  佐由良は彼女にそう答えた。大王は自身だけで来る事もあれば、佐由良や阿佐津姫あさつひめと一緒に見に来る事もあるのだそうだ。

「本当に素敵な場所ですね」

(ここなら、また来てみたいかも)

  忍坂姫はそんなふうに思った。

  また佐由良の横にいた阿佐津姫は、彼女に抱っこして欲しいとせがんでいた。

  そんな姫を見て、仕方ないと言った感じで佐由良は彼女を抱き上げた。
  すると阿佐津姫は「きゃ!きゃ!」と言った感じで喜んでいた。



  そしてそんな時だった。急に人の足音が聞こえて来る。それも1人ではなく、数名はいるであろうと思えた。

(一体誰が来たんだろう?)

  忍坂姫は思わず、後ろを振り返った。
  するとそこには5人組の男達が立っており、こちらをずっと見ている。

「あ、あなた達は一体誰なの?」

  忍坂姫はその男達に声を掛けた。
  だがその男達は、明らかに自分達を狙っているような目線を向けていた。

  そんな忍坂姫の横で、佐由良も危険を察知したのか、阿佐津姫をしっかりと腕に抱き締めた。

「何とも威勢の良い娘がいるな。だが俺達が用があるのは、そこにいる大王の妃の方だ」

  それを聞いた佐由良は思わず身震いした。どうしてこの者達は自分なんかに用があるのだろう。

  彼女にそう言った男は、一歩前に出てきた。

「妃久しぶりだな、俺を覚えていないか。前に会ったのは6年程前だったかな。
  お前が今の大王の宮で采女として使えていた頃で、確かあの時は肩に大きな傷を負わせてしまったな」

  それを聞いた佐由良は思わず「ハッ」とした。この肩の傷は当時まだ皇子だった大王を守る為に自ら付けた傷だ。

「あ、あなたもしかして。嵯多彦さたひこなの?」

  佐由良はここに来てこの男が誰だかはっきりと分かった。6年前に今の大王の命を狙った男だ。

「あぁ、名前まで覚えていてくれたのか。それは有り難い。でもまさかお前があの弟皇子の妃になっていたのは流石に驚いた。まぁ、あの男らしいと言えばそれまでだがな」

  そう言って彼はケラケラと笑い出した。

(これでこの女を拐って、あの男を一泡吹かせられる)

「ちょっと、あなた佐由良様にどうするつもりなの?」

  思わず忍坂姫が横から話しかけた。

「お前は誰だ?まぁそんな事は今はどうでも良い。俺達の目的は今の大王への復讐だ。だから大王の妃を拐っていったら、あの男もさぞ動揺するだろうよ」


  嵯多彦はそう彼女達に言った。

(何て事なの。大王への復讐の為に、佐由良様を拐うですって……)

  忍坂姫は思わず佐由良の前に立った。この人は何が何でも守らないといけない。

  そしてそんな彼女達の前に、従者の男2人が立って剣を抜いた。だが彼ら2人ではこの男達には到底歯が立たないだろう。

  その事を悟った佐由良はその男達に言った。

「分かったわ。あなた達の目的は私なんでしょう。ではあなた達に従います。その代わり他の人達には危害を加えないで」

  そう言って佐由良は男達の前に出ようとした。
  しかしそれを慌てて忍坂姫が止めた。

「佐由良様、やめてください!そんな事をしたら向こうの思うつぼです!!」

「で、でもそうしないと。あなた達にまで危害が」

  佐由良はそう言って必死で忍坂姫の手を払いのけようとした。しかし忍坂姫は意地でも彼女の手を離そうとしない。

(一体どうしたら良いの……)

  忍坂姫がそう思った丁度その時だった。



「おい、お前達。何をしているんだ」

  ふと1人の青年の声が聞こえてきた。

  忍坂姫達が思わずその青年を見た。するとそれは何と雄朝津間皇子おあさづまのおうじだった。

(お、雄朝津間皇子がどうしてここに?)

「うん?何だ貴様は!?」

  嵯多彦は思わず、彼の方を見て言った。
  それなりに身なりの良い服を来ているから、どこかの豪族の皇子だろうか。

「皇子どうして、ここが分かったの?」

  忍坂姫が思わず彼に聞いた。

「宮に君が持って来ていた不思議な鏡のお陰だよ」

  それを聞いて、それが何を意味しているのかを知ってるのは忍坂姫のみである。
  まさか彼もその鏡から不思議な光景を見たのだろうか。

  忍坂姫がそんな事を考え込んでいると、彼は嵯多彦に向かって言った。

「それでお前、大王に復讐するとか言っていたけど、俺の事は知らないのか?」

  雄朝津間皇子は嵯多彦を嘲笑うかのようにして言った。

「お、雄朝津間皇子、男達は5人もいるわ。皇子1人で大丈夫なの?」

  忍坂姫は動揺の余り、思わず彼にそう言ってしまった。この人数を彼1人で倒すのは流石に難しいのではと。

「うん?雄朝津間皇子……そ、そうか。お前が大和の第4皇子か!!」

(し、しまった。磐之媛いわのひめの産んだ大雀大王おおさざきのおおきみの息子はもう1人いたんだった。6年前はまだ全然子供だったからすっかり忘れていた...)

  嵯多彦はその時思った。今の時期に倭国わこくに来ていて良かったと。
  これが数年後だったら、今の大王を倒してもまだこの弟皇子が残っている為、それだけでは大和王権はぐらつかない。
  であれば、今ここで一緒に倒してしまえば良い。

「そう言う事。じゃあお前達は、俺1人で何とかするしかないか」

  そう言って、雄朝津間皇子は腰から剣を抜いた。すると彼の目つきが完全に変わってしまった。

「仕方ない。ではまずはお前から倒すとするか」

  嵯多彦がそう言うと、皇子の前に男が3人でて来て、そして彼らも剣を抜いた。

  それを見た忍坂姫達は少し離れた方が良いと考え、少し後ろに下がる事にした。
  そして、嵯多彦達も同様に後ろに下がったみたいだ。

  そして男達は雄朝津間皇子をめがけて飛び掛かっていった。
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