58 / 68
58P《稚田彦の思い》
しおりを挟む
翌日、忍坂姫は稚田彦に雄朝津間皇子の宮まで、馬で送ってもらう事になった。
「それにしても、稚田彦は本当に剣が強いのね。昨日は別人のように見えました」
忍坂姫は昨日の彼の戦いぶりには本当に度肝を抜かれた。あの雄朝津間皇子が全く敵わなかった相手を、割りと余裕で倒せたのだから。
「まぁ、私の人生も色々ありましたからね。生きていく上で必要だったんです」
前回稚田彦の兄の話しもあったので、きっとこの人も色々とあったのだろう。
「そう言えば、あの大炯と言う人と戦っている時に、自分には守りたい人がいるとか言ってませんでした?あれは、誰の事だったんですか?」
彼は大炯との戦いの時に、自分には守りたい人がいると言っていた。あの言い方からして、瑞歯別大王の家臣だからと言う訳ではなさそうだ。
「あぁ、あれの事ですね。それは私の家族の事ですよ。私には妻と、5歳と3歳になる男の子が2人いるので」
忍坂姫はそれを聞いてかなり驚いた。その話しは初耳である。
「えぇ~稚田彦って世帯を持たれてたんですか!?」
忍坂姫は思わずその場で叫んだ。
「あの~そんなにそこ驚かれる事ですか」
稚田彦はそんな忍坂姫の反応に、逆に驚いてしまった。
(となると、彼の妻って一体どんな人なんだろう)
「ねぇ、例えばその稚田彦の妻って、どんな人なの?」
忍坂姫はつい気になってしまった。
それを聞いた稚田彦は思わず「ぶっ!」と笑ってしまった。やはり女性はそう言う事には関心があるのだなと思った。
「えっとですね。少し長くなるのですが。前に私の兄弟の話しはしたと思います。それで私の父と、妻の母が実は異母兄弟の間柄になりまして」
(へぇー、そうなのね)
「そして、その彼女は14歳の時に一度結婚をしました。しかしその夫は1年程して流行り病で亡くなってしまいました。
その時の彼女の悲しみは余りに深く、部屋に閉じこもり気味になってしまったんです。
そこで彼女を心配した彼女の親達が、今の大王がまだ皇子だった頃に、彼女を采女として彼の宮に行かせる事にしました。
ただ当時、まだ皇子だった大王は余り女性に感心がなかった事もあり、彼女には絶対に手は出さないと約束して下さいました」
(さすがは瑞歯別大王ね。普通だったらそんな約束そうそう出来ないでしょうから)
「私も一応親戚だったので、彼女の事は気にかけてました。そんなある日、彼女が前の夫を思って泣いてる場面を見てしまったんです。それで何とか彼女を救ってあげられないだろうかと思うようになりました」
「稚田彦は本当にお優しいのね」
忍坂姫は彼の事をそんなふうに思った。
「で、それからだんだんと彼女の事を好きになっていきました。
ただ彼女は自分の夫は亡くなった彼1人のみだと言って、中々私の思いは受け入れてもらえませんでした……」
稚田彦でも、そんな辛い恋をしていたとは意外だと忍坂姫は思った。
「それでもどうしても彼女が諦めきれずに、その後やっとの思いで彼女を妻に出来たと言う訳です。今の大王もとても喜んでくれて、その娘を私に下さいました」
そんな話しを聞いて、忍坂姫はとても感動した。皆それぞれに色んな恋をしているのだなと。
「稚田彦、素敵なお話しを聞かせてくれて本当に有り難う。稚田彦みたいな人が支えてくれれば、今後の大和も大丈夫そうね」
忍坂姫は思わずウンウンと頷いた。
だがそんな彼女の言葉を聞いて稚田彦は少し表情を曇らせた。
「実はそうも言ってられないんですよね」
「え、稚田彦それはどういう事?」
忍坂姫は思わず首を傾げた。今の大王になってから、この国はとても落ち着いていると聞いていたからだ。
「これは、忍坂姫にも知っておいて貰いたい事ですが。少し前に先の大王が崩御したのは記憶に新しい事ですが、その際に大王の皇子の市辺皇子は余りに幼くて、それで今の大王が即位する事になりました」
「ええ、そうね」
忍坂姫も彼に頷いた。その時今の瑞歯別大王がいなかったら、本当に今頃はどうなっていた事だろうか。
「だが仮に、今の大王が亡くなってしまった場合、次の大王は誰がなると思いますか?」
忍坂姫は稚田彦にそう言われて考えた。確かに直ぐに出来そうな人は中々思いつかない。
「例えば、あなたの父上も大和の皇族なので、資格はあるでしょう」
「私のお父様は流石に無理があるわ。大王なんて出来っこない」
彼女は慌てた。あの優しくて、どちらかと言うと不器用でおっとりした父では、大王なんて言う重要な役は無理だろう。
「はい、私もあなたの父上は流石に無理があると思います。でもこれがあと4、5年後なら、1人可能性が出て来ます」
忍坂姫は一体誰の事だろうと考えた。
「それは、雄朝津間皇子です。だから瑞歯別大王も、あなたとの婚姻の案を承諾したんです。
今の大王もまだ姫しかいないですし、そもそも彼は今の妃以外娶る気はありませんから。
ただ雄朝津間皇子なら、恐らくそんなこだわりは持ち合わせてないでしょう」
「それにしても、稚田彦は本当に剣が強いのね。昨日は別人のように見えました」
忍坂姫は昨日の彼の戦いぶりには本当に度肝を抜かれた。あの雄朝津間皇子が全く敵わなかった相手を、割りと余裕で倒せたのだから。
「まぁ、私の人生も色々ありましたからね。生きていく上で必要だったんです」
前回稚田彦の兄の話しもあったので、きっとこの人も色々とあったのだろう。
「そう言えば、あの大炯と言う人と戦っている時に、自分には守りたい人がいるとか言ってませんでした?あれは、誰の事だったんですか?」
彼は大炯との戦いの時に、自分には守りたい人がいると言っていた。あの言い方からして、瑞歯別大王の家臣だからと言う訳ではなさそうだ。
「あぁ、あれの事ですね。それは私の家族の事ですよ。私には妻と、5歳と3歳になる男の子が2人いるので」
忍坂姫はそれを聞いてかなり驚いた。その話しは初耳である。
「えぇ~稚田彦って世帯を持たれてたんですか!?」
忍坂姫は思わずその場で叫んだ。
「あの~そんなにそこ驚かれる事ですか」
稚田彦はそんな忍坂姫の反応に、逆に驚いてしまった。
(となると、彼の妻って一体どんな人なんだろう)
「ねぇ、例えばその稚田彦の妻って、どんな人なの?」
忍坂姫はつい気になってしまった。
それを聞いた稚田彦は思わず「ぶっ!」と笑ってしまった。やはり女性はそう言う事には関心があるのだなと思った。
「えっとですね。少し長くなるのですが。前に私の兄弟の話しはしたと思います。それで私の父と、妻の母が実は異母兄弟の間柄になりまして」
(へぇー、そうなのね)
「そして、その彼女は14歳の時に一度結婚をしました。しかしその夫は1年程して流行り病で亡くなってしまいました。
その時の彼女の悲しみは余りに深く、部屋に閉じこもり気味になってしまったんです。
そこで彼女を心配した彼女の親達が、今の大王がまだ皇子だった頃に、彼女を采女として彼の宮に行かせる事にしました。
ただ当時、まだ皇子だった大王は余り女性に感心がなかった事もあり、彼女には絶対に手は出さないと約束して下さいました」
(さすがは瑞歯別大王ね。普通だったらそんな約束そうそう出来ないでしょうから)
「私も一応親戚だったので、彼女の事は気にかけてました。そんなある日、彼女が前の夫を思って泣いてる場面を見てしまったんです。それで何とか彼女を救ってあげられないだろうかと思うようになりました」
「稚田彦は本当にお優しいのね」
忍坂姫は彼の事をそんなふうに思った。
「で、それからだんだんと彼女の事を好きになっていきました。
ただ彼女は自分の夫は亡くなった彼1人のみだと言って、中々私の思いは受け入れてもらえませんでした……」
稚田彦でも、そんな辛い恋をしていたとは意外だと忍坂姫は思った。
「それでもどうしても彼女が諦めきれずに、その後やっとの思いで彼女を妻に出来たと言う訳です。今の大王もとても喜んでくれて、その娘を私に下さいました」
そんな話しを聞いて、忍坂姫はとても感動した。皆それぞれに色んな恋をしているのだなと。
「稚田彦、素敵なお話しを聞かせてくれて本当に有り難う。稚田彦みたいな人が支えてくれれば、今後の大和も大丈夫そうね」
忍坂姫は思わずウンウンと頷いた。
だがそんな彼女の言葉を聞いて稚田彦は少し表情を曇らせた。
「実はそうも言ってられないんですよね」
「え、稚田彦それはどういう事?」
忍坂姫は思わず首を傾げた。今の大王になってから、この国はとても落ち着いていると聞いていたからだ。
「これは、忍坂姫にも知っておいて貰いたい事ですが。少し前に先の大王が崩御したのは記憶に新しい事ですが、その際に大王の皇子の市辺皇子は余りに幼くて、それで今の大王が即位する事になりました」
「ええ、そうね」
忍坂姫も彼に頷いた。その時今の瑞歯別大王がいなかったら、本当に今頃はどうなっていた事だろうか。
「だが仮に、今の大王が亡くなってしまった場合、次の大王は誰がなると思いますか?」
忍坂姫は稚田彦にそう言われて考えた。確かに直ぐに出来そうな人は中々思いつかない。
「例えば、あなたの父上も大和の皇族なので、資格はあるでしょう」
「私のお父様は流石に無理があるわ。大王なんて出来っこない」
彼女は慌てた。あの優しくて、どちらかと言うと不器用でおっとりした父では、大王なんて言う重要な役は無理だろう。
「はい、私もあなたの父上は流石に無理があると思います。でもこれがあと4、5年後なら、1人可能性が出て来ます」
忍坂姫は一体誰の事だろうと考えた。
「それは、雄朝津間皇子です。だから瑞歯別大王も、あなたとの婚姻の案を承諾したんです。
今の大王もまだ姫しかいないですし、そもそも彼は今の妃以外娶る気はありませんから。
ただ雄朝津間皇子なら、恐らくそんなこだわりは持ち合わせてないでしょう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる