1 / 1
イケメン君に花束を
しおりを挟む
ねえ、アツミおかわりは? 私、生チュウもう一杯。オッケー烏龍ハイね。料理は? 私サイコロステーキ。あんた、さっきから野菜系ばっかじゃん、おまえはウサギかっちゅうの。
えっ、一か月で2キロ太ったって。へー、ダイエットなんだ? 2キロ位どーってことないじゃん。あたしなんてさ5キロまでは許容範囲に設定ですから、久し振りなんだからさあ大いに飲んで、おおいに食べて、オオイにしゃべって。
うんうん……焼き鳥ね。なるほど、さすが無難なとこ選ぶね。この店の焼き鳥、安っすい胸肉だもんね。ネギ挟んで味ごまかしているし。そりゃ、モモと比べたらカロリー低い。でも不味いんだよね、まっいいか。
すいませーん、生中、烏龍ハイ。それとサイコロステーキと焼き鳥。あっ、焼き鳥は塩でね。ねえ、ガレット食べようよアツミ? おk? すいません、あと、ポテトのガレット二人前ね。……あっ、はい、それで結構です。
ねえ、なんで、注文復唱して「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」って一々聞くんだろうねえ。
確認? マア、それはそうだろうけどさ。とっとと注文通せよってカンジ、時間無駄ジャンみたいなー。
そうそう。私のマンションのイケメンの話だったよね。
年齢?うーん。私と同じくらいか、少し下かなー。だって、私、男の年齢って判んないんだもん。ゴメンネ、男性経験少なくて。あははは、ギャグギャグ!
物語風に話すね。その方がリンジョウカン出るもん。
今迄に四、五回廊下ですれ違ったりした事あったんだけど、私が「こんにちわ」とか「お早うございます」って言って、お辞儀なんかするでしょ。すると、そのイケメン、軽く頭を下げてさ、微笑むの。ニコッて感じじゃないのよね。歯を見せて笑うって感じじゃないの。唇の端をチョット持ち上げてさ。これが、なかなか渋いって感じなの。若いくせに。
身長は百八十センチ以上あるかな。
何してる人かって? わかんない。学生さんでもなさそうだし。でも、ずっと部屋にいるみたい。
私、水曜日がお休みでしょ。その時も彼、一日中部屋にいるみたい。テレビとかラジオの音とか聞こえてくるわけじゃないけど、隣だからなんとなく判るのよね。
お! 料理きたー! あざーす。ウワッ美味しそう。ねえ、もう一回乾杯しよ。何に乾杯する? 君の瞳に乾杯、アホか!
あっそうだった、イケメン君の話よね。
ある日のこと、ネ
ネクストドアのイケメン君、うちのチャイム、ピンポン! ひゃっほー! 遂に私にもステキナ恋が訪れたかもななんちゃって。
ワオッ! お付き合い申し込まれたらどうしよう。喜んで! なんて即答したら、軽い女にみられちゃうかも。と、言ってムゲに断わったりしたらチャンス、バニシング。どうしよう、どうしよう。そう、私の悪い夢想癖。
ところがさあ、彼変なのよ。例の微笑は浮かべているのに、なかなか喋りださないのよね。
さては、私の顔をまじかに見て、私の、目も眩むような美貌に圧倒されて、固まったんじゃないかと思ったわけよ。えっ、冗談キツイって。イヤイヤイヤ。
「あの、どのようなご用件でしょうか」ってイケメン君に言ったわけよ、チョットよそいきの声でね。
そしたらね、イケメン君、ガラケーとちっちゃなメモ帳を取り出したのよ。キター! 電話番号交換。ひゃっほー! あたし喜ぶ半面、まー今時ガラケーはないかなーとは思ったのよね、イケメン君若そうだけど、うん? 実は30代後半のオッサン? かもしんなしけど。でも、マア―いいかなーイケメンだし、背は高いし。
それとお付き合いのスタートとしては、ある意味カッケーよね、番号交換ナンテ。マー奥ゆかしいよね。昔でいえば、まず文通からミタイナー。ちょこっと古いか?
でもね、そのあとメチャがっくり。イケメン君がメモ帳を開いたわけよ。一ページ目の一番最初にこう書いてあったのね。なかなかの達筆で。
(私は耳が聞こえません。私は喋ることが出来ません)ガックリ!
しょうがないからね、私、相手の目を見て、出来るだけゆっくり喋ったの。
「私の言ってる事は唇の形で判るんですよね」って。
よく映画とかにあるじゃん、そういうシーン。それ思い出してね。
ところがさ、イケメン君ペンを取り出して、サラサラとメモ帳に書いたのよ、達筆で。
(読唇術は出来ません。筆談でお願いします)
冗談じゃないよ、やってらんない。アーアッ、今日、仏滅かよ。
ねえ、アツミ。耳の聞こえない人を、「つんぼ」って言うの知ってる。口がきけない人は、「おし」って言うんだよ、昔の言葉で。
なーんだ、知ってるのか、さすが文科系。
えっ「つんぼ」とか「おし」って禁止用語なの。じゃー、何て言えばいいのよ。私、おじいちゃん子でさー。うちのおじいちゃん普通に「つんぼ」とか「おし」とか言ってたけど昔。
聴覚障害者。聾唖者。……そうなんだ。へー、「ちんば」とか「めくら」も禁止用語なんだ。
そう言えば、子供の頃にね、おじいちゃんとBSの時代劇見てた時、勝新の座頭市。勝新知っている? 知らないのかあー。えーっと、珠緒さんの旦那さん。そう、中村珠緒。えっ、珠緒さんも知らないの?。座頭市は? 座頭市はビートたけしと香取慎吾のしか知らないって、あんたヤバくねー、歴史認識的に。まあいいや。
その爺ちゃんとカツシンの古い座頭市見てた時なんだけどさあ、やくざが勝新に絡む場面でね、「このど(ピィーッ)が」ってセリフ。(ピィーッ)が入るのよね、(ピィーッ)が。(ピィーッ)入れたら何言ってるのか判らないジャン。
あたしワケわかめで爺ちゃんに聞いたら、(ドメクラ)って言ってた、その当時はわからなかったんだけどね。
あの(ピィーッ)って所に、「めくら」が入ったんだね。「このドメクラが」って。
でも、昔って禁止用語なんて無かったんじゃん。勝新の座頭市って、古い映画だもんね。まっ、いいか。
でも、アツミそういう事よく知ってるよね。報道関係だもんね。えっ、ただのタウン誌の記者。同じようなもんじゃん。私の知り合いの男の子にも報道関係いるよ。えっ、記者かって? 違うよ。新聞配達やってんのよその子。
そうなのー。新聞配達は報道関係じゃないのか。知らなかったわ、まっ、どうでもいいけど。
でも禁止用語なんて、ナンカ面倒くせーよね。
そう、そう、話それまくり、イケメン君の話でした。
それでね、私、メモ帳に(御用は?)って、殴り書き。
彼(電話をかけて欲しいのですが。お忙しいとは思いますが宜しくお願いします)って書くのよ、達筆で。そして、続けて電話番号。その下に私の父って書くの、達筆で。
私、メモ帳に(なんて、電話するんですか?)って、これまた殴り書き。
その時思ったの。なんで「つんぼ」が……あっ、ゴメン。えーっと、聴覚障害者が携帯持ってるの、いらないじゃん。しかもガラケー。
そうそう、それそれ。そうなのよ。よく考えたら、メールは使えるんだよね「めくら」……視覚障害者じゃないもんね。目は見えるわけだから。でも、ガラケーなんだよね。スマホのほうがいいじゃん。
まあ、ガラケーでもメールは可能でしょ。じゃあ、イケメン君、メールすればいいじゃんねえ。お父さんの電話番号、携帯の番号だったもん。
でも、まあ、いっか。緊急かもしれないからね。気を取り直したワケ。マジ面倒くさかったけどね。
(今晩、マンションへ来る時、三万円位の花束を買って来て欲しい。そう連絡して下さい)達筆でね。イケメン君そう書くのよ。
電話したわ。でも、出ないのよねえ。繋がらなかった。「おかけになった番号は、電源が入っていないか、電波の届かない……」て、やつ。
私、胸の前で両手を交差させてバツ印つくった。そして、アメリカ人みたいにチョット首を傾げて、肩をすくめてやった。だって、字を書くの面倒くさくってさあ。それに、彼の達筆の横の自分の字、メッチャ下手に見えるんだもん。
えっ、顔は綺麗だけど、字は汚いって。ほめてんの、けなしてんの!
でも、アツミ口うまくなったワ。さすがタウン誌の記者だよ。そんなうまいこと言って、クライアント騙して、広告いっぱいとってんでしょう。えっ、パンデミックでスポンサー半減なんだ。
でね、あたしとしては、よし、よし、これで、やっと解放と思ったワケ。でも彼、またスラスラと書くのよ、達筆で。
今度は携帯じゃない、家電(いえでん)っていうやつ。番号の次に、実家、私の母って書いてあるの、達筆で。
局番から隣町だって判った。JRで一駅。車だと十分ぐらいかな。
でも、なんで実家がそんな近くなのに、一人でこのマンションに住んでいるんだろう、そう思ったの。だって、やっぱ不便じゃん。てか、彼つんぼ…聴覚障害者だし。家族と一緒の方が何かと便利じゃん。
かけたわ。なかなか出ないの。十回位呼び出し音が鳴って、やっと出た。
「はい、――です。どちらさまでしょうか」何かイライラした女の人の声。何か、私が怒られているみたいなカンジ。
「あのー、息子さんから頼まれて電話しているのですが」
「息子? あなたは誰なのよ、私忙しいの。いたずら電話なら切りますよ」ガチャンって。
イタデンだって決めつけちゃって、こちらの話聞かないんだから。マジ、こっちの心が痛デンだわ。やんなっちゃう。
彼の前でバッテンのさっきのジェスチャー。
でも(もう一度かけてください。すみません)そう書いたの彼。達筆で。チョットすまなそうに目を伏せていた。
もう、うんざりしてたけど、かけたわ。
今度はすぐに出た。私が「もしもし、息子さんから……」と、言い出すとすぐに「いい加減にしてください。あなたは誰なんですか! さっきからなんなんですか! 警察に連絡しますよ」ドエライい剣幕。私は慌てて「今晩、マンションへ来る時、三万円の花束を買ってこい。息子からの伝言です。あんたの!」大きな声で言って、こちらから切ってやった。
私、右手の人差し指と親指で丸を作って彼に示した。彼、例のスマイルで私を見て、軽く会釈した。
でね、そこで、私チョット考え込んだのよ。本当マジで。
指の丸サインは全てOKだよって意味だもんね。
でもね、さっきの母親の電話の態度だと、伝わったかどうかねえ、心配じゃん。彼には電話のニュアンスまで判らないわけだし。イケメン君、悲しむというか、落胆するかもしれないと思ったんだけど、ホントのこと伝える方がいいかなあーって。そう、思ったのよ、マジで。
それで、彼のメモ帳に(お母さんには一応伝えましたが、何かご立腹みたいでした。これが大事な事なら、お父さんの携帯にメールした方がイイよ、念のために)今度は丁寧に書いた。(ご立腹)なんて、普段使わない言葉使って。でも、やっぱり、字、へったくそ。
彼ね、それを見て少し寂しげな目をしていた。
(有難うございました。お忙しいのに時間取らせてすみませんでした。後で父にメールを入れます)達筆でね。
イケメン君、もう一回お辞儀した。今度は深々とね。口にはあの微笑。でも、何か目が悲しそうだったな。
一週間ほど前の話よ。
うん。その後イケメン君には会ってない。いるには居るみたいだけどさ。
あの花束って何だったんだろうな。
ねえ、アツミ。もう一杯いこうよ。夜は長いよ。
えっ、一か月で2キロ太ったって。へー、ダイエットなんだ? 2キロ位どーってことないじゃん。あたしなんてさ5キロまでは許容範囲に設定ですから、久し振りなんだからさあ大いに飲んで、おおいに食べて、オオイにしゃべって。
うんうん……焼き鳥ね。なるほど、さすが無難なとこ選ぶね。この店の焼き鳥、安っすい胸肉だもんね。ネギ挟んで味ごまかしているし。そりゃ、モモと比べたらカロリー低い。でも不味いんだよね、まっいいか。
すいませーん、生中、烏龍ハイ。それとサイコロステーキと焼き鳥。あっ、焼き鳥は塩でね。ねえ、ガレット食べようよアツミ? おk? すいません、あと、ポテトのガレット二人前ね。……あっ、はい、それで結構です。
ねえ、なんで、注文復唱して「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」って一々聞くんだろうねえ。
確認? マア、それはそうだろうけどさ。とっとと注文通せよってカンジ、時間無駄ジャンみたいなー。
そうそう。私のマンションのイケメンの話だったよね。
年齢?うーん。私と同じくらいか、少し下かなー。だって、私、男の年齢って判んないんだもん。ゴメンネ、男性経験少なくて。あははは、ギャグギャグ!
物語風に話すね。その方がリンジョウカン出るもん。
今迄に四、五回廊下ですれ違ったりした事あったんだけど、私が「こんにちわ」とか「お早うございます」って言って、お辞儀なんかするでしょ。すると、そのイケメン、軽く頭を下げてさ、微笑むの。ニコッて感じじゃないのよね。歯を見せて笑うって感じじゃないの。唇の端をチョット持ち上げてさ。これが、なかなか渋いって感じなの。若いくせに。
身長は百八十センチ以上あるかな。
何してる人かって? わかんない。学生さんでもなさそうだし。でも、ずっと部屋にいるみたい。
私、水曜日がお休みでしょ。その時も彼、一日中部屋にいるみたい。テレビとかラジオの音とか聞こえてくるわけじゃないけど、隣だからなんとなく判るのよね。
お! 料理きたー! あざーす。ウワッ美味しそう。ねえ、もう一回乾杯しよ。何に乾杯する? 君の瞳に乾杯、アホか!
あっそうだった、イケメン君の話よね。
ある日のこと、ネ
ネクストドアのイケメン君、うちのチャイム、ピンポン! ひゃっほー! 遂に私にもステキナ恋が訪れたかもななんちゃって。
ワオッ! お付き合い申し込まれたらどうしよう。喜んで! なんて即答したら、軽い女にみられちゃうかも。と、言ってムゲに断わったりしたらチャンス、バニシング。どうしよう、どうしよう。そう、私の悪い夢想癖。
ところがさあ、彼変なのよ。例の微笑は浮かべているのに、なかなか喋りださないのよね。
さては、私の顔をまじかに見て、私の、目も眩むような美貌に圧倒されて、固まったんじゃないかと思ったわけよ。えっ、冗談キツイって。イヤイヤイヤ。
「あの、どのようなご用件でしょうか」ってイケメン君に言ったわけよ、チョットよそいきの声でね。
そしたらね、イケメン君、ガラケーとちっちゃなメモ帳を取り出したのよ。キター! 電話番号交換。ひゃっほー! あたし喜ぶ半面、まー今時ガラケーはないかなーとは思ったのよね、イケメン君若そうだけど、うん? 実は30代後半のオッサン? かもしんなしけど。でも、マア―いいかなーイケメンだし、背は高いし。
それとお付き合いのスタートとしては、ある意味カッケーよね、番号交換ナンテ。マー奥ゆかしいよね。昔でいえば、まず文通からミタイナー。ちょこっと古いか?
でもね、そのあとメチャがっくり。イケメン君がメモ帳を開いたわけよ。一ページ目の一番最初にこう書いてあったのね。なかなかの達筆で。
(私は耳が聞こえません。私は喋ることが出来ません)ガックリ!
しょうがないからね、私、相手の目を見て、出来るだけゆっくり喋ったの。
「私の言ってる事は唇の形で判るんですよね」って。
よく映画とかにあるじゃん、そういうシーン。それ思い出してね。
ところがさ、イケメン君ペンを取り出して、サラサラとメモ帳に書いたのよ、達筆で。
(読唇術は出来ません。筆談でお願いします)
冗談じゃないよ、やってらんない。アーアッ、今日、仏滅かよ。
ねえ、アツミ。耳の聞こえない人を、「つんぼ」って言うの知ってる。口がきけない人は、「おし」って言うんだよ、昔の言葉で。
なーんだ、知ってるのか、さすが文科系。
えっ「つんぼ」とか「おし」って禁止用語なの。じゃー、何て言えばいいのよ。私、おじいちゃん子でさー。うちのおじいちゃん普通に「つんぼ」とか「おし」とか言ってたけど昔。
聴覚障害者。聾唖者。……そうなんだ。へー、「ちんば」とか「めくら」も禁止用語なんだ。
そう言えば、子供の頃にね、おじいちゃんとBSの時代劇見てた時、勝新の座頭市。勝新知っている? 知らないのかあー。えーっと、珠緒さんの旦那さん。そう、中村珠緒。えっ、珠緒さんも知らないの?。座頭市は? 座頭市はビートたけしと香取慎吾のしか知らないって、あんたヤバくねー、歴史認識的に。まあいいや。
その爺ちゃんとカツシンの古い座頭市見てた時なんだけどさあ、やくざが勝新に絡む場面でね、「このど(ピィーッ)が」ってセリフ。(ピィーッ)が入るのよね、(ピィーッ)が。(ピィーッ)入れたら何言ってるのか判らないジャン。
あたしワケわかめで爺ちゃんに聞いたら、(ドメクラ)って言ってた、その当時はわからなかったんだけどね。
あの(ピィーッ)って所に、「めくら」が入ったんだね。「このドメクラが」って。
でも、昔って禁止用語なんて無かったんじゃん。勝新の座頭市って、古い映画だもんね。まっ、いいか。
でも、アツミそういう事よく知ってるよね。報道関係だもんね。えっ、ただのタウン誌の記者。同じようなもんじゃん。私の知り合いの男の子にも報道関係いるよ。えっ、記者かって? 違うよ。新聞配達やってんのよその子。
そうなのー。新聞配達は報道関係じゃないのか。知らなかったわ、まっ、どうでもいいけど。
でも禁止用語なんて、ナンカ面倒くせーよね。
そう、そう、話それまくり、イケメン君の話でした。
それでね、私、メモ帳に(御用は?)って、殴り書き。
彼(電話をかけて欲しいのですが。お忙しいとは思いますが宜しくお願いします)って書くのよ、達筆で。そして、続けて電話番号。その下に私の父って書くの、達筆で。
私、メモ帳に(なんて、電話するんですか?)って、これまた殴り書き。
その時思ったの。なんで「つんぼ」が……あっ、ゴメン。えーっと、聴覚障害者が携帯持ってるの、いらないじゃん。しかもガラケー。
そうそう、それそれ。そうなのよ。よく考えたら、メールは使えるんだよね「めくら」……視覚障害者じゃないもんね。目は見えるわけだから。でも、ガラケーなんだよね。スマホのほうがいいじゃん。
まあ、ガラケーでもメールは可能でしょ。じゃあ、イケメン君、メールすればいいじゃんねえ。お父さんの電話番号、携帯の番号だったもん。
でも、まあ、いっか。緊急かもしれないからね。気を取り直したワケ。マジ面倒くさかったけどね。
(今晩、マンションへ来る時、三万円位の花束を買って来て欲しい。そう連絡して下さい)達筆でね。イケメン君そう書くのよ。
電話したわ。でも、出ないのよねえ。繋がらなかった。「おかけになった番号は、電源が入っていないか、電波の届かない……」て、やつ。
私、胸の前で両手を交差させてバツ印つくった。そして、アメリカ人みたいにチョット首を傾げて、肩をすくめてやった。だって、字を書くの面倒くさくってさあ。それに、彼の達筆の横の自分の字、メッチャ下手に見えるんだもん。
えっ、顔は綺麗だけど、字は汚いって。ほめてんの、けなしてんの!
でも、アツミ口うまくなったワ。さすがタウン誌の記者だよ。そんなうまいこと言って、クライアント騙して、広告いっぱいとってんでしょう。えっ、パンデミックでスポンサー半減なんだ。
でね、あたしとしては、よし、よし、これで、やっと解放と思ったワケ。でも彼、またスラスラと書くのよ、達筆で。
今度は携帯じゃない、家電(いえでん)っていうやつ。番号の次に、実家、私の母って書いてあるの、達筆で。
局番から隣町だって判った。JRで一駅。車だと十分ぐらいかな。
でも、なんで実家がそんな近くなのに、一人でこのマンションに住んでいるんだろう、そう思ったの。だって、やっぱ不便じゃん。てか、彼つんぼ…聴覚障害者だし。家族と一緒の方が何かと便利じゃん。
かけたわ。なかなか出ないの。十回位呼び出し音が鳴って、やっと出た。
「はい、――です。どちらさまでしょうか」何かイライラした女の人の声。何か、私が怒られているみたいなカンジ。
「あのー、息子さんから頼まれて電話しているのですが」
「息子? あなたは誰なのよ、私忙しいの。いたずら電話なら切りますよ」ガチャンって。
イタデンだって決めつけちゃって、こちらの話聞かないんだから。マジ、こっちの心が痛デンだわ。やんなっちゃう。
彼の前でバッテンのさっきのジェスチャー。
でも(もう一度かけてください。すみません)そう書いたの彼。達筆で。チョットすまなそうに目を伏せていた。
もう、うんざりしてたけど、かけたわ。
今度はすぐに出た。私が「もしもし、息子さんから……」と、言い出すとすぐに「いい加減にしてください。あなたは誰なんですか! さっきからなんなんですか! 警察に連絡しますよ」ドエライい剣幕。私は慌てて「今晩、マンションへ来る時、三万円の花束を買ってこい。息子からの伝言です。あんたの!」大きな声で言って、こちらから切ってやった。
私、右手の人差し指と親指で丸を作って彼に示した。彼、例のスマイルで私を見て、軽く会釈した。
でね、そこで、私チョット考え込んだのよ。本当マジで。
指の丸サインは全てOKだよって意味だもんね。
でもね、さっきの母親の電話の態度だと、伝わったかどうかねえ、心配じゃん。彼には電話のニュアンスまで判らないわけだし。イケメン君、悲しむというか、落胆するかもしれないと思ったんだけど、ホントのこと伝える方がいいかなあーって。そう、思ったのよ、マジで。
それで、彼のメモ帳に(お母さんには一応伝えましたが、何かご立腹みたいでした。これが大事な事なら、お父さんの携帯にメールした方がイイよ、念のために)今度は丁寧に書いた。(ご立腹)なんて、普段使わない言葉使って。でも、やっぱり、字、へったくそ。
彼ね、それを見て少し寂しげな目をしていた。
(有難うございました。お忙しいのに時間取らせてすみませんでした。後で父にメールを入れます)達筆でね。
イケメン君、もう一回お辞儀した。今度は深々とね。口にはあの微笑。でも、何か目が悲しそうだったな。
一週間ほど前の話よ。
うん。その後イケメン君には会ってない。いるには居るみたいだけどさ。
あの花束って何だったんだろうな。
ねえ、アツミ。もう一杯いこうよ。夜は長いよ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる