イケメン君に花束を

uuuuzukihazuki

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イケメン君に花束を

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 ねえ、アツミおかわりは? 私、生チュウもう一杯。オッケー烏龍ハイね。料理は? 私サイコロステーキ。あんた、さっきから野菜系ばっかじゃん、おまえはウサギかっちゅうの。
 えっ、一か月で2キロ太ったって。へー、ダイエットなんだ? 2キロ位どーってことないじゃん。あたしなんてさ5キロまでは許容範囲に設定ですから、久し振りなんだからさあ大いに飲んで、おおいに食べて、オオイにしゃべって。
 うんうん……焼き鳥ね。なるほど、さすが無難なとこ選ぶね。この店の焼き鳥、安っすい胸肉だもんね。ネギ挟んで味ごまかしているし。そりゃ、モモと比べたらカロリー低い。でも不味いんだよね、まっいいか。

 すいませーん、生中、烏龍ハイ。それとサイコロステーキと焼き鳥。あっ、焼き鳥は塩でね。ねえ、ガレット食べようよアツミ? おk? すいません、あと、ポテトのガレット二人前ね。……あっ、はい、それで結構です。

 ねえ、なんで、注文復唱して「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」って一々聞くんだろうねえ。
 確認? マア、それはそうだろうけどさ。とっとと注文通せよってカンジ、時間無駄ジャンみたいなー。

 そうそう。私のマンションのイケメンの話だったよね。
 年齢?うーん。私と同じくらいか、少し下かなー。だって、私、男の年齢って判んないんだもん。ゴメンネ、男性経験少なくて。あははは、ギャグギャグ!
 物語風に話すね。その方がリンジョウカン出るもん。

 今迄に四、五回廊下ですれ違ったりした事あったんだけど、私が「こんにちわ」とか「お早うございます」って言って、お辞儀なんかするでしょ。すると、そのイケメン、軽く頭を下げてさ、微笑むの。ニコッて感じじゃないのよね。歯を見せて笑うって感じじゃないの。唇の端をチョット持ち上げてさ。これが、なかなか渋いって感じなの。若いくせに。
 身長は百八十センチ以上あるかな。
何してる人かって? わかんない。学生さんでもなさそうだし。でも、ずっと部屋にいるみたい。
 私、水曜日がお休みでしょ。その時も彼、一日中部屋にいるみたい。テレビとかラジオの音とか聞こえてくるわけじゃないけど、隣だからなんとなく判るのよね。

 お! 料理きたー! あざーす。ウワッ美味しそう。ねえ、もう一回乾杯しよ。何に乾杯する? 君の瞳に乾杯、アホか!
 
 あっそうだった、イケメン君の話よね。
 ある日のこと、ネ
 ネクストドアのイケメン君、うちのチャイム、ピンポン! ひゃっほー! 遂に私にもステキナ恋が訪れたかもななんちゃって。
 ワオッ! お付き合い申し込まれたらどうしよう。喜んで! なんて即答したら、軽い女にみられちゃうかも。と、言ってムゲに断わったりしたらチャンス、バニシング。どうしよう、どうしよう。そう、私の悪い夢想癖。

 ところがさあ、彼変なのよ。例の微笑は浮かべているのに、なかなか喋りださないのよね。
 さては、私の顔をまじかに見て、私の、目も眩むような美貌に圧倒されて、固まったんじゃないかと思ったわけよ。えっ、冗談キツイって。イヤイヤイヤ。

「あの、どのようなご用件でしょうか」ってイケメン君に言ったわけよ、チョットよそいきの声でね。
 そしたらね、イケメン君、ガラケーとちっちゃなメモ帳を取り出したのよ。キター! 電話番号交換。ひゃっほー! あたし喜ぶ半面、まー今時ガラケーはないかなーとは思ったのよね、イケメン君若そうだけど、うん? 実は30代後半のオッサン? かもしんなしけど。でも、マア―いいかなーイケメンだし、背は高いし。
 それとお付き合いのスタートとしては、ある意味カッケーよね、番号交換ナンテ。マー奥ゆかしいよね。昔でいえば、まず文通からミタイナー。ちょこっと古いか?

 でもね、そのあとメチャがっくり。イケメン君がメモ帳を開いたわけよ。一ページ目の一番最初にこう書いてあったのね。なかなかの達筆で。
(私は耳が聞こえません。私は喋ることが出来ません)ガックリ! 
 しょうがないからね、私、相手の目を見て、出来るだけゆっくり喋ったの。
「私の言ってる事は唇の形で判るんですよね」って。
 よく映画とかにあるじゃん、そういうシーン。それ思い出してね。
 ところがさ、イケメン君ペンを取り出して、サラサラとメモ帳に書いたのよ、達筆で。
(読唇術は出来ません。筆談でお願いします)
 冗談じゃないよ、やってらんない。アーアッ、今日、仏滅かよ。

 ねえ、アツミ。耳の聞こえない人を、「つんぼ」って言うの知ってる。口がきけない人は、「おし」って言うんだよ、昔の言葉で。
 なーんだ、知ってるのか、さすが文科系。
 えっ「つんぼ」とか「おし」って禁止用語なの。じゃー、何て言えばいいのよ。私、おじいちゃん子でさー。うちのおじいちゃん普通に「つんぼ」とか「おし」とか言ってたけど昔。
 聴覚障害者。聾唖者。……そうなんだ。へー、「ちんば」とか「めくら」も禁止用語なんだ。
 そう言えば、子供の頃にね、おじいちゃんとBSの時代劇見てた時、勝新の座頭市。勝新知っている? 知らないのかあー。えーっと、珠緒さんの旦那さん。そう、中村珠緒。えっ、珠緒さんも知らないの?。座頭市は? 座頭市はビートたけしと香取慎吾のしか知らないって、あんたヤバくねー、歴史認識的に。まあいいや。

 その爺ちゃんとカツシンの古い座頭市見てた時なんだけどさあ、やくざが勝新に絡む場面でね、「このど(ピィーッ)が」ってセリフ。(ピィーッ)が入るのよね、(ピィーッ)が。(ピィーッ)入れたら何言ってるのか判らないジャン。
 あたしワケわかめで爺ちゃんに聞いたら、(ドメクラ)って言ってた、その当時はわからなかったんだけどね。
 あの(ピィーッ)って所に、「めくら」が入ったんだね。「このドメクラが」って。
 でも、昔って禁止用語なんて無かったんじゃん。勝新の座頭市って、古い映画だもんね。まっ、いいか。
 でも、アツミそういう事よく知ってるよね。報道関係だもんね。えっ、ただのタウン誌の記者。同じようなもんじゃん。私の知り合いの男の子にも報道関係いるよ。えっ、記者かって? 違うよ。新聞配達やってんのよその子。
 そうなのー。新聞配達は報道関係じゃないのか。知らなかったわ、まっ、どうでもいいけど。
 でも禁止用語なんて、ナンカ面倒くせーよね。

 そう、そう、話それまくり、イケメン君の話でした。
 それでね、私、メモ帳に(御用は?)って、殴り書き。
 彼(電話をかけて欲しいのですが。お忙しいとは思いますが宜しくお願いします)って書くのよ、達筆で。そして、続けて電話番号。その下に私の父って書くの、達筆で。
 私、メモ帳に(なんて、電話するんですか?)って、これまた殴り書き。
 その時思ったの。なんで「つんぼ」が……あっ、ゴメン。えーっと、聴覚障害者が携帯持ってるの、いらないじゃん。しかもガラケー。
 そうそう、それそれ。そうなのよ。よく考えたら、メールは使えるんだよね「めくら」……視覚障害者じゃないもんね。目は見えるわけだから。でも、ガラケーなんだよね。スマホのほうがいいじゃん。
 まあ、ガラケーでもメールは可能でしょ。じゃあ、イケメン君、メールすればいいじゃんねえ。お父さんの電話番号、携帯の番号だったもん。
 でも、まあ、いっか。緊急かもしれないからね。気を取り直したワケ。マジ面倒くさかったけどね。
(今晩、マンションへ来る時、三万円位の花束を買って来て欲しい。そう連絡して下さい)達筆でね。イケメン君そう書くのよ。
 電話したわ。でも、出ないのよねえ。繋がらなかった。「おかけになった番号は、電源が入っていないか、電波の届かない……」て、やつ。
 私、胸の前で両手を交差させてバツ印つくった。そして、アメリカ人みたいにチョット首を傾げて、肩をすくめてやった。だって、字を書くの面倒くさくってさあ。それに、彼の達筆の横の自分の字、メッチャ下手に見えるんだもん。
 えっ、顔は綺麗だけど、字は汚いって。ほめてんの、けなしてんの!
 でも、アツミ口うまくなったワ。さすがタウン誌の記者だよ。そんなうまいこと言って、クライアント騙して、広告いっぱいとってんでしょう。えっ、パンデミックでスポンサー半減なんだ。

 でね、あたしとしては、よし、よし、これで、やっと解放と思ったワケ。でも彼、またスラスラと書くのよ、達筆で。
 今度は携帯じゃない、家電(いえでん)っていうやつ。番号の次に、実家、私の母って書いてあるの、達筆で。
 局番から隣町だって判った。JRで一駅。車だと十分ぐらいかな。
 でも、なんで実家がそんな近くなのに、一人でこのマンションに住んでいるんだろう、そう思ったの。だって、やっぱ不便じゃん。てか、彼つんぼ…聴覚障害者だし。家族と一緒の方が何かと便利じゃん。

 かけたわ。なかなか出ないの。十回位呼び出し音が鳴って、やっと出た。
「はい、――です。どちらさまでしょうか」何かイライラした女の人の声。何か、私が怒られているみたいなカンジ。
「あのー、息子さんから頼まれて電話しているのですが」
「息子? あなたは誰なのよ、私忙しいの。いたずら電話なら切りますよ」ガチャンって。
 イタデンだって決めつけちゃって、こちらの話聞かないんだから。マジ、こっちの心が痛デンだわ。やんなっちゃう。
 彼の前でバッテンのさっきのジェスチャー。 
 でも(もう一度かけてください。すみません)そう書いたの彼。達筆で。チョットすまなそうに目を伏せていた。
 もう、うんざりしてたけど、かけたわ。
 今度はすぐに出た。私が「もしもし、息子さんから……」と、言い出すとすぐに「いい加減にしてください。あなたは誰なんですか! さっきからなんなんですか! 警察に連絡しますよ」ドエライい剣幕。私は慌てて「今晩、マンションへ来る時、三万円の花束を買ってこい。息子からの伝言です。あんたの!」大きな声で言って、こちらから切ってやった。
 私、右手の人差し指と親指で丸を作って彼に示した。彼、例のスマイルで私を見て、軽く会釈した。
 でね、そこで、私チョット考え込んだのよ。本当マジで。
 指の丸サインは全てOKだよって意味だもんね。
 でもね、さっきの母親の電話の態度だと、伝わったかどうかねえ、心配じゃん。彼には電話のニュアンスまで判らないわけだし。イケメン君、悲しむというか、落胆するかもしれないと思ったんだけど、ホントのこと伝える方がいいかなあーって。そう、思ったのよ、マジで。
 それで、彼のメモ帳に(お母さんには一応伝えましたが、何かご立腹みたいでした。これが大事な事なら、お父さんの携帯にメールした方がイイよ、念のために)今度は丁寧に書いた。(ご立腹)なんて、普段使わない言葉使って。でも、やっぱり、字、へったくそ。
 彼ね、それを見て少し寂しげな目をしていた。
(有難うございました。お忙しいのに時間取らせてすみませんでした。後で父にメールを入れます)達筆でね。
 イケメン君、もう一回お辞儀した。今度は深々とね。口にはあの微笑。でも、何か目が悲しそうだったな。
 一週間ほど前の話よ。
 うん。その後イケメン君には会ってない。いるには居るみたいだけどさ。
 あの花束って何だったんだろうな。
 
 ねえ、アツミ。もう一杯いこうよ。夜は長いよ。
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