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よくあるいじめだと思った男爵令嬢だったが、異常事態だった事実に震え、いじめの主犯だと思っていた公爵令嬢に守ると言われてトゥンクする話

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「見て下さい! 私の教科書が破かれたんです!」

「これは酷いな……」

 確かに殿下の言う通り、男爵令嬢であるサニエス様の机に置かれた教科書の残骸は酷いものでした。

 恐らくはかなりの力でもって引き千切られたのでしょう。

 各片は圧縮された紙粘土の如くで、元々が教科書だったとは思えないほどの有様です。

「警戒が必要だな」

「いえ、犯人は分かっているのです。公爵令嬢のローズ様に違いありません」

 ???

 私に指を差すサニエス様ですが、私も勿論、殿下も他の方々も、頭に疑問符を浮かべています。

「サニエス嬢、ローズには……いや、これは人間には不可能な芸当なんだ」

「えっ?」

「実演させよう。ニッケス、頼む」

 筋骨隆々の護衛兵の方が前に出て、殿下の差し出した教科書を両手で勢いよく引き千切りました。

 それを見てドン引きする周囲と、なぜか胸を張るサニエス様の対比がシュールです。

「ほ、ほら。人間にも可能じゃないですか」

「一回きりならね。でも君の教科書は、そうじゃない」

「えっ……?」

 殿下の説明によれば、サニエス様の教科書は引き千切った紙片を重ねて千切り、重ねて千切りを何度も行われた形跡であるというのです。

 それでも信じられないだろうと判断した殿下は、教科書の残骸をニッケス氏に切れるか実践させました。

 結果、ニッケス氏の斬撃では切れないことが判明しました。残骸の表面数ミリを傷つけるくらいしかできなかったのです。

 ちなみにその後、斬撃威力を比較するため、ニッケス氏は練兵場の鉄鎧をあっさりと切って見せてくれました。

 彼ほどの実力を有する者が切れない残骸、そしてそれを作り出した程の存在。間違いなく、怪物の仕業でしょう。


 事ここに至ってようやく、サニエス様も今回の件がマジでヤバいことに気が付いたようです。

 顔から血の気が引き、全身が微かに震えています。

 無理もありません。得体の知れない怪物が、自分を狙っているのかも知れないのですから。

「見張りの強化は必須だろうね」「学園の封鎖が先では?」「封鎖は現実的ではない。事情も説明できないしな」「人に化けている可能性もある」「成り代わっている可能性を考えると、封鎖は却って混乱の元に成り得る」「情報を広めすぎないよう調整する必要もありますな。現段階で混乱されては収拾がつきません」

 憲兵たちが話し合っている中で、サニエス様は声も出せずに泣いていました。側に誰もつかず、心細い事でしょう。

「怖がらなくても大丈夫です、サニエス様。貴女のことは私が守りますわ」

「ローズ様……」
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