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婚約者が王女様に焦がれている話

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「やはり美しい……」

 壁の花になりながら、ため息をつく婚約者の背をよしよしと撫でてやる私です。

 この婚約者、実は幼い頃から王女様のファンをしているんですね。

 一目見て王女様の美しさに惚れ、ファンクラブを秘密裏に作り上げたという逸話があります。

 そこまで惚れているなら駄目元で婚約でも打診すれば良いと思うでしょう? 私は思いました。今も思っています。

 しかし彼は頑として、首を縦に振らないわけです。

「馬鹿だな君は。私は王女様と結ばれたいんじゃなく、そう、言うなら太陽や月になって、王女様の美しさを遠くから眺めていたいだけなんだよ。私が王女様と結ばれるというのは、例えこの国が滅んだとしても決してあってはならないことだ」

 この拗れ具合ですよ。

 私と婚約を結んだ十年前からこの拗れですから、相当の拗れです。

 あ、王女様がこちらに気付きました。

 にっこりと微笑みかけると、婚約者は撃沈しました。

 見事な気絶です。毎回のことですから、私もだいぶ支え慣れてきました。

 そしてそんな私に対して、王女様は憎悪の視線を向けてくるわけです。

 ……助けて!
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