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婚約しない方が良いと噂の侯爵と婚約することになった話

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 その侯爵は屋敷に引き篭もっている変人とのことでした。

 屋敷で引き篭もっているのは、変な実験をしていたり、口にできないことをしていたりと、様々な噂があります。

 聞けば老齢とのことですが、未だに独身で、後継者もいないとのことです。

「だからって、どうして私が婚約することに……」

 両親の言い分は、私があまりに婚約話を蹴るからとのことでした。

 いや、待って下さいよ。人の話を少しも聞かない相手が悪いんです。

 家のために身を犠牲にしろ? 十分に権力はあるじゃないですか。現状で満足して下さいよ。

 あーだこーだと理屈をつけてごねていたら、あれよあれよという間に噂の老齢侯爵との婚約です。やってしまった。

 しかも家からは実質勘当されました。家のためにとはなんだったのか……。

 そして今、私は侯爵家の使用人に連れられ、庭の茶席に着いています。

 こうなったらもう、老人だろうが性悪だろうが、侯爵の元に嫁ぐしかありません。こうなりゃ自棄ですよ。

 とか、思っていたら。



「初めまして、サノバです」

 現れたのは落ち着きのあるイケメンでした。これが侯爵様らしいです。

 噂と違って、静かな雰囲気を湛える若い御仁なわけですね。老齢だと聞いていたのですが、どういうわけですかね。

 聞けば、最初の婚約が相手方の過失で破棄されてからというもの、その噂が独り歩きして根も葉も翼も付けてこれ程の規模になったのではないかとのこと。

 屋敷に引き篭もっているということもなく、単に社交界に顔を出すのが億劫なだけなのだとか。分かります。面倒ですよね、社交界。

 なんとも不思議に波長があって、あれよあれよという間もなく結婚しました。

 可愛い子も二人授かりまして、充実した日々を送っています。
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