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元婚約者がよりを戻そうとしてきた話

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 彼を驚かせようとして約束もせずに訪問すると、見知らぬ女と会っていた。

 冷たい感じの美人さんである。彼は彼女に笑いかけており、しかもその笑顔は私に向けたことなどない性質を帯びているように思われた。

 急激に醒めていくのを知覚した私は弁護士を雇い、婚約を破棄すると彼に申し出た。

 想い人がいるのであれば、互いに別れた方が良いだろうとの判断だ。

 婚約破棄は恙無く執り行われ、三年後には私も失恋を癒して新たな恋愛を育み、良い人と結婚することができた。



 そういうわけで幸福な結婚生活を送っているわけですが、なんでまた来たんですかね。

 え? 元婚約者じゃないかって?

 終わった関係じゃないですか。迷惑ですよ。帰って下さい。

 よりを戻したい? 今更? 何年前の話をしているんです?

 あと先ほど警察を呼びましたので、ここで問答している暇は無いと思いますよ?



 逃げ出す元婚約者の背中が小さくなっていくのを見張りながら、私は愛する夫が戻ってくるのを心待ちにするのだった。
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