【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter02 - Side:Salt - A

22 > 悲しき鳥ー紗妃−2(妻宛の郵便物)

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「ごちそうさま。あぁ、片付けはオレがするよ。紗妃は風呂に入ってな」

 食事の前に張っていたバスタブは多分良いくらいの湯加減になっているだろう。
 パンプスで歩きっぱなしだとしたら、湯船に浸かった方がいい。きっと、気持ちも落ち着く。

「そ、そう? ありがとう。じゃあ、お風呂、先に入っちゃうね」

 そう言った紗妃の髪からは、風呂場に置いてあるシャンプーとは別の香りがした。着替えた紗妃のスウェットはいつもの洗剤の匂いがする。なのに、髪の毛だけ違う香りが漂う違和感をオレはすでに感じていた。

 だが、紗妃に不安を与えないよう、細心の注意を払ったオレは書斎から自分のカバンを持ってきた。

『汐見 紗妃 様(旧姓:春風)』と書かれた郵便物を取り出した。

 宛名は紗妃。だが、書かれた住所はオレの会社だった。
 なぜその郵便物がオレの会社に送られてきたのか。
 それも内容証明で……

「お風呂、終わった~。さっぱりした~。あなたも……」
「……うん、紗妃……これ……」

「ん? なに?」
「……なんか、会社に届いてたんだってさ」

「?」

 濡れたセミロングの髪はまだ毛先が濡れて水が少し滴っている。普段からドライヤーをあまり使わない方だと言っているのでタオルドライして肩にタオルを巻き、スマホをいじりながら風呂場から出てきた。

 さっき着ていたのとは別の上下ライトブルーのスウェットを着て、可愛らしい顔で小首を傾げながら、20cm斜め下からオレを見上げ、その封書を受け取る妻。

 なんでこんなに可愛い美人が、オレと結婚したんだろう……と、いつも考える。
 結婚して2年も経つし、上手く行っているとは言い難いのに、まだ妻に見惚れてしまうオレはどうしようもないな、とも思う。

 封書を受け取った紗妃が、その封書の下部を見て、一瞬で顔をこわばらせた。

『弁護士法人 アライバルステージ法律事務所』と書かれているその封書には、5名くらいの弁護士名が連名で記載されていて、一番上段部に書かれている【弁護士 大石森五朗】という名前に赤丸が付いていた。

 オレは、注意深く、紗妃を見つめていた。
 ついさっきまで、ほんのりとピンク色に染まっていた紗妃の顔からは色が消えていた。

「……架空請求とか? わからないから、とりあえず紗妃本人に渡して内容を確認次第、報告しろ、って専務から渡されてさ」

 真っ青になった紗妃は、自分の宛名が書かれたその封書を見つめて固まっている。

「はさみ、持ってくるな」
「……う、うん……」

 リビングで一人、不安そうに封書を見つめている紗妃に後ろ髪を引かれながら、書斎から、愛用してる切れ味の良いハサミを取ってこようと席を立った。ハサミを持ってリビングに戻ったオレは、刃の方に持ち直して取手を紗妃に差し出す。

 食卓テーブルのそばにつっ立ったままの紗妃は、持っていたスマホをテーブルに置くと、封を切り、ゆっくりと中身を取り出した。

 封書は3枚程度だったようだ。

 オレはコップに水を入れると、紗妃の表情が見えるよう、食卓テーブルの椅子に座った。

 パラ…パラ…と紙をめくる音。
 嚥下する紗妃の喉が見えた。

 オレからはその手紙の内容は見えない。だが、血の気が引いている紗妃の顔面はさらに青ざめていき、目がうつろになっていくのがわかった。

「……架空請求?」
「……」

 黙ったまま手紙を握りしめてつっ立っている紗妃を見ると、色素の薄い目から涙が滲み出している。

「? 紗妃?」
「……」

 黙って俯くように顔を下に向けた紗妃は、封書を片手に持ったままテーブルの上に手をつき、食卓に縋るようにヘナヘナと床に崩れ落ちた。

「紗妃っ!?」
「……」

 声に出さずにえずいていた。

 紗妃は気丈な女なので、あまり泣かない。
 泣くのを見るのはこれが3度目だ。

 1度目は結婚式の時。2度目は母親の葬儀の時……そして、今。



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