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Chapter03 - Side:Other - A
33 > 病院にてー7(佐藤の心配・紗妃の様子)
しおりを挟む佐藤は、汐見からのLIME通話での連絡後、当然のことながら華金だというのにまんじりともせず1人で夜を過ごした。
何箇所か病院に電話をかけたが、これもまた当然のことながら、夜9時も過ぎればどの病院にも繋がらない。
明日は土曜日だが、必ず朝一で病院に問い合わせ、汐見から連絡が来る前に入院している病院を突き止めようと心に決めていた。
〝きっと、救急病院だから、最寄りの病院になるはずだ……〟
汐見のマンションの隣人から情報を得て帰宅後、スクリーンセーバーが動いてるPCを復帰させてGマップで近隣の救急病院をチェックした後、リストアップした病院の名前・住所・電話番号をスマホに転送し、いつでも外出できる態勢を整えた。
〝……怪我……どんな怪我なんだ……本当に大丈夫なのか、汐見……〟
◇◇◇◇
一方、汐見は、佐藤に連絡を入れたことで安心し、怪我をして処置された昨夜よりもぐっすり眠れた。ので。
土曜日の朝、柳瀬が起こしに来た時にはすでに覚醒していた。
「うん。まだ痛みはあると思いますが、だいぶよくなってます。本当に回復早いんですね~!」
「そうなんですか?」
「はい! こんな人めったに見ませんよ! あ! でも、僕の同僚が一度プロアマのマラソンランナーの方の入院担当したことがあって、心拍が低過ぎて心配になったけど、常人の三倍くらいのスピードで回復して驚いた、って言ってました。こんな感じだったのかもしれないですね!」
「はは……ありがとう」
「? 僕、お礼言われるようなこと言いました?」
「いや、ただ、気持ちがちょっと楽になったので」
「そうですか? それならよかったです!」
「じゃあ、トイレはもう自分で行っても?」
「いいですよ~。準備してカテーテル外しますね~。あ、でもお腹に力入れないようにして欲しいんで……えっと、下剤用意するんで、それ飲んでもらってもいいですか?」
「あ、そうか、そうなんだ」
「ええ、そうなんです」
2人で、ちょっと気まずそうに笑いあう。
汐見夫婦の内情は知らないが、汐見自身が患者であることは確かで、強面ではあるがゆったりした汐見の態度に好感を抱いた柳瀬には同情心が芽生え始めていた。
「あの、どうします? 奥さんとの面会……」
「……朝食は、もう少ししたら?」
「そうですね。汐見さんのところまで配膳に来るのはもう少しですかね」
「……朝食を食べたら、ICUの家族控室まで案内してくれないかな」
「! ……わかりました!」
「気遣ってくれてありがとう」
汐見が目尻を下げてにっこり微笑むと、柳瀬は「えっ?」という顔をした。
その表情は目つきが鋭く強面な汐見の、ギャップ100%の笑みだったからだ。
〝う、わ~……この人って……〟
汐見が無意識に微笑んだ時のこの表情を、佐藤はとても大事に大切に──5年間、誰にも隣りを明け渡すことなく密かに愛でていた。
2年前、春風紗妃と結婚して、その場所を奪われるまでは。
汐見の無意識と無自覚ゆえに表出されるその微笑みに、開発部に限らず他部署にも汐見に本気で懸想している女性がいることを佐藤は知っていたのだ。
〝無自覚の人たらしだな……この人〟
昨日初めて会ったばかりの柳瀬にすら気づかれるくらいには、そう、だった。
とりあえず、汐見は20分で朝食を済ませるとナースコールで柳瀬を呼び出し、携帯通話エリアを案内してもらいつつ、ICUに向かった。
ICUには──10数人の病床が置かれ、その中に紗妃のベッドがあった。
顔の表情までは見えないが、ちゃんと紗妃がいることが確認できてほっとする。
「……警察の方の事情聴取は午後から、ってことでいいんですよね?」
「え、あ、はい……」
「身内の方は何時ごろに?」
「事情聴取が終わったら……来ることになってます」
〝事情聴取……が、終わる時間くらいに来い、って連絡して……〟
「わかりました。じゃあ、警察の方には、13時でって連絡しても良いですか」
「そう……ですね。お願いします」
「無理はしないでくださいね。汐見さんだって怪我してるんですから」
「……ありがとうございます。大丈夫ですよ。……僕、メンタル弱そうに見えてます?」
そういって微笑む汐見の表情に、柳瀬はまたドキっとした。
〝同性でもこういう表情ってドキっとするもんなんだなぁ……なんていうか、強面で雰囲気とかはアレだけど、この人、顔の造作がいいんだな〟
マジマジと汐見の顔を見た柳瀬は妙に得心していた。
「どうかしました?」
「いえ、なんでもないです」
「あ、そうだ」
「はい? なんでしょう?」
「ちょっと相談というか、お願いというか……」
「はい?」
「こういうの、ってないですかね?」
身振り手振りで説明しながら、こういうケーブルがないかと相談する。
「う~~ん、僕はよくわからないんで、わかりそうな人に聞いてみますね」
「あ、お願いします」
柳瀬と汐見はナースステーション前で一旦別れた。
十分に睡眠を取った汐見は、ICUから戻った後は何もすることがなかった。
ベッドに横たわるしかないのに睡魔も襲ってこないし、スマホの電源を入れると佐藤から鬼LIMEが入ってきそうで起動する気にもなれず。
暇つぶしにどうぞ、と柳瀬に持ってきてもらったスポーツ新聞を手持ち無沙汰に読み漁りながら午前中を潰した。
お昼時間前になったので、約束通り電源を切っていたスマホを起動してLIMEをタップしたが、懸念していた佐藤からの通知はなかったのでホッとする。
〝ちゃんと待ってくれてたんだな……〟
『悪いな、佐藤。お昼後に人と会う約束があるから、4時くらいに来てくれ。T病院のB病棟の405号室にいる。一応、ナースステーションに【身内のものです】って言ってから来いよ』
とだけ入力すると、すぐに既読がつき
『わかった』とだけ返信が来た。
〝? 珍しいな。もっと何か送ってくるかと思ったのに……〟
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