【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter05 - Side:Other - B

57 > 病院での2人ー4(近況報告:主に仕事)

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 夕食が7時には終わってしまったので9時の消灯までの2時間はテレビでも見ながら、と思って佐藤がTVを点けようとすると汐見から

「いや、いいよ。最近会えなかったから、何があったか聞きたい」

 と言われたため、佐藤は大学の同期と会った時の話をしようかと思った。だが

〝今日はやめとこう。せめて退院してからの方がいいよな〟

 そう思い直し、直近の業務内容を話すことにした。

「自販機前で会った時さ、お前も相当疲れてたけど、俺もでかいの終わったばかりでクタクタだったんだよ。お前はどうだった?」
「開発部でか?」

「そうそう」

 問われた汐見は死屍累々ししるいるいの山を思い出して苦笑いする。

「っあ~……思い出したく無い……」

〝あれはここ1年で一番多いしかばねの数だったな……〟

「はは。また炎上案件か?」
「……オレはいつになったら火消し役から免除されるんだろうな」

「お前が現場を退しりぞいたら、だろ?」

 軽口を叩きながらも、仕事大好き人間の汐見はそこまで嫌そうじゃない。それがわかるからこうやって気軽に聴けるのだ。

 営業としても現場の人間がどういう状況なのかを知っておくことは大事だ。特に営業と開発がツーカーで社内でのやりとりが上手く行っているとトラブルが発生しにくいためクライアントからの受けも良くなるからだ。

「……まあ、今回のは炎上というよりは修繕しゅうぜん作業だったんだが……古いコードのリプレースはただでさえストレスだっつうのに……」
「? 丸ごと?」

「いや、一応、動かなくなったモジュールだけって話だったからド短期納期でもなんとかなったけど……あれ、多分また来るな、と思って今から憂鬱ゆううつだよ」

 【リプレース】とは故障したり古くなったりしたシステムやソフトやハードを新しいものに取り替えることで【モジュール】とはシステムの機能単位だったり交換可能な部分を意味した一塊ひとかたまりの部品のことだ。つまり、汐見率いる開発部は、月曜から木曜にかけて、ほぼ徹夜でプログラムコード内部の一部改修・修繕作業を行なっていた。

「昔うちでやった開発したやつってことか?」

「……なんか、違ってたな。社内SE抱えてるつってたから、多分最初にうちでやったのをつぎはぎして使ってたんじゃないか? インターフェースも結構古かったし。ただ、古くてマイナーな言語だったから、フリーの人呼んで解読してもらったりとかで死ぬほど大変だった……」

 最近のシステム開発業界界隈かいわいでは有名な話だ。古い言語で書かれたプログラムを多少修繕してなんとか動かす。だが、最新機器を導入しようとすると古すぎるが故に互換性が無いため、途中で動かなくなる。あるいはハードまでダウンする。そういうシステムは多々あるのだ。

 すでに稼働しているシステムはそう簡単に代替が聞かないため、サーバーダウンしたりして内部の人間が狼狽することも度々ある。
 大規模システムになると利用者数もかなりの数に登るため一時でも止まると大損失につながり……

「フリーの人間まで抱えて……って、うちに呼んだのか?」
「いや、現役引退して北海道で在宅してるって人だったから、ずっとビデオ通話とVCS上でやりとりしてたよ」
 
 佐藤が聞いてるだけでもかなりストレスフルな状況だったらしい。

 昨今のPCの機能向上やインフラ整備が進んだおかげで遠隔でプログラムコードのやりとりができるようになったとはいえ、直接指示できないのは手間がかかる。ましてや、新しいシステムやツールを使いこなせない人間、しかも現役を引退した年上に指示出しするなど、気苦労が計り知れない。

「それ、死ぬな……」
「だろ? しかもその人古いVCSしか知らないって話で、そっからだったんだよな……」

「VCSってGetHub以外にもあるのか?」

 VersionControlSystem(VCS)には数多くの種類とバージョンがあり、常にアップデートされている。そのため、知ってる人と知らない人とで共通認識に違いがあり……便利なことは便利なのだが、とかくややこしいことこの上ないのだ。

「昔は亀のマークのやつが大流行してたらしい。それなら使ったことあるってことで……」
「……お疲れ……で、終わったのか?」

「一応な。話を持ってきた営業が、万一の為に法務と連携して契約書交わしてたから助かったよ。修繕範囲を限定してたから、納品後に問題あったとしても多分揉めずに対応できるはずだ」
「うちの法務すごいもんな」

「だな。本当に感謝してる」

 とりあえず、汐見が抱えていた案件は無事終わったらしい。でなければ、仕事でも火の車、プライベートでは脇腹に爆弾、と満身創痍まんしんそういになって心身ともに破壊されていたかもしれない。

「で? お前のとこは?」
「っあ~。俺のとこはなー……お役所仕事だった」

 佐藤は佐藤で2ヶ月書類作成につきっきりだった別件のせいもあり、この週末に久しぶりに汐見夫妻を誘ってどこかに出かけるか、と思っていた矢先だった。

「お役所仕事?」
「入札関係でさ。死ぬかと思ったわ。積算とかやったことないっつ~の! って思いながらこの2ヶ月、ぶっとい建築専門書と首っ引きだったよ」

「……こういうとき、なんでもやる会社は死ぬよな」
「だよな……」

 2人して、【総合商社】という看板を背負った自社の職責を呪い、溜め息を吐き出した。





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