【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter05 - Side:Other - B

64 > ICUを出て

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 ICUを出て、ナースステーションで柳瀬とは別れ、2人の医者に促されるまま佐藤と汐見がエレベーターホールまで先導されるようにして歩いていると原口の方が話しかけてきた。

「えっとですね、汐見さんにはそのまま私の診察室まで来て欲しいんですが、そちらの……佐藤さん? はどうしますか?」
「え?」

 先ほど、紗妃と話した時、汐見と佐藤も一緒、という話だったが、どういうことだ? という疑問が湧いた。

「う~~ん。ご家族の事情とかそういったことも全部お聞きすることになると思います。まぁ、話せる範囲で良いんですが……彼女がああなってしまった以上、紗妃さんご本人から聞けることと聞けないことがありますので」
「……あの、紗妃は、今……どういう、状態なんでしょうか?」

「……そういったことも含めて、診察室でお話したいな、と思ってます」
「え、と、その。僕がいると……」

「まぁ、部外者が立ち会うのはあまり例が無いんだ。家族ならまだしも。佐藤さん、あなたは一応他人ですから」

 自分と身長がそう変わらない佐々木医師に言われてはっとする。

"そうだ……家族同然だとしてもオレは『家族じゃない』んだ……"

 その事実に佐藤は立ち返り、愕然がくぜんとする。

 他人同士が家族になるには───夫婦になるには───日本では【婚姻こんいん】という形式を取る必要がある。
 そして日本で【婚姻】できるのは【男女】である、と明確に憲法(※)で規定されているのだ。

 どれだけ佐藤が汐見と夫婦になりたいと思っても、男同士では夫婦にはなれないのが今の日本の現実。

"家族……家族に、なりたい……汐見の……"

 だが、今はそれどころではなかった。佐藤も紗妃の様子が気になっている。
 だが、汐見は?汐見は自分のことを聞かれるのを嫌がるだろうか?

 ちら、と見やると、汐見は毅然きぜんとした表情で佐々木に答えた。

「家族、ではありませんが、彼は家族同然です。後で……原口先生にもお話ししますが、僕には紗妃以外、身内がいません。そして、紗妃以外に頼れる人間は佐藤以外にはいないので……もしよければ、彼にも同席させてもらえませんか?」

 汐見は覚悟を決めていたようだ。だが……

「……本来、医療の現場はかなり繊細せんさいな情報を扱うところなので、家族や親族以外の方の立ち入りはご遠慮しているのですが……」

 口元に片手を当てて原口医師は考え込む。

「まぁ、そうだな。でも、奥さんがああじゃ、他にどうにもならないんじゃないか?」

 佐々木医師が助言を出す。この人は佐藤の味方なのかなんなのかよくわからない。と佐藤と汐見は思った。

「ちなみに……どういったご関係で?」
「あ、会社の同僚です。7年の付き合いがあります」

 そう少し誇らしげに言い切った佐藤を見て、汐見が、くくっと小さく笑って目で会話をする。

"今、自慢することかよそれ……"

"な、なんだよ。本当のことだろ……"

 互いに一言も発していないが、その以心伝心のやりとりを見ていた医者2人は苦笑した。

「ま、いいでしょう。特別に。ただし、今回佐藤さんが汐見さんの診療に同席したことは他言無用でお願いしますね」
「わかりました!」

「じゃあ、診察室まで案内します。あ、佐々木先生はもうよろしいですよ」
「わかってるよ。てか、俺の診察もそろそろ始まるから1階に行くんだって」

「あ、そうでしたか」

 医者同士だと、こうもドライなんだろうか。と思えるような2人のやりとりに思わず佐藤と汐見は顔を見合わせた。

 佐藤と汐見がいる社内だと、男女の間には歴然とした差異が見てとれた。女性社員の7割がスカートと、かかとの高いヒールを履きこなしているし、男性社員の大きな声に萎縮いしゅくする光景がよく見られたものだが。

 原口医師は佐々木の不機嫌そうな声に怯むことなく、泰然自若たいぜんじじゃくとしていた。
 無論彼女のその姿は男性と見間違うようなものでは無い。だが白衣の下に来ているスラックスや、歩きやすそうなシューズなどは女性性を完全に払拭していた。

"なんか……異性を感じさせないと言うか……"

 その、原口医師の不思議なたたずまいに佐藤と汐見は圧倒されていた。







※憲法24条1項:
「婚姻は、【両性】の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」
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