【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter06 - Side:EachOther - A

86 > 佐藤宅から汐見宅へ 〜 大きめサイズのボトム(Side:Sugar)

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【Side:Sugar】



 俺は汐見のマンションからの帰りに、緩めのボトムを買おうと思っていた。だが、帰りだと疲れるだろうことと、駅近の商店街に大きめサイズの店があったことを思い出した俺は、汐見を休ませてその店に入ることにした。

 入店すると、目当てのものがあるコーナーにズンズン入って行く。

〝ダセェ……〟

 おそらく小太り……いや、大太りの男性用のサイズだ。それを着るおっさんのことを考えるとちょっと気持ち悪くなるし、そもそもウエストサイズが絶対に2回り以上緩い。

〝まぁ、それは後で紐かゴムで縛ればいいか〟

 そう思い直し、予定通り、裏地がタオル地の同じものを色違いで3着買い込んだ。

 待たせている汐見の元に駆け足で戻ってみると、汐見がぼーっと上を見上げて休憩している後頭部が見えた。

〝あー……その頭のつむじもかわいい……〟

 俺は汐見だったらなんでも可愛く見えるという呪術にかかっている。仕方ない。盲目ってのはそういうことだ。

「悪い! ちょっと時間かかった! 気分、大丈夫か?」
「あぁ、いや、そんなんでもない。ちょっと休んで楽になったし」

「そうか。じゃあ、そのまま行くか」

 気分は悪そうには見えない。痛みがないならそのまま向かったほうがいいかもな。そう思った俺が提案すると

「ああ……ってか、お前何買ったんだ?」
「え? あ、ぁぁ……その、ちょっと部屋着をな」

〝珍しいな。普通だったらあまり詮索してこないのに〟

「部屋着?」
「あ、あぁ! く、くたびれたのが多かったから、そろそろ替え時かな~、と思ってさ」

「へぇ……部屋着ならくたびれた方のがよくないか?」

〝鋭い……そ、そういうツッコミは上手いよな、こいつ……"

「い、いや、まぁ、その、なんて言うか」
「?」

 どうやって言い訳しようかと考えて

「ちょ、ちょっとさ! 洗濯で縮んでるのが多くなったから、緩めのサイズをな! 買っておこうと思って! ほら!」

 大きめな紙袋から1着だけ、買ったズボンを取り出して見せた。
 汐見になんの疑問も持たせずにそのままやり過ごしたい……と思った意図が伝わったのか

「おまえ……まぁ、別に家の中でおしゃれすることはないけどさ……」

 そんなもん買ったのか、みたいな呆れた顔をされたので、咄嗟についツルっと。

「な、なんだよ!お前だって家の中ではくつろぎモードだろ。風呂入る前にパンイチで筋トレしてるくせに……」
「なんで知ってるんだ?」

〝し、しまった!!〟

 勝手に汐見の生活を覗いていたことを絶対に知られてはならないと常に自分に言い聞かせていたのに!

〝口が滑った! いや、本当につい……ご、誤魔化さないと!〟

「!! い、いや! ほ、ほら! お、お前が酔った時に言ってた! から!」
「? そうだったか?」

〝気づかないでくれ……このまま聞き流してくれ! 頼む!〟

 そう心の中で願いながら汐見の顔を伺っていると

「……まぁ、今の家に引っ越してからは、パンイチで筋トレってのはやってないな。紗妃が嫌がるん……汗で床が濡れるから……汚れるって……」
「……」

 今度は俺が、汐見の別の地雷を踏んでしまったことに気づいた。

〝そうだよな……お前の中で、1番の優先順位は【妻】の〈春風〉なんだよな……今も、まだ……〟

 だからこそ汐見が愛しく思えて仕方ない。
 一途に〈春風〉を想うお前にすら俺は恋焦がれる。

 報われないと知りながら……

〝〈春風〉は、お前のこと、どう思ってたんだろうな……〟

 沈黙してしまった俺を気遣ってか、汐見が取り繕うように続けた。

「ま、まぁ、アレだよ。潔癖だからな。あの見た目通り」
「……俺んちではやってもいいぞ。あ、でも今は無理か」

 俺の家にいるときくらいは好きにしたらいいと思う。本当に。
 別に筋トレで床が汚れるとか、なんだよ、それ。そんなもん拭けばいいだけだろ、とか思ってると

「ははっ。筋トレできるくらいになったらお前ん家には居ないだろ」
「!」

〝そうだった……そうだ……汐見は、治ったら俺の家を出ていく……そうだ……〟

 そこまで考えて、ぎゅうっと心臓が絞られる感覚に耐えて、俺は思わず下唇を噛んだ。
 様子を伺うような汐見が、俺に心配そうな声で話しかける。

「あの、さ。こんなとこでこんなこと言うのはアレだけど、お前、好きな人、いるんだろ?」
「?!」

〝まさか?! 汐見に気づかれた?!〟

 そんな感じはなかったのに?なんだ?どういうことだ?と思っていると

「うん……まぁ、その、なんだ……来週くらいには? オレ出て行くからさ。ちゃんと仲直り、しろよ?」
「!?」

〝ちょ、ちょっと待て! ど、どういう意味だ?!〟

「……その、なんだ……オレには言いにくいような関係、かもしれないが……」
「……」

〝それは、言いにくいと言うかお前だから言えないと言うか……〟

 俺が汐見の仕事モードではないメガネの奥にある穏やかな瞳を見ながらぼんやり考えていると

「ちゃんと、言葉を尽くせよ。どうなるかはわからないけどさ。お前くらいの色男、袖にするような女はそうそういないって」
「……」

〝ああ、こいつ……完全に勘違いしてるんだ……〟

 俺が想いを寄せている【女】がいて、俺がその【女】とうまくいかない、あるいはうまく行ってない、と思ってる。

 汐見は、【男】である俺が想いを寄せている相手が【女】だと信じて疑わない。

 ましてや、今目の前にいる【同性】の【自分】が【俺の片想いの相手】だとは心底、本当に夢にも思っていない。

「な?」

〝お前は、そう、だよな……〟

 きっと、汐見は気づかない。
 この俺がどんなに汐見を特別扱いしようと、汐見の中で俺の存在は【一番仲がいい友人】、【親友】から動くことはないんだろう。

〝一生このまま……〟

 そこまで考えて身震いする。
 だが、今言ったところできっと俺の気持ちの100分の1も伝わらないんじゃないかとも思う。

〝汐見は俺のこと、恋愛対象として見ていない。絶対にありえない、と思ってる……男が男と、なんて……お前には……本当に、理解できわからないんだな……〟

 どれだけ俺が想ったとしても、今の汐見に「好きだ」と伝えても、きっと俺が空回りするだけだ。

〝好きだ、と伝えたとしても『なんだよ、オレもだよ』って言って笑って、お前は自分の中にある「好き」で俺を判定して終わるんだろうな。自分と同じ「友達としての好意」と受け取って……俺はきっとそこで試合終了するんだ……〟

 悲しいほど現実にあり得そうな結末すぎて俺はもうどうしようもなかった。

「……女、じゃ、ない」
「ん?」

 俺は、大きな声で叫び出したかった。

 お前が好きだと。
 汐見が好きなんだと。

 女なんかじゃない。
 男だからでもない。

 汐見が、汐見潮だけが好きなんだと……

 でも絞り出した一瞬のその声は、汐見に半分も届いてなかった。

 聞き返されても、それをちゃんと正確に伝える勇気はまだ俺にはなかった。

〝お前に拒絶されたら、俺は……〟

 男を恋愛対象として見れないお前に拒絶されるくらいなら、そばにいられる権利だけでも確保していたい。
 そんな浅ましい考えでお前のそばにいる俺を許して欲しい。

〝離婚もできないお前のそばにいるのは苦しい。けど、でも……それでもお前の隣にいたい。ごめん。気持ち悪くてごめん……でも、もうお前じゃないと……〟

「……な、んでも、ない……」

 振り絞った声だけは汐見に聞こえたらしい。
 汐見に見られないよう顔を隠すために俺は俯いた。

「……行くか」

 そう言った汐見に俺は

「……あぁ……」

 短く答えた。

 ここから15分くらいで汐見のマンションに着く。
 その間、俺はきっと汐見の顔が見れないだろうと思いながら、黙々と歩くことにだけ集中した。






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