君知るや 〜 最強のΩと出会ったβの因果律 〜

有島

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第2章

019 > みのり【!グロ・流血注意!】

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寿ことほぎたまえ、いだきたまえ、むかえたまえ……」

 神主が祝詞のりとを粛々と唱える中、神殿の内部では月光が乱反射し、昼のような明るさまで到達しようとしていた。

 目に見えぬ何かが降りてきて、人間の可聴域かちょういきを超えた音が神殿内にごうごうと響き渡る。

 辰樹が差し出した右の手刀が──

 ズブズブと男の左胸の皮膚に──1滴の血もしたたらせることなく──食い込んでいく。

〝気持ち悪い〟

 この感触だけはいつになっても慣れることがない。

 血液を十分に抜かれているとはいえ、男の胸に食い込んでいく右手は何の仕掛けもないのに指先が泥濘ぬかるんだ泥に入るように沈んでいく。

 人体の皮膚、皮下脂肪、筋肉、胸骨、それら全てを通過して辰樹の指先が辿り着く先には

 心臓──人体最大の血液ポンプがある。

 人体に切り傷を作らず──外科的措置をすることなく──【それ】を取り出すこと────

 それが、辰樹の『託宣』での仕事だ。

 潜り込んだ右手で心臓の感触をとらえると、血管を辿る。

 心臓には8本の血管がある。
 上下大動脈の2本、肺動脈1本、肺静脈4本、そして1本の大動脈。

 その全てを指先の熱で焼いてつぶして結索けっさくし、血管を切る。
 指先に神経を集中して1つ1つの管を辿り、指先にめた熱でつまみ焼き、その先の血液の流れを止めて切り離す。

 この作業を8回。

 心臓が完全に体から独立した時点で同様に手刀にした左手を鳩尾みぞおちから差し込み、肋骨を避けながら腹から──

 心臓だけを取り出すのだ。

 まさに神業だった────

 その間、10分。

 それ以上の長時間に及ぶと辰樹自身の心身にも負荷がかかるため、時間をかけていられないのだ。

 そうやって、取り出された心臓は、ドクドクと未だ鼓動を刻んでいた。

 辰樹はその心臓をうやうやしく康樹に差し出すと

「心臓の色と形はそれほど悪くないな」
「そうですねぇ」

 まだ血が滴ってるそれをハーフグローブで受け取りながら康樹が言った。
 少し息が上がっている生臭なまぐさ神主がそれに追随ついずいする。

「これは、また? 献体けんたいに?」
「いや、これは解析に回す。岩清水!」
「はっ!」

 呼ばれて、岩清水が康樹の前に出て、ひざまづき、こうべを垂れる。
 
 醜悪な筋肉の風船となっていたその姿が、心臓を取り出したため、ゆっくりとしぼんでいく。小さくなっていくと同時に、人としての形を取り戻しつつあった。

「コレの形状が戻り次第、鎖を外して袋に詰めろ。あとはいつものように」
「御意」

 儀式は神通力と同時に精神力と体力を使う。そしてこの後、辰樹にはヒートが襲ってくる。

〝意識を失うのが怖い〟

 ヒートが3ヶ月に1度になった代わりに、12の頃から始まった託宣の儀式は月に1度に増えた。
 しかも、毎月およそ3人。1人なのは珍しい。

 ふらふらになりながら立っている辰樹を康樹が確認する。

「ふん。今日は1滴もこぼしていないようだな」
「……」

 辰樹が白装束を着るのは血飛沫を受けないようにするためだ。

 疲労で意識が朦朧としているため、いつもの反抗的な台詞も出てこなかった。

〝おまえなんか……実徳みのりがいなけば……!〟

 辰樹なら指一本で殺せる。
 自分の父でありながらなお、普通の人間である、滝川康樹など。

 それをしないのは、この、自分のことを息子とも思っていない父親に囲われている者が2人いたから。
 2人が1人に減ったところで、辰樹の負担は変わらなかった。

 いや、なお一層悪くなった。

 今も耳にこびりついている。

『僕はもういい。兄さんは、逃げてくれ』

〝そんなことができるなら、この家でこんなことをする生活など送っていない〟

「運べ」

 康樹の声が頭の裏から聞こえるようになると、辰樹は意識を失った。




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