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第5話 変わっていく心情と日常

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古賀さんからのまさかの告白があり、僕と古賀さんは恋人関係になった。公園でなんやかんやあったけど前回のあらすじはこんな感じだ。

で、今、この瞬間から、目の前の彼女、金髪ミディアムウルフカットの顔面よし、スタイルよし、そして性格よしの三拍子揃った最強のギャル、古賀諒花は、僕の彼女なんだ!そう思うだけで僕の心はぴょんぴょんと跳ねていた。

「それじゃ、一緒に帰ろ?」

「う、うん」

僕たちはカフェを後にして、下校する。僕にとっては、初めての恋人との下校だった。

「そういえば一緒に帰ったこと無かったねー、家ってどの辺なの?」

「えっと、大島田《おおしまだ》駅の近くかな」

「大島田駅!?一個違いじゃん!ウチ、百枝《ひゃくえだ》駅だよ」

「じゃあNR線使ってるんだ」

「そそ!電車同じやねー」

しばしの沈黙。こんな時どう会話すればいいのか。
コミュ障の僕には分からない。古賀さんの方を見ると、沈黙を気にしていないようだった。コミュ障が沈黙に慣れていると思ったら大間違いである。コミュ障だからこそ沈黙に弱いのだ。

「率直に聞くけど、なんでOKしてくれたの?付き合うこと」

「えっ、えっと」

「男子だからやっぱり顔とか?まぁ別にウチ顔に自信がある訳では無いけどさ。何かいいと思って付き合ってくれたんでしょ?」

その顔で自信が無いは、多くの女性を敵に回すと思った。比べては悪いが、僕が通う南高のガリ勉メガネのクラスの女子達とは格が違うぞ。

「いや、性格だよ」

と言いつつ、僕だって男だ。本音としては、顔もあるかもしれない。だけど、顔だけじゃない。古賀さんの仕草とか言動、テンションは好きだし。何よりも話しやすかった。僕みたいな陰キャが初めて話しやすいと感じる女子が彼女だったのだ。

「ほんとぉー?」

彼女ははにかんで聞いてくる。

「ほ、本当だよ。逆に、古賀さんは、なんで僕と付き合ってくれるの?」

「それは、やっぱりストーカー対策のためだよ」

「そ、それだけ?」

「もちろん、君が良い奴だからっての前提だけど」

「い、良い奴...」
嬉しい気もするし、それしか取り柄の無いやつとも聞こえ、複雑になる。いや実際、取り柄ないんだけど。

「まぁ、でも、付き合って豹変するやつもいるから、形上って感じだけど、中森くんには期待してるからね!」

「なんの期待?」

「彼氏としてウチを楽しませてくれる期待?」

「エッ...!」
あのチックタックの無茶振りみたいなのをずっとやらないといけないって...コト!?

「冗談。ただ単に、君となら一緒に楽しくいれそうだし、自然とウチを楽しませてくれるかなって期待だよ」

言い方ひとつでこんなにも意味が違ってくるのか、と思った。こう言われたら、尚更、心が昂るじゃないか!
真意は分からないが、僕が一方的に尽力《じんりょく》しないと成立しない関係じゃないようでよかったと本当に心の底から安心する。例えもし、そうだったとしても、僕はこの関係を自分では終わらせられない。彼女の俘《とりこ》になって、もう後戻りはできない状況に陥っていたからだ。

そして、改めて、彼女は最強だと感じた。古賀 諒花という最強ギャルは、見た目とは裏腹に人の思考と行動を操れるほど、相手のことを理解し、考えた発言のできる人だった。



その日の夜、古賀さんからRISEが来た。
RISEの文面には、
『今日はありがと!これからもよろしくね!』
『下校時間、合わせて一緒に帰らない?』
と書かれていて可愛いブタのスタンプが送られてきた。

ブタ、好きなのかな。

さぁて、なんて送ろう。
普通に時間を送ればいいだけなんだけど、それだけでも指が震える。女子とRISEするなんて、人生初かもしれない。

とりあえず、無難に送ろう。

『お役に立ててよかったよ!』
『これからもよろしく!』
『3時半過ぎくらいにいつも帰ってるかな』

あっ既読ついた。

『おけ~』

『じゃあ、3時45分に南高校の校門近くまで行くよ』

『いいの?来てもらって』

『うん。中森くんが女子校に来たら怪しまれるでしょ笑』

『確かに笑』

古賀さんとの初めてのRISEは、何気ないやり取りがこの後も続いて言った。やっぱり僕は、心がウキウキして、跳ねるようだった。



キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り、地獄の体育の時間が始まった。

「それじゃー二人一組でペアんなれー」
体育教師の悪魔の一言が放たれた。

はぁだるい。
いつも、僕は、余り物になるんだよな。

「それじゃあ、中森!今日も先生とストレッチしようなぁ!」────「おい中森!普段からちゃんと動いてないだよ!体カチカチだぞー!」

「いててて、いててててててて」

この教師、ホント容赦ないんだよなぁ。僕の体の硬さはたぶん学校一なのに。あ~憂鬱~。でもまぁいいか~のテンションで体育を乗り越えた。

キーンコーンカーンコーン

体育が終わり、数学の授業が始まった。

「じゃあ、この問題を、中森!分かるか?」

「すみません、分かりません」

ザワザワクスクスと言う声が聞こえるが、気にしない。最近勉強を疎かにしすぎたか。基礎問が答えられないと、すぐ周りのガリ勉たちはバカにするからなあ。はぁ、萎えるわあ~でもまぁいいか~。

数学の授業が終わり、下校前の掃除の時間になった。
「おい、中森~?ちりとり係任せたぞ~じゃあお前ら、遊びに行こうぜ!」
陽キャのこいつらはいっつも僕にばかりちりとりを押し付けるんだよなぁ。はぁ、メランコリー。でもまぁよいのだ。

なぜなら僕には、今日、彼女の、古賀さんと、下校デートをすることが出来るのだから!!!

僕はちゃちゃっと、ちりとりでゴミを集めて捨てて、そして下校の準備をした。

僕は、古賀さん一心だった。

そう、もはや僕にはこれまでずっと嫌だった億劫《おっくう》な学校生活もどうでもいい。なんとも感じない生活の一瞬となっていたのだ。



「中森くん!」

僕が校門で待っていると、周りの生徒と一際違ったオーラを放つギャルJK、僕の彼女の古賀さんが声をかけてきた。

笑顔で、髪を揺らしながら僕へと近づいてくる。金細工のような繊細で艶のある金髪だった。

「こ、古賀さんひ、久しぶり」
「久しぶりって昨日も一緒に帰ったじゃん。でも、下校デートは初めてだよね」

下校デートというか、付き合ってから3、4日経ってデート自体が初だった。

「今日はどこ行くの?」

「あそこのスーパーマーケット」

「スーパー?」

「うん。デートとは名ばかりの今日の夕飯の食料調達のついでのスーパーデートだよ」

「な、なるほど。古賀さん料理するんだ」

「たまーにね。ママの帰りが遅い時とか」

家庭的でポイント高い!

「じゃあ行こっか!中森くん!」

「うん!古賀さん!」

と言って僕達は歩き始めた。

そこで、僕は違和感を覚える。

それは、ラブコメアニメオタクの僕ならではの違和感。

ラブコメアニメなら、付き合ったらすぐ、互いを意識し始めて、ヒロインギャルの方から、

『アタシのこと、○○さんってもう呼ばないでよ。これからは下の名前の、‪‪‪✕‬‪✕‬‪‪で呼んで...?」

とか

「これからは、アンタのこと、渡って呼ぶから!アンタも、アタシのこと、‪‪✕‬‪‪✕‬って呼んで!」

っていう展開になるはずだ。

やはり、現実世界では男の方がリードして、いきなり呼び捨てで呼ばないといけないのだろうか。そういうのに女子はキュンとするのだろうか。

そんなことを考えながら歩いていると、

「おーい、中森くぅーん!遅いよー!」

だいぶ歩くのが遅くなっていて、古賀さんとの距離が遠くなっていた。

「あ、ごめんごめん!」

僕は家に帰宅する速度ランキング学校TOPなのに。歩くスピードも早いとはやるな古賀さん。

歩く速さも、最強っと。

もうひとつ、僕の中の古賀さんの最強伝説の項目が埋まるのだった。
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