1 / 23
序章
あぁ、死んだんだ。
しおりを挟む暑い。40度近くにもなる気温が、アスファルトで跳ね返り身体の芯から溶けてしまいそうだ。
小鳥遊蒼空。小鳥のような可憐さもなく、蒼空のような爽やかさもない。良くも悪くも普通の女である私は、いつだって特別に憧れていた。
自分にはとてつもない才能があって、今流行りの異世界に召喚されて、チート的な魔法や召喚をして、みんなに愛されて、最終的には超絶イケメンと結婚して幸せに暮らす。
そんな夢を描き続けて早20年程の時が流れた。
「蒼空、何惚けてんの?」
暑さにやられた思考回路で信号を見つめていると、明るい顔が覗き込む。
彼女は後藤幸香。私の幼馴染で、成績も優秀。大学を卒業をして仕事に就き、今はやり手のOLだ。
顔も良くて、頭も良くて、性格も良い天使のような子。
「ほら、誕生日祝いになんでも買ってあげるから。」
そう。今日は私の誕生日だ。早いもので、33歳。もう召喚される歳ではない事くらい身に染みている。女は30過ぎたら廃れると言うが、過ぎる前から廃れていた自分は、これからどうして生きていくのだろう。
そう思った時、急に虚しくなってくる。
結婚もせず、フリーターをしながら趣味に没頭していたので、誕生日を祝ってくれるような友達は、昔から連んでいるこの幸香だけだ。
せめて、幸香には幸せになってもらいたい。いつしか、そんな風に思うようになっていた。
「あ、これ新作出たんだ。…面白そう。」
誕生日はゲームを買うのが定番。店頭に入り、ゲーム置き場に足を踏み入れる。
アクション、ロールプレイング、シミュレーション、パズル…いくつものジャンルはあるが、どれも終わらせた事がない。何をやっても長続きしないのが私の悪い所。だけど、いつかのめり込むものに出会えるはず。そう意気込んで買う。そして飽きる。そして辞める。また意気込んで買う。その繰り返しだ。
「またRPG?蒼空、そういうの好きだよねぇ。」
私が手に取ったのは、銀髪の超絶イケメンが主人公の冒険物。
口が悪く俺様だけど、優しくて最強のチート人間。見た目はやっぱり、女の子が一度は振り返る超絶イケメン。
私は女だけど、昔から男に好かれるより、女の子にチヤホヤされたいタイプだった。
「幸香はお姫様が好きだよね。」
「当たり前でしょ?女に生まれて来たんだから、誰もが羨む美しさは憧れるわ。」
幸香は美少女に憧れている。今でも充分可愛いと思うのだが、もっと誰もが好きな美しい人間になりたいのだそうだ。
理想が高いとこうも差がつくのだろうか。
「はぁ、チートになりたい。」
「私も、美少女になりたいわー。」
思わず呟いた。今更どれだけ足掻いたって、現実は変わらない。
しかし、そんな私を馬鹿にもせずに賛同してくれる幸香は、やはり良い子だ。
ーーなれますよ。ーー
「は?」
「え?」
声が聞こえて振り返るが、ゲームの棚があるだけだ。お互い疲れているだけだと言い聞かせて、気を取り直してゲームを見る。
「……」
「アリーヤ?」
振り返った先にあったゲームに目が行く。タイトルと天使の羽のみ描かれたそのゲームは、惹きつけられる何かがあった。
[“アリーヤ”…6つのエレメントで均衡を保っている世界。それぞれのエレメントを守る国の中央に、“アナスタシア”と呼ばれる王都が存在する。これは、アナスタシア中央に聳え立つエスポワール学園に在籍する、貴方のお話。]
「異世界ファンタジー?」
そう聞いただけで好奇心が擽られ、買わない訳にはいかない。主人公が何故か“貴方”とされている所も良い。
そのゲームを握り締め、レジへ並ぶ。
お金を払う幸香を眺めて、次は私が幸香に何かをしてあげたいと考える。
彼女は私と居るせいか彼氏が出来ず、恋人は出来ても結婚までは至らなかった。せめて彼女に最高の恋人でも紹介出来たら良いのに。
「はぁ…。」
現実を見つめなおして溜め息を吐く。紹介出来るようなまともな人間とは知り合っていない。考えただけでも、実に詰まらない人生を送っていた気がする。
外へ出ると、うだるような暑さが身に染みた。どこで鳴いているのか、蝉の声が耳から離れない。
「溜息ばっかり吐いてると良い事ないよ。ほら、早く帰ってゲームしよう。」
信号が青に変わり、幸香が笑顔で横断歩道へ出た。彼女のその笑顔にずっと救われて来た。
「危ないっ!!」
「「!?」」
誰かが幸香に声をかけた。いや、叫んだ。と言う方が正しい。
私の身体は、後先考えず動いた。目に入ったのは、運転手が眠っているトラック。
パァァァァァァッ
別の車が鳴らしたクラクションが、頭に響く。
驚いて動けないでいる親友。暑さで溶けた思考。閃光。衝撃。
あぁ、死んだんだ。
.
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる