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episode1
ゼロからやり直し
しおりを挟むここはどこだろう。私は前後左右の分からない、真っ暗な闇に居た。
思い出すのは、目の前のトラックと衝撃。
幸香は無事だろうか。いや、幸香を庇ったまでは覚えているので、一緒に轢かれてしまったのかもしれない。
ー守れなかった…もっと、私に強さがあれば…。ー
『ありますよ。』
ふと目の前に、純白の翼と眩しい金の髪、深紅の瞳の天使が降り立った。
『強さとは、必ずしも力とは限りません。』
その天使が片手を掲げる。その上に、小さな映像が出される。大雪が辺りを包んでいる頃、雪の中で足がもつれて動けなくなっているおばあさんを、私と幸香が手を貸して起こしてあげている場面が映し出されている。
『誰もが見て見ぬフリをする状況で、貴方達は老婆に気付き、手を差し伸べた。優しさもまた、強さです。』
そう言われると、そんな事もあった。あの後バイトに遅刻して怒られたが、不思議と嫌にならなかった。
優しさを強さと言われたのは初めてで、どこか安心する。
彼女は一体何者だろう。
『私は、人々から神と呼ばれる者です。』
女性なので女神と呼ぶべきか。女神が直々に現れたという事は、これから天国なり地獄なり行くのだろうか。
親友を死なせてしまったショックはかなり大きい。結局守れず、私は何のために飛び出したのか。犠牲者が増えて、寧ろ迷惑行為になったのではないだろうか。
せめて、幸香だけでも天国で幸せになってほしい。
『ここは時空の狭間。貴方達は事故に遭い、二人共魂だけがここにいる状態です。』
“二人共”という事は、やはり幸香もいるのだ。
ここにあるのは魂だけなので、声も姿も存在しない。分かってはいても、姿が見えないのは不安だ。
そう思う私に、女神はその美しい笑顔を向けた。
『まずは貴方達に姿を与えます。しかし残念ながら、昔の姿には戻れないのです。ですから、貴方達の想像した理想の姿から造築します。』
女神が両手を広げ目を閉じると、優しい光が辺りを包み込む。ふわりと、ないはずの身体が軽くなった気がした。
理想の姿と言われて、私がまず一番に思い浮かべたのは、ゲームの主人公だった。
特に気に入っているのは、RPGの主人公。ちなみに、男だ。みんなに好かれる顔に、Sっ気のある性格。適当に見えるが、影の努力を怠らない、そんなギャップのある主人公。
私は、大切な人を守る強さに憧れを抱いた事がある。もし男だったら、今度こそ守り抜く事が出来るかもしれない。
そんな事を思っていると、身体が立体化していくのが分かる。
「え?!」
隣から、なんとも聞き心地の良い少女の声が聞こえた。振り返ると、思わずドキッとしてしまうくらい、絶世の美少女がいた。
プラチナブロンドの美しい髪と、エメラルドグリーンの瞳。モデルのような体型と顔立ち。何故だか服は普通のTシャツにスカートだ。
「…幸香…っ?!」
そう、彼女は幸香のなりたい美少女像そのものだった。
そして自分の発した声が、いつもと違い過ぎて驚いた。まるで男…いや、男だ。
細いがしっかりとした大きな手、美少女を見下ろすやや高めの視線、下半身の違和感。
「…マジか。」
男になりたいと思ってはいたが、本当になってみると少し悲しくなる。
「そ、蒼空?どうして男?」
『想像から作り出した姿です。今ならまだ変更も出来ますよ。』
まるで、ゲームの主人公の設定を考えているようだった。今ここで、幸香と同じ美少女に生まれ変わる選択肢も出来る。しかし女の姿では、出来る事が限られて来る。
そして何より、親友を守る強さを求めたのは私自身だ。今更変わりたいなんて言えず、首を横に振った。
女神はニコリと微笑んで二人に向き直る。
『異界。それが貴方達の進む道です。』
そういうと女神は、私が生前持っていたであろうゲームを取り出す。
『これは私が創り出した世界の一つ。本来、このゲームを起動と同時に、貴方達をこの世界に招待する予定でした。』
予定外の事故が起こってしまい、用意していた姿も元の姿にする事も出来なくなってしまったという。
『私がもっと早く呼んでいれば、痛い思いも苦しい思いもしなくて済んだのです。本当に、すみません。』
現実世界に未練がなくなった私達を、異世界に呼ぶ事は決まっていたのだそうだ。しかし、そのキッカケをゲーム起動にしていたため、召喚が遅れてしまった。女神はとても申し訳なさそうに謝っているが、神様に頭を下げてもらう程、私達は偉い人間ではない。
『お詫びになるかわかりませんが、私から貴方達に力を授けます。』
女神が両手を伸ばし、目の前に翳される。先程身体を創り出した暖かい光が、私達をもう一度包み込む。
何かが変わった感じはしない。ただ、力が漲る感覚は分かった。
パリンッ
『っ!?』
突然何かが割れる音がして、女神の身体から光の球が弾き出される。
私は咄嗟に女神を支えた。柔らかい感触と甘い匂いが、クラクラと思考を刺激する。
「あの、何が起こったんですか?」
『…どうやら貴方達の身体が異例の器だった為、元々授けようとした力は弾かれてしまったようです。』
これから行く異界は、争いのある世界。私達も戦いに巻き込まれる事を想定し、平均的な戦闘能力を上げるのが決まりのようなもの。
だけど私達の場合、元々召喚するはずだった身体ではない為、力の量も変わってしまったのだ。
『…これを、貴方達に。』
そう言うと、女神は銀色に輝くプレートを差し出す。蓮の花とも取れる美しい模様がキラキラと輝いているこのプレートは、異界の身分証明書で必ず必要になるそうだ。
[小鳥遊蒼空 17歳
人間族 Lv.1
エスポワール学園 2年
Sクラス]
[後藤幸香 17歳
人間族 Lv.1
エスポワール学園 2年
Sクラス]
そこには、最低限のステータスだけが書いてある。エスポワール学園とは、ゲームに登場していた学校の名前だ。
『蒼空、集中してこのプレートを見てください。』
言われたまま自分のプレートを見つめると、何かが見えた。ぼやけていて完全でないのが気持ちが悪いので、更に集中する。すると、文字がはっきりと見えるようになった。
[小鳥遊蒼空 17歳
人間族 Lv.1 エスポワール学園 2年
HP/89863 MP/57329
女神のスキル:神眼、引力、無限収納]
[神眼:嘘か誠か、感情をオーラで読み解く事が出来る。又、敵の弱点を知る事が出来る。
引力:触れたもの全ての重力を操り、互いに引き合わせる、又、引き離す事が出来る。
無限収納:宝玉により、無限にアイテムを収納可能。]
[バグ:魔力消耗体質、レベル表示1]
[後藤幸香 17歳
人間族 Lv.1 エスポワール学園 2年
HP/9674 MP/96275
女神のスキル:神の盾、無限通路]
[神の盾:敵からの攻撃、魔法を防ぐ。
無限通路:一度行った場所を記憶し、あらゆる場所へ繋ぐ通路を作り出す。]
[バグ:武器拒否体質、レベル表示1]
『女神のスキルと称されるものは、私の力の一部です。そのため体力と魔力も、私と変わらない程上がってしまっています。』
先程何か割れるような音がしたのは、弾いた音ではなく、女神の力が解放された音。
解放された女神の力は私と幸香に吸収され、桁違いのステータスが生まれたようだ。
バグによって1と表示されているレベルも、本来なら最大に近い数字だろう。
「魔力消耗体質っていうのは?」
『蒼空は魔力のコントロールが出来ない身体です。ですが、どんな魔法も一つだけ、全ての魔力と引き換えに放つ事が出来ます。』
身体強化を特化した身体で、どんな武器でも難なく使いこなせるようだ。
『そして幸香。貴方は魔法に特化していて、武器のコントロールが出来ない体質です。』
幸香は全属性の魔力をその身に宿す事が出来、武器を使わずに無詠唱で放つ事が出来る。
二人のHPとMPに差があるのは、このためだ。
『想定外の事態が起こりましたが、私は後悔しておりません。貴方達なら、この力を悪用したりしないと信じていますから。』
「ずいぶん信頼されてるけど…どうして私達にそこまでしてくれるんですか?」
自分なりに正しく生きて来たつもりだが、やはり完全な善人とは言えない。たくさん、悪い事もしてきた。
そんな自分が、どうしてこんなに親切にしてもらえるのか。その理由が気になって仕方がなかった。
うまい話には裏がある。もちろん、単純に異世界ライフを楽しみたい気持ちはやまやまだがけど、あまりに待遇が良過ぎても不安になる。
『これなら分かりますか?』
女神の身体が眩しいくらいに光り、美しい女神はおばあさんに姿を変える。大雪の日に、私と幸香が手を貸したおばあさんだ。
そう、あの時助けたのは、人間に扮した女神本人だったのだ。
『私はその日、発展が最先端と言われる地球に視察に来ておりました。』
異世界に行くと魔力をかなり削られる。そのため、身寄りのないおばあさんの姿で各地を転々としていたのだそうだ。
つまり、私達が女神様を助けたあの日は、女神の力は使えない、ただのおばあさんだったという事。
『神も姿は違えど、地上に降りればただの人間。あの時は本当に、ありがとう。』
そう笑う女神は本当に美しくて、心から全部奪われてしまいそうだ。
『貴方達のような心が綺麗な人になら、この狂った世界が変えられるかもしれません。』
「世界を変える?」
「また大きく出たなぁ…正直、勇者とか英雄とか、あんま興味ないんだけど。」
確かに、私が前世で夢見たのはヒーローのような存在。しかし実際に国の偉い人間になるのは、正直面倒だ。私はあくまで、自由に生きたい。
そして幸香と幸せな時間が過ごせれば、それで満足だ。
『そんな国を二人が作ってください。』
「国を作るなんて、それこそ難しいですね。」
『他に必要な物は、全て蒼空の持つ無限収納に入れてありますので。そちらをご覧下さい。』
そう言われて、ステータス画面を開く。
恐らく、これは神眼を持つ私だけの特別なスキル。幸香は何か期待するように私を見つめてる。
ステータス画面には、無限収納の中身が一覧として出ている。蒼空は試しに画面の“ロングソード”を押してみた。
すると、足元に魔法陣が現れ、手元に剣が現れる。
「へぇ、便利じゃない。」
異世界ファンタジーではよく見かける光景なので、使い方はすぐにマスター出来そうだ。
「ねぇ蒼空、そのオネエ口調なんとかならない?さっきから…ふふっ、おかしくて。」
口元を隠して上品に笑う幸香。姿が美少女なだけに、言われるとかなり凹む。
元々は女なのだから仕方がないとはいえ、さすがに今の姿でオネエ口調は自分でも許せない。
「蒼空だと女って気分が抜けないから…ステータスプレートの名前、変更出来ますか?」
「そうね。せっかく別人に生まれ変わったんだし。」
そう尋ねると、女神も頷いてくれた。どうやら、新しい姿なので、今なら名前変更が可能だという。
ますますゲームのような展開。しかし、これから付ける名前は、今後自分が一生名乗る名前だ。真剣に選ばなければ、いつか後悔する。
ゲームの主人公に名前を付ける時は、大抵三つの選択を迫られる。
初期設定で妥協するのか、自分の名前を付けるか、全く別の名前を考えるか。
私はゲームによって使い分けをしていた。恋愛系の名前を呼んでくれるものは初期設定。携帯用のアプリは自分の名前。その他のゲームは名前を考えていた。日本語ではない英語やフランス語等の単語で可愛らしい名前を見つけては、それを付けるのだ。
今の私…いや俺は男。生まれ変わりといっても、三十三年生きた記憶がそのまま残っているのだ。色んな経験をして、色んな人生も見てきた。
全てをやり直せる良い名前…そんなの、一つしか思い浮かばないな。
「よし、俺はゼロ。」
“ゼロからやり直し”とまではいかないが、せめて初心を忘れずに誠実にやり直したい。そう思ってこの名前だ。
「私はレティシア・オル・ファース。」
「…長くね?」
「家名があると便利でしょ?」
この世界の仕組みがまだ分かっていないが、家名があるのとないのでは扱いも違ってくるかもしれない。
いざとなれば名前だけ名乗れば問題ないと自信満々に言う幸香。彼女は昔から一度言った事は曲げないのだ。
「まぁいーや。レティシア…レティだと捻りがないからなぁ…ティア、とかどうだ?」
「またそうやって適当に呼ぶんだから…でも、ティアなら可愛いかな。ありがとう、ゼロ。」
そう呼ばれ、ステータス上の小鳥遊蒼空の名前がゼロ・オル・ファースに変わる。家名をつけていなかったゼロは有無を言わさずティアと同じ苗字になっていた。
その瞬間、私は本当に生まれ変わったんだと実感する。
元の記憶を持って生まれ変わった、ゼロとティア。
第二の人生がどんな世界かはまだ分からないけど、すでに立っていたフラグに、まだ気付けずにいた。
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