8 / 23
episode1
始まりの地
しおりを挟む電気はなく、外とランタンだけで明るさを保っている校内。
煌びやかな宝石(っぽい石)が壁に埋め込まれていて、電気がなくても眩しいくらいに明るい。
所々に生けてある花は、校章にある花と同じだ。
「アナスタシアという名前の花です。女神の名前だと言われているのですよ。」
後ろからロゼ先生に声をかけられた。
「風の領域でトロールが出たと聞きました。大丈夫だとは思いますが、やはり心配で…。」
「ありがとうございます。リアンくんが魔法の使い方や戦い方を教えてくれたので、なんとかなりました。」
やっぱりこうして心配してくれる方が嬉しいな。ロゼ先生は教師の鏡だ。さっきの先生も見習って欲しいものだ。
そもそも、なんでLv.1なだけで教師にもあんな顔されなきゃならないんだ。
ともあれ、リアンの名前を出すとロゼ先生も安心したように頷く。信用されてるんだな、アイツ。
「彼は少し特殊な事情がありますが、心の優しい子です。どうか、仲良くしてあげてくださいね。」
まるでリアンの親かのようにそう言う。特殊な事情は気になる所だが、言いたくなれば本人から聞けるだろう。
それに、またパーティに誘って貰えるかどうかも分からないしな。
俺自身もリアンには助けられたし、優しい奴だとは思っている。まだ出会って日が浅いから、信用してるとまでは言えないが、信用したい人物ではあるのは確かだ。
「だけど実際、アイツに頼ってばっかもダメだよな。」
「帰ったら特訓しましょう。」
「それでしたら、ワタクシがとっておきの場所に案内します。」
ロゼ先生は俺達をまた講堂に連れて行った。
そして教員に説明した後、六つのエレメントの、丁度中央の辺りに俺達を立たせる。そして俺とティアの手を取ると、何か呪文を唱え始めた。
何を言っているのかは分からない。ただ、かなりの量の魔力が使われているという事だけは分かる。
呪文が終わると、エレメントが全て光り、六つの魔法陣が一つの巨大な魔法陣を作り出す。
目を閉じ一呼吸置くと、空気が変わった事に気付く。
「…ここは?」
クエストの時と同じように景色が変わり、俺達は荒野に佇んでいた。
「ここは“始まりの地”と呼ばれる場所。ワタクシの仲間は、ここで魔法や戦闘訓練を行なっておりました。」
なんでもこの場所は、神の力を使える者のみが道を作る事が出来る場所なのだとか。どうりで神々しい光に包まれたと思った。
しかしその割にはただの荒野で、神秘的な何かがある訳ではない。
勇者が一番始めに召喚される場所という意味では、始まりの地っぽいけどな。
よく見ると、地面には亀裂があり、岩の壁も粉砕された跡がある。ここなら本当に派手な魔法を使っても、問題なさそうだ。
自分に何が出来て、何が出来ないのか。己の力量を知るのも大事。バグについても、詳しく知りたかった所だ。
「レティシアさんのスキル“無限通路”で、ワタクシが居なくてもいつでもここに来られますよ。」
「先生は、どうしてここまで親切にしてくださるんですか?」
ティアが尋ねると、ロゼ先生は少しだけ険しい顔をする。
「貴方達は強い。ですが、決して完璧ではないという事を、忘れないでください。」
「先生?」
「この学園には、レベルを上げる事に必死な生徒が沢山います。ですが、レベルは戦って勝ち得た経験を言います。決して強さではない。」
本来の強さは、俺に見えているステータスという事か。
俺達のステータスを確認すると、レベルは上がっていないものの、HPとMPが少しだけ上がっていた。
だが、レベルこそ最強への近道だとリアンは言った。実際にレベルが上がるとHPとMPも上がるから、間違ってもいないんだろうが。
弱い者は強い者にすぐ殺される…でもそれだと、今もこの王都で戦争が起こっているはずだ。
「そもそも、なんでレベルがこんなに重要視されてんだ?」
「王がそれを望むからです。王の発言や行動が、人々の発言や行動となって現れます。それが、今の狂った現実です。」
親の背中を見て子は育つって事か。
立場が上の人間がした行動は、何も分からない部下が一番に真似をする事だ。間違いを間違いだと気付かずに、王がそれをするから正しい事だと、みんなが思い込んでいる訳だな。
間違った行動をする奴ほど、力や権限が強かったりする。正直者が馬鹿を見るそんな時代だからこそ、人は多数意見に合わせて行動してしまうのかもしれない。
「ワタクシは、貴方達には世界の理屈を変える力があると思っています。」
バグ。それこそが、世界の理屈に反した存在。だからこそ、俺達にはこの狂った世界を変えられる可能性がある。
女神が言っていたのは、この事か。
勇者になれとも、英雄になれとも言われなかったが、そうせざるを得ない状況という訳か。
「昔、“バグ体質”という不思議な体質の若者が居ました。」
「!?」
リアンが話していた、アナスタシアの先代の王様だ。その人の話はまるで冗談のように思われているようだったが、やはり事実なのか。
「彼もまた、レベルが存在しないという理屈に反した存在でした。」
「リアンから元国王がバグ体質だって聞いた。ソイツが王になって世界は変わらなかったのか?」
そう言うと、ロゼ先生は思い出すように遠くを見つめる。
バグ体質だった元国王は、力も頭も優れた人物だったが、優しすぎるのが欠点だった。
それこそ復讐なんて言葉も知らないくらいに、お人好しの善人。それが前国王、ユン・トゥーヴァ・ネクロンだという。
「国民のほとんどが、ユンの王交代の儀式を祝福し、他六人の王達も安心しておりました。」
しかし、前国王とその王を尊敬する一部の国民達が反逆を起こし、ユンは命を奪われた。
ユンが王として君臨したのは半年程で、あまりに短い。人々の心には、ユンはそもそもいなかったと認識された。彼を殺した国王は、今も王としてその玉座に居座り続けている。
「期待していますよ。お二人共。」
「……」
『オレは王になりたいんだ。』
そう言ったリアンは、ユンに期待した国民の一人なのだろう。誰もが認めたくなかったその事実に、リアンは抗っている。
レベルが全てと言ったのも、技と皮肉を言ったのかもしれないな。
「とにかく、今は特訓して強くなる。付き合ってくれるんですよね、ロゼ先生。」
そう言うと、ロゼ先生はニッコリ微笑んだ。
人間なんて、簡単に死ぬ。だからこそ、生きる知恵を持っている。
俺達は、死ぬ事の痛みも苦しみも知っている。
(だからこそ…。)
俺は熱意を拳に込めた。
.
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる