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2章
18・いざ出陣
しおりを挟む到着した馬車より降りて来たプルメリアは、愛らしさを引き立たせる柔らかなシルエットのドレスに、ふわふわの髪をアップにして、細い首が目立つようなコーディネートだった。
「逃げなかったのね。」
「…そうね、正直、逃げたかったわ。」
しかし、脳内ではアレクの言葉が背中を押してくれている。
「さ、乗ってちょうだい。移動しながら説明するわ。」
馬車が出発すると、プルメリアが顎を上げて睨んできた。
「そうやって綺麗にしてると、ジャスミンって感じね。」
「悪役令嬢ってことかしら。」
「そう。そのドレスに、エロい胸と細い手足は、スチルそのままね。」
「エロい胸…」
はんっと鼻で笑って、プルメリアが足を組む。
「そりゃそうよ、だって18禁のシナリオゲームだもの。悪役令嬢はエロくなきゃ。」
「えっ、ええっ!?前回、そんなこと言ってなかったじゃない!」
「別に、言う必要なかったもの。ま、悪役令嬢らしく仕事してよね。」
プルメリアの説明によると、壁の花をしていれば、意中のオスマンが自動的にジャスミンへ話掛けてくるので、ダンスを一曲踊ってから宵闇に消えるらしい。
「…あの、宵闇に消えるって…」
「するのよ、一発。」
「は?」
プルメリアは嫌そうな顔をして、ジャスミンの胸に手を這わせ、ぎゅうぎゅうと掴んだ。
「きゃあっ!」
「セックスに決まってるじゃない!これを使って、彼を誘惑するのよ!」
プルメリアの手を振りほどき、ジャスミンは全力で拒否をする。
「絶対に嫌!そんなのできない!」
「あのね、悪役令嬢のジャスミンはビッチなの!その最初のイベントで、彼のキャラクターと性癖が露見するのよ。それが発生しなきゃ、オスマン様の恋愛ルートにすら入れないの!」
ジャスミンは涙がこぼれそうだった。
「やっぱり来なきゃ良かった…降ろして、今から帰るから。」
「絶対に逃がさないわ。」
ミュゲが同じ馬車に乗っていたら、何をしてでも屋敷に戻らせただろう。生憎、ミュゲは後続の従者用の馬車に乗っていたのだった。
「知らない男の人に、初めてを捧げなきゃいけないなんて、最悪。死にたい。」
「ダメよ、見張ってるからね。」
それでも、ジャスミンは絶対に逃げようと、心に固く誓った。同じ転生者で同情してたけど、こんなことなら話は別だ。
ーアレクがいたら、助けてくれるのに…どうしてこの世界にはスマホがないの…文明開化してー!
王宮に着いても行きたがらないジャスミンを、プルメリアが無理矢理引っ張って進む。
「いやあー、無理ー!」
「私の人生がかかってるのよ!」
「私の人生だってかかってるわ!」
従者たちは、従者用の控え室で待つことになっているので、ここからは2人で行かなくてはならない。
絶望に打ちひしがれるジャスミンは、見慣れた姿があったことに、まるで気がつかなかった。
「ガーデニア隊長、配備は完璧です。」
「そうか、ありがとう。年に2回とは言え、こういった催し物は気が滅入るな。」
「隊長、舞踏会が苦手なんですか。」
礼装用の真っ白な軍服を着た男性は、癖っ毛の黒髪をオールバックに整えており、普段は片方しか見えない太い真一文字の眉をひそめた。
「豪華絢爛な会場を警備するより、キツイ訓練の方がいいな。」
「ハハッ、アレクらしいね。可愛いお嬢さん達がいるから、俺は舞踏会の方が良いけど。」
やって来たのは背が高く筋肉質で、金髪碧眼、甘いマスクの騎士だった。
「オスマン、任務中に消えるなよ。」
「努力はするけど、約束はできないな。向こうから誘ってくるんだ、彼女達を止めてくれれば良いんじゃないかな。」
アレクは顔を手で覆い、大きくため息を吐いた。
「コイツをちゃんと見張っておいてくれ。俺は見回りに行かなきゃいけないから。」
「了解しました、隊長。」
「いってらっしゃーい。」
陽気に手を振る同僚に、嫌な予感しかしなかった。
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