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6章
66・二度目の(3)
しおりを挟むさわさわと風が枝を揺らし、木漏れ日がキラキラと光る。
「お茶あるけど、飲む?」
「うん、ありがとう。」
バッグに入れてきた水筒と持ち運び用のコップを取り出す。今回の荷物で一番重かったのはこれだ。
コポコポと音を立てて注ぐ。
「あったかくも冷たくもありませんが、どうぞ。」
「どうも。」
塩気のあるものを食べたから、水分が恋しかった。
お互いに無言でゴクゴクと飲み干すと、同時にふぅと息を吐いた。
「やだ、タイミング一緒。」
「ハハッ、喉乾いてたからね!」
笑うアレクが、芝生の上にゴロンと寝転んだ。
木漏れ日が髪に落ちて、映画のワンシーンのように美しい。高い鼻、太い眉、涼しい目元、神から彫刻のようなデザインを施された彼は、寝転んでいるだけで絵になる。
こんなに格好良くて、気さくで優しく、責任ある騎士隊長の彼が、どうして自分のことを好きなのか不思議に思う。
深呼吸をして、空を見上げた。
白い雲が風で流され、太陽を見え隠れさせる。柔らかい日差しの午後、こんなに長閑で優しい空気を、これから破る覚悟を決めた。
「アレク。」
「ん?」
鼻にかかった声が、少し眠そうだ。これから言うことで、目が覚めるだろうか。
「私達、気づいたら…初めて会ってから2年以上経ってるのね。」
「あー、そうだね。もっと長く一緒にいる気がするけど。」
アレクはふふっと笑って、腕を頭の下で組んだ。
「アレクはどうして騎士団に入ったの?」
ジャスミンの問いに、アレクが片眉を上げる。
「俺の家が貴族の家系だって知ってる?」
「ごめんなさい、知らなかったわ。」
「全然。ジャズは相手が貴族かどうかなんて大して気にしないからさ、そうだろうと思ってた。」
そう言われると、その通りだ。強く意識したことはない。きっと、記憶を思い出す前は気にしていたかもしれないが。
「俺の上に兄がいて、下に年の離れた弟がいるんだよね。家を継ぐのは兄だから、俺は貴族の仕事をしなくていい。元々、剣が得意だったし、食いっぱぐれないのは騎士団だなーって。それだけ。」
「そうだったの?若いのに既に騎士隊長だから、大きな志があってなったかと思ってたわ。」
「ははは、ごめん。無くてがっかりした?」
アレクの言葉に慌てて否定する。何も考えずに発言したせいで、傷つけてしまっただろうか。
「違うの、そんなことない!すごいことよ!だって実力でしょう。」
「うーん…正直言うと、武闘会で優勝した報酬が昇格だっただけなんだよね。しかも、戦略勝ちだし。」
「それって、完全に実力だわ。殴って勝つだけなら強いだけだけど、戦略まで立てられるなんて軍師にもなれるじゃない。」
興奮して言えば、アレクの両眉が下がる。
「そんな大層なもんじゃ…買いかぶりすぎだよ。それに、動悸も不純だしね。」
「…どんなこと?」
ゆっくりと起き上がり、アレクの目線がジャスミンと合う。
「もし君の隣に立つことが許された時、胸を張っていられるように。」
「えっ…」
言葉の意味を理解し終わる前に、アレクの唇がジャズの口を塞いだ。
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