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綾菜と瑞樹編

5-2大切な子(過去)

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「じゃ、帰ろうぜ綾。」
「うん。」
カバンを背負って、手を繋いで下駄箱から玄関に出る。
階段を降りて、真っ直ぐに進めば正門、左側に進むと校庭と裏門がある。
わざわざ校庭の方へ回り、部活をしている生徒や教室の窓から見えるように、歩いて帰る。
ふと目をやると、サッカー部や野球部が校庭でボールを追っていた。
「ひかちゃん、その制服誰に借りたの?」
多分、部活をしている誰かに借りたんだろう。運動部は、ジャージで登下校することが多いのだ。
「爽介ー!ちょうど部活に行くところだったから」
「あぁ、そうだよね。」
爽介くんは、ひかちゃんと同じような体型をしていて、サッカー部に所属している。
人が良く、運動神経抜群で、大概の女子は爽介くんに好意的だ。
「しばらく借りてても良いって言われたから、瑞樹が反応するまでやってみようよ。」
「そんな上手くいくかなぁ。みーちゃん、そういうの興味なさそう。全く反応なかったらどうしよう。」
ひかちゃんに、繋いだ手をぶん回される。
「やらないうちから答えを出さない!勝手な妄想に囚われちゃダメ!やってみてどうだったか、ダメならどうすればいいのか、それを考えるのが大事なんだよ。」
ひかちゃんの囚われるな理論。
すぐ思い込んで勝手に落ち込む私には、ぴったりな考え方。
「そうだった…また勝手に思い込んでた。」
「そうだよ!まずは、やってみよう!」
おー!と繋いだ手を掲げて、きゃぴきゃぴしながら裏門を抜けた。

「そういえば、ひかちゃんさ。」
「ん?」
「よく制服を借してくれたね。」
「なんで?」
「好きな子に服を貸すってどんな気持ちなんだろう。」
「綾!声がでかいよ!」
周りには誰もいない。
ひかちゃんの動揺が激しい。
「知らない、貸してくれたんだからいいんだよそれで!」
口を尖らせて、プリプリしている。
「彼氏欲しいって言ってたんだから、爽介くんと付き合えばいいじゃん。」
「それは、なんか違うっていうか。」
途端、もごもごと歯切れが悪くなる。
ひかちゃんがこの前話してくれたのだが、たまたま2人になった放課後の教室で、爽介くんから思いを伝えられたらしい。
でも別に、付き合いたいとか、好きになってくれ、とか言われた訳じゃなくて。
覚えていて欲しい、だったそうだ。
だから、ひかちゃんも何となく遠慮していて、特に進展はしていない。
「ひかちゃんだって、爽介くんのことそこそこ好きでしょ。」
「そこそこだから、悪いんじゃん。」
「それこそ、付き合ってみればいいのに。もっと好きになるかもしれないじゃん。」
「うーん…」
「爽介くん、優しいし。あと人として信頼できそう。」
「考えとく…」
頬をピンクに染めて、ひかちゃんが俯いた。
とんでもなく可愛い。
「ねえ、ひかちゃん。爽介くんの制服、どんな匂いするの?」
「はっ?!」
今度は真っ赤にさせて、目をパチパチさせている。
「みーちゃんはね、シャンプーの匂いがするんだよね。」
「なんで知ってるの?!嗅いだの?!」
あ…普通、知らないのか。
えっちなことをして、限りなく側にいるから、私は知ってるんだ。
カアアッと顔が熱くなる。
「上着を借りたことがあるから…」
「いやまぁ、そうか。綾と瑞樹ぐらいにもなれば、知ってるか。」
勝手に納得してくれた。
制服に顔を埋めて、ひかちゃんが匂いを嗅いでいる。
なんか、すごくえっち。
「うーん、クローゼットの匂い。」
そりゃそうか。クローゼットに入れてるもんね。
「普通だね。」
「ジャージでいることの方が多いからね。仕舞ってるんでしょ。」
ひかちゃんは顔を制服から離して前を向くと、体を寄せて歩道側に押してくる。
その横をスピードを出した自転車がシャッと通り過ぎた。
よろけて民家の庭壁にもたれ、ひかちゃんに壁ドンをされるような形になる。
「ひかちゃん大丈夫?」
「うん、綾は?」
「大丈夫!今の自転車、危なかったね。」
「スクールゾーンなのにね!まったくもう!」
体勢を戻して、再び歩き出す。
2人が分かれる交差点まで、なんでもないことを話した。
「じゃ、また明日ー!」
「気をつけてねー!」
繋いでいた手を離して、お互いに手を振って別れた。
ひかちゃん、お家まであの格好で帰って、ひかちゃんママにびっくりされないだろうか。
想像したら面白かった。


翌日、女子制服を着て登校して来たひかちゃんを見て安心した。
爽介くんは貸し出し続行のようで、ジャージ登校。他の運動部の子もジャージでいるから、別に浮いたりせず普通の様子だった。
授業をこなして1日終わると、またひかちゃんが楽しそうにこっちを見てくるから、着替える為に部室へ移動する。
みんながいなくなった頃合いを図り、また校庭から裏門へ帰宅することにした。
「瑞樹から、なんか反応あった?」
「昨日は会ってないから、何もないよ。」
「じゃあ今日は?会うの?」
「タイミングが合えば…」
「何か動きがあったら、教えてね!」
人の恋話ほど楽しいものはないって感じで、ひかちゃんがワクワクしている。
「了解。」
でも今週は、みーちゃんは委員会のお仕事だから、どうなのかな。
教室で待ってた方が良かったかな。
繋いだひかちゃんの手をぶんぶんしながら、また交差点まで歩いて、お互いに別れた。

家に着いてから一旦お風呂に入って着替えて 、いつもの時間になるまで待機。
すると、置きっ放しにしていたスマホが鳴った。
みーちゃんからメッセージが来ている。
「帰宅。」
来いってことね。
まだパートから帰って来ていない母に、みーちゃん家に遊びに行くとメッセージを残して出かける。
みーちゃん家までは、歩いて1分かからないくらいの近さ。
すぐ着いて、呼び鈴を鳴らし、鍵を開けてもらう。
「お邪魔します。」
ドアから顔を出したみーちゃんは、特に変わった様子がないように見えた。
一緒に階段を上がり、みーちゃんの部屋に入る。
ベッドに並んで座ると、ふわっとみーちゃんのシャンプーの匂いがした。

「あーにゃ、脱いで。」

普段は、抱きしめて服の中に手を入れて、くすくす笑ったり、話したりしながら始めるのに。
今日のみーちゃんは、怖い顔をしていた。
「みーちゃん、どうしたの?」
「別に。いいから、脱いでよ。」
普段、全然怒らないみーちゃんからきつい目線で見られると、ちょっと怖くて、でもちょっとドキドキする。
笑った顔と楽しそうな顔ばっかりで、こんな表情見たことない。
不安になりながら、Tシャツを脱ぎ、下着姿になる。
「全部、取って。」
下着を脱ぎ、ブラのホックを外して腕から抜く。
上半身だけ裸になった。
無言の視線がチクチクと刺さる。
「みーちゃん…」
胸を隠そうと腕を組むと、みーちゃんの手がそれを阻む。手首を両手で掴まれて、ベッドに押し倒された。
目の前に迫るみーちゃんは、とても苦しそうで、抱きしめてあげたいと思った。
「どうしたの?」
キツく睨むと、食べるように胸の先端を口に含む。
「ひゃっ!」
強く吸われ、だんだん大きくなる敏感な部分に歯を立てられた。
「ひっ…みーちゃ…」
もう片方も同じようにされ、濡れた部分がスースーする。
赤く勃ち上がった乳首を見て、みーちゃんが笑った。
「俺が舐めただけでもうこんなにしてさ、淫乱になったね。」
「だって、みーちゃんがこうしたんじゃん。」
「そうだよね、俺のせいだよね。」
悲しそうに微笑むみーちゃんが、私の手首を掴んでいた手を離した。
すぐにその手で強く胸を揉み始める。
「やっ、痛い」
乳首をつねられ、大きく円を描くように捏ね回されると、じんわり気持ちよくなってきた。
「あっ…」
「痛くされて気持ちいいんだ」
「あんっ…みーちゃん…」
泣きそうな顔をしてる。
自由になった手を背中に回し、強く引きつけて抱きしめた。
「わっ…」
体勢を崩したみーちゃんが、私の上に落ちてきた。細くて小さくて軽い。そして、あったかい。
「みーちゃん、どうしたの?嫌なことがあったの?」
顔を上げたみーちゃんは、キッと睨んできた。
「あーにゃのせいだろ。」
「へ?」
ハッとした。
もしかして…もしかする?
2回帰っただけで、効果が出たの?
みーちゃん、嫉妬してる?
「俺は、あーにゃだけって言ったのに。」
私だけ?
「あーにゃにしか、こんなことしないのに。あーにゃは、他の男とこういうこと、できちゃうんだ。」
顔は怒っているのに、声は泣きそうだった。
途端、罪悪感が押し寄せてきた。
「違うよ、あれは男子じゃないの。ひかちゃんなの!」
「は?」
訝しげなみーちゃんは、全然納得していない。
「男子の制服着てたひかちゃんと、一緒に帰ってただけ。それだけ。」
「嘘だ。手を繋いで帰って、昨日はそいつと道端でキスしてたって、見てた奴に言われた。」
「は?いくらひかちゃんでも、キスなんてしないよ!」
もしかして…
「自転車を避けようとしてバランス崩した時のことかな?ひかちゃんに壁ドンされたけど。」
「確かに…壁ドンしてたって言ってた。」
唇を尖らせて不服そうにしているから、慌てて否定する。
「みーちゃんとキスしてないのに、他の誰かとするわけないじゃん!」
すると、みーちゃんの大きな目がパッと開いた。
「本当に、ひかりなの?」
「そうだよ。みーちゃんの気持ちを知りたくて…ひかちゃんが提案してくれたの。男子のふりして一緒に帰ろうって。」
「なんだよそれ…」
脱力したみーちゃんが、胸の上に顔を乗せる。
「だって…みーちゃんが1年生に告白されたの、隠してるんだもん。」
「あー…別に隠してた訳じゃない。言わなかっただけ。」
「なんで!」
みーちゃんの手が頬を挟んでくる。
「言ったら、こうやって揉めると思ったから。まぁ、言わない方が揉めたけど。」
「やましいことがないなら、言うべき。」
「そうだね、次からはそうする。」
「また告白されるの?!」
「そうじゃなくて、将来的に色々あるでしょ。」
将来…
みーちゃん、ずっと一緒にいてくれるつもりなんだ。
「みーちゃん、大好き。」
堪らず、気持ちが声に出てしまった。
みーちゃんが私の髪を優しく撫でて、顔が近づき、唇が触れ合う。
柔らかくて温かい。
「…俺も…あーにゃが好きで…大切だよ。」
嬉しくて涙が溢れる。それを、みーちゃんがペロッと猫みたいに舐めた。
「くすぐったい。」
額をくっつけあって、もう一度キスをする。
「さっきは、痛くしてごめん。もう、絶対にあんなことしない。」
「私もごめんね。みーちゃんは嘘つかないから、直接聞く勇気がなかったの。」
「俺、そんなに分かりにくい?」
「言葉にしてくれないと、分かんない。エスパーじゃないから。」
「確かに。じゃあ、これからは言うようにする。」
「私も、ちゃんと聞く。」
お互いを抱きしめて、誓い合う。
私は、みーちゃんにとって大切な子なんだって。
今、すごく幸せ。
「じゃあ、続きしよっか。」
「えっ」
そうだよね、みーちゃんだもん、そうなるよね。
私を見下ろすみーちゃんは、舌舐めずりをしていた。


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