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endless summer 2-2
しおりを挟む西の空を見れば、キラキラと輝く金星が見える。
うっとりと眺めていると、囁くような声で名前を呼ばれた。
「うらら」
少し離れたところにいたはずの紫翠が、隣に座っていた。
「なに?」
つられて囁き声で返すと、紫翠が私の髪を一房手に取った。指が長くて綺麗だなと眺めていると、するりと撫でられる。
こんなことをされたのは初めてだ。なぜだか、毛先まで神経が通っているみたいに、ゾクゾクした。
「うららの髪も、空のピンクになってる」
見上げた顔は、言葉と裏腹に真剣で、どうしたら良いか分からなかった。
紫翠の唇が少し震えている。
「…しーちゃんも、ピンクだよ」
いつもより、ずっと距離が近い。紫翠の瞳がピンクから紫色に変わっていくのを眺めていた。
なんて綺麗なんだろう、この男は。
一つも音を立ててはいけないような、静謐な美しさだった。じっと息を詰める。
「かわいい…」
静寂の中ぽろりと落ちた、吐息混じりの聞き慣れない言葉に、肌が粟立つ。
こんなに甘い声で囁かれて、溶けそうなほどじっと見つめられて、体の芯が熱く、胸が苦しい。
見つめ合うだけで、時が過ぎていく。
太陽は全て海に飲み込まれ、辺りは紫から藍に染まった。
「…好きだよ」
紫翠のため息と共に溢れた、涙が出そうなくらい甘い声。熱くて大きな手が、私の手を包んだ。
「しーちゃん…?」
「うららが好き、ずっと好きだった」
真っ黒な瞳が、キラキラと輝いている。大好きな星みたいだ。
ああ、そうか…
ずっとここにあったのか。
気づいてなかった、気づいてしまった。
「私も…」
しーちゃんのこと、好きなんだ。
ずっと、守られていた。
昼は明るくて気づかなくても、燦然と輝くこの星に。
途端、ぎゅうっと強く手を握られる。
「やべえ…すげー…嬉しい…かも」
ふにゃふにゃとはにかむように笑う紫翠が、途方もなく可愛く思えた。
いつものしーちゃんなのに、いつもの何倍も愛おしい。
「ねえ、バレちゃうよ」
握った手を全然離そうとしない紫翠に伝えてみても、逆に後ろからもたれかかられて、更にくっつかれた。
「見てねえよ、今から花火するんだし」
「あーだからあのバケツ」
紫翠の重みと体温を感じて、鼓動が高鳴る。こんなにくっついていて、バレないだろうか。すごく気恥ずかしい。本当に恥ずかしい。うわーって叫んで逃げ出したい衝動に駆られるくらいに。
「うーらら」
「なに?」
「かわいい」
くすくす耳元で笑うからくすぐったい。声が甘くて、甘くて、眩暈がしそうだ。
「恥ずかしいんだけど…」
「やだ、ずっと言いたかったから」
繋いだ手が離れて、そのままお腹の前で組まれて、抱きしめられた。
「うらら、かわいい、好き」
こんな紫翠、知らない。
「しーちゃん…!」
これ以上言われたら、気が狂ってしまいそうだ。
「こっち向いて」
ひょいっと体を持ち上げられ、紫翠と向かい合わせになる。
その瞬間、唇に柔らかくて温かいものが触れた。
全身が心臓になったようにドクドクと脈打ち、体温が上がっていく。
触れたものが離れて、もう一度重なった。
耳が熱い。指先が熱い。触れる唇が熱い。
私、ずっと、こうしたかったのかもしれない。そんな気持ちが、すっとお腹の奥に落ちて来た。
角度を変えて擦り合う唇は、少しずつ触れる時間が長くなっていく。無意識に背中に伸ばしていた手は、紫翠のシャツを掴んでいた。強く抱きしめられて、紫翠の体も熱くなっていくのが分かった。
キスを返そうと、暗闇の中を唇で探るが、どうしても頬に当たってしまう。
「そこじゃないでしょ」
くすくすと笑った紫翠に、唇を食べられた。
「口開けて」
素直に開けば、暗闇の中で瞳がいたずらに煌めいた。なんて綺麗なんだろう。この瞳は金星だ、そうに違いない。
「舌出して」
ふふっと笑って、私の舌を紫翠のそれがなぞる。柔らかくて、少しざらっとしていて、温かい。
「んぅ」
重なり合って、擦れ合って、紫翠の腕や胸が強く私を抱き、甘さと気持ち良さに頭の天辺が痺れる。脳が蕩けて、馬鹿になってしまいそうだ。
もっと、もっと…
紫翠の重みで少しずつ後ろに倒れ、支えについた手はひんやりとした夜の砂浜に埋まっていく。
遠くでパチパチと、夏の弾ける音が、聞こえた気がした。
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