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endless summer 3-2
しおりを挟む居酒屋では、驚くほどみんな普段通りだった。気を使ってくれていたのかもしれないけど、本当にいつも通りだったから安心した。
料理も美味しくて、宣言通りに萌波は一人でお刺身盛り合わせを食べていた。結果、食べきれなくて涼太が手伝っていた。
ホテルに戻ってくると、なぜかそのまま紫翠が部屋に着いて来た。
「え?しーちゃん?」
「朝までずっと一緒って言った」
ぷくぷくした唇を子どもみたいに尖らせた紫翠に、二人がけのソファに並んで座らされる。
「しーちゃんて、たまーに赤ちゃんみたい」
かわいくて頭を撫でると、そのまま肩に頭を乗せられた。どうしよう、すごくかわいい。あといい匂いする。居酒屋にいたはずなのに、解せぬ。
「ねえ、なんでさっきなの?」
「何が?」
「俺のこと好きって」
拗ねた声、これは根に持っている。いや、気にしないように聞かないようにしたけど、でもやっぱり気になってしかたない、が正解かもしれない。
柔らかな髪の毛を撫でながら、この可愛い男をあやしてみる。
「多分、ずっと好きだったんだけど。友情だと思ってたみたい」
あんなに長い時間、お互いを見つめ合うなんてこと、友達の間ではしない。でも、できてしまった。
「しーちゃんに好きって言われたら、あー私もそうだなーって…ずっと一緒にいたのって、そうだったのかもなぁって思ったの。本当だよ?」
私を見上げた紫翠は、眉尻が下がっている。まだ満足してなさそうだ。
「だって、私。ずっと前からしーちゃんのこと、かわいいって思ってたんだもん。好きな人だから、かわいいんでしょ?」
「いつ?いつから俺のことかわいいの?」
髪の毛から顔に下ろした手で、その柔らかな白い頬をふにふにとつまんでみる。
「んー…しーちゃんが私に、ふにゃーって笑いかけた時から」
「ふにゃーって何」
「え?自覚ない?」
「分かんない、うららといると大体笑ってるし」
かわいすぎて脳天カチ割れそう。
紫翠を撫で撫でしていると、部屋のインターホンが鳴った。
「ちょっとごめんね」
ドアを開けると、満面の笑みのひかると萌波がいた。手には、昼間拾い集めた貝殻などが詰まった袋を持っている。
そうだった、先約があった。
「紫翠、今から女子会だから出てって」
「そうそう、先約だから」
「は?意味わかんないんだけど」
「こっちはお前より先に約束してたんだよ」
押し問答をしていると、後ろからルイと涼太が顔を出した。
「紫翠やっぱここにいた、飲み直すからこい!」
無理やり連れて行かれた紫翠を見送ると、ひかると萌波はテーブルに拾ったものを並べていた。
「ひかるちゃんは分かるんだけど、もなぴは付き添い?」
「何言ってんの?!紫翠とどうなったか聞きにきたんじゃん」
「あっ…そういう」
一旦、大きいバッグから、ワイヤーやらペンチやらを取り出し、自分の拾った貝殻たちも並べた。待っている二人は嬉々として私を観ている。
「で?で?くっついたんだよね?」
「そりゃ、あんなあからさまに私らのこと追い返そうとしたんだから。彼氏じゃなかったら何様だって」
ひかるはシーグラスを見比べながら、ワイヤーをパチンと切った。
「なんか…しーちゃんずっと私のこと好きだったって…」
「そうだよ?!もうずっとよ?!こっちがもう諦めたら?って思うくらいに」
萌波は、持参した缶チューハイをがぶ飲みしている。
「てかさ、そんな好きならさっさと告白すれば良かったし、まどろっこしいことしなきゃいいんだよ」
どうやら、二人は私の知らない紫翠を見ていたようだ。
「何で二人は知ってるの?」
「事あるごとに散々聞かれた。大学時代は、今うららに彼氏はいないか?うららに好きなやつは?社会人になってからは、会社で言い寄られたりたりしてないか?って、自分で聞けよ」
初耳である。
「しーちゃんからそんな話、された事ないんだけど」
「言えないよー、紫翠はうららに拒絶されるのが一番嫌なんだもん。だったら友達のままでいいって」
「うららにだけ自己肯定感低いんだよね」
ワイヤーでシーグラスをぐるぐる巻きながら、ひかるは首を傾げた。
「何でオッケーしたの?」
私はゆっくりと息を吐きながら、小さなピンク色の貝殻を指で転がした。
「しーちゃんの瞳がね、お星様みたいだったの」
二人はじっと黙って続きを待っている。
「夕日を見てる時、すごく距離が近くて…普段、まじまじと相手の瞳を見ることなんてないじゃん。しーちゃん、真剣な顔してて、すごく綺麗で、キラキラしてた」
もう一度ゆっくり呼吸をする。
「私って、この人にずっと大切にされてたんだって気づいたの」
真摯に、誠実に。
「そしたら、あぁ、私もしーちゃんのこと好きだったんだって腑に落ちて、しーちゃんがいつもよりもっと可愛くて可愛くて大好きって思っちゃった」
恥ずかしくて、へへっと笑うと、萌波が不思議そうにした。
「昼間のさ、紫翠が女子に声かけられてたの、うらら何とも思ってなかったよね?なんで?」
「えっ?えー…なんでだろ」
「もな、そんなのアレだよ、私が紫翠の一番っていう余裕だよ。だって、いつものしーちゃんだなって返し、本妻じゃなきゃ言えないよ?」
なるほど、そういう解釈もあるのか…
「ちょっとその辺は自分でも分かんないけど、しーちゃんがこっち向いて、いつものふにゃふにゃの可愛い顔してたから、そう思っただけだよ」
「ふにゃふにゃの可愛い顔とは」
「うらら見てる時の顔でしょ」
「あー…あの締まりのない」
あんなに可愛いのに、そんなことを言われているなんて。そう思ったけれど、これが好きということなのかもしれない。
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