【R18】富豪鳥人が私を逃してくれません!

はこスミレ

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2・勤務先は大企業

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一体、なんだったんだ。
イライラを抑えて自席に戻ると、猪上先輩が慌てて声を掛けてくる。
「るんちゃん!大丈夫?!」
「はい、生きてます。」
何故か私より荒ぶっていて、そういえば猪上先輩って猪の保護種の血を受け継いでいるんだったなぁ、と思い出す。

保護種は、遺伝子の突然変異だ。
産まれた時は人間の形をしているけれど、ある日突然、異形になる。
それは赤ちゃんの頃に起こるので、本人達にその時の記憶はないらしい。
私は人間のまま育ったけれど、一応何かの保護種の血を受け継いでいる。
保護種の歴史は長く、昔の話なので色々割愛するが、争いが起きてなんやかんやあり、政府が保護種と認定して今の比較的平和な世の中がある。
そして私が勤めているのは、そんな保護種が立ち上げた保護種の為の企業である。
多種多様な保護種向けの衣服、雑貨、住居、などを自社で取り扱う卸し業の他、実店舗も経営していたりする。
最近は、海外にも進出するようになってきた。
でも私は本社勤めなだけの、しがない会社員である。


「るんちゃん!聞いてる?!」
猪上先輩が心配そうに顔を覗き込む。
「あ、ぼーっとしてました。」
齢28ながら、ぷりぷりと感情豊かに話してくる猪上先輩は、わりと可愛い。
「もう!だからね、専務に呼ばれて何されたの?!」
「は?誰のことですか?」
ほとんど聞いてなかったから、何を言ってるんだかよく分からない。
「鷹司(たかつかさ)専務に呼ばれて、専務室についてったんでしょ?!」
「えっ、あの人専務なんですか?」
目をまん丸に見開いて愕然としている先輩を見て、結構やばい状況だったんだな、と認識した。
「るんちゃん…何で自分の会社の専務を知らないのよう。知らないでついてったの?」
「はぁ、まぁ。やたら怖かったんで。断ったらやばそうだなって。」
「それはそれで正解だけど…。」
やっぱり偉い人だった。良かった、キレたりしないで。
私って大人の対応したなぁ、とほっとしていたら、先輩がずいと顔を近づけてきた。
「で、何してきたの?!専務室で!今このフロアは、みんなるんちゃんの動向が気になって仕事にならないのよ!」
周りを見渡すと、みんながそわそわとこっちを気にしている。
いや、仕事して!
「ただ怪我を心配されて、救急セットを貸してくれただけです。特に何もありませんでした。」
プライベートなことは、社内に言うことではない。あれは、誰かに聞かれたい話ではない。
「ええー!それはそれで、何かあるんじゃないの?!って勘ぐりたくなる!」
「まじで、そのままなので。何にもないです。」
猪上先輩はゴシップ好きだからな。
迂闊に話をしたら最後、どこまでも広がる。
「そうなのー?つまんないの。」
ぷっと頬を膨らませて席に戻っていく。
そわそわしていたフロアも、つまらない回答に落ち着いた。
面倒くさい。
もし万が一何かあったとしても、絶対に言わない。あんな腹の立つ奴と、どうこうなることも絶対にない。
思い出すとムカムカしてくるから、もう忘れる。
さあ、仕事仕事。
私は大人だから、感情はさっとしまって冷静に仕事をするのだ。

この会社の三分の一くらいは、保護種が在籍している。
後の三分の一は保護種が家系にいる私や猪上先輩のようなタイプ、最後の三分の一は特に何も突然変異して来なかったタイプ。
私の住む街は、保護種が多いせいか、保護種向けの企業がたくさんある。
学校も、会社も、差別なく。保護種がいるのが当然の社会だと教えられて過ごしてきた。
でも、この国の外は違うらしい。
外に出たことがないから知らないけれど、悲しいなって思う。
みんな中身は同じだよ。

定時のチャイムが鳴る。
帰りにスーパーで買い物をして、そういえば弟に頼まれてたクリーニングの引き取りにも行かなくちゃ。
あれ…あとは何か忘れているような。思い出せない。
周りに挨拶をして退社し、スーパーで夕飯の食材と日用品を買い、クリーニングでスーツを引き取って、家に着いたところで気が付いた。
何故なら、庭に車が停まっていたから。
「あー、波琉(なみる)と大河が来るんだった。」
夕飯の食材、足りるだろうか。もっとお肉を買ってくれば良かった。
家に入ると、リビングで自分の家のようにくつろぐ、虎達がいた。
「おかえりー、楽!」
「楽、おっす。」
二人はゴロゴロしながらテレビを見ている。
「ただいま。二人が来るの忘れてたわ、ごめん。」
「そうだと思って、手土産に食材持ってきたよ!」
テーブルには、これでもかというほどの野菜と肉が置いてあった。
「ありがとう!助かるー!」
「肉はA4ランクにしといた。A5だと油多いからワンランク低い方が好き。」
「俺は食えれば何でもいい。」
「わー、ありがとう!高いお肉なんて久しぶりだよ!」
「たくさんお食べなさいよ。」
ふかふかの手を振り振りしながら、波琉がにこやかに笑った。
「そういえば、嵐(らん)は?」
「あいつ、忘れ物したとか言って、大学に戻ってったよ。もうすぐ帰ってくると思うけど。」
大河が尻尾をパタパタさせて答える。
「あーあ、嵐らしいわ。」
弟の嵐は忘れ物が多い。私も忘れっぽいので、姉弟してポンコツと言われる。
「楽ママは上で寝てるって。」
「そっか。」
私の母は体調を崩しやすい。最近は良くなって来たけれど、季節の変わり目や疲れが溜まると、やっぱり辛そうだ。
後でご飯を持って行こう。
「波琉と大河は、何が食べたい?」
「楽のご飯なら何でもいい!あ、時短でいいよ!簡単に作れるやつ。焼くだけでもいい。」
「俺は、回鍋肉と青椒肉絲。」
「あー!大河やるじゃん、いいね!」
「じゃあ、すぐ作るね!」
野菜を切ってそれぞれ肉を準備して、どんどん作っていく。
大河がやってきて、食器を出したり、使い終わった器具を洗ってくれる。
「ありがとう、助かる。」
「ん。」
ビニール手袋をして、もくもくと水を流している。
向こうから波琉がからかうように笑う。
「下心よ、楽!」
「うるさい波琉、黙れ。」
「波琉、大河がそんなことあるわけないじゃん。お皿洗ってくれた分、ご飯大盛りにするからね。」
「お、おう。」
一瞬、大河の動きが止まったけど、すぐに水道を止めてお皿を拭き始めた。
波琉はまだケラケラ笑っていた。

波琉と大河は、双子の虎の保護種。
もふもふ、ふかふかの毛並みに、強い虎顔。
波琉は優しげな瞳、体は毛に覆われているけど、スタイルが良くてボンキュッボンて感じ。セクシーで自由奔放。
大河は貫禄があって、悠然とした雰囲気。ガタイも良くて、毛に覆われてても筋肉でムキムキなのが分かる。鍛えていらっしゃるんでしょうな。
二人とは元々住んでいた家が近くて、子どもの頃からずっと仲良くしている。
大人になった今も、こうしてご飯を食べたり、遊びに行ったりしているくらいだ。
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