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その3

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 渡り廊下を通り、反対側の研究棟の一室からベランダに出て、螺旋階段を降りて行く。
 さっきまでいた棟からは死角になっている為、小鳥のようだった千歳の心臓は、大型犬くらいまで戻って来ていた。
「うちの下宿はね、親が趣味でやってるからさ、月3万で格安なんだ。なのに今は1人しかいないんだよ、ウケるよね。」
「へー!そんな安いのに勿体無いですね。でも西くん家が下宿屋さんなんて、初めて聞きました。」
「うん、言ってないからね!だって、うちのサークルのバカ達が来たら困るよ。溜まり場にされたくないでしょ!」
 ケラケラ笑って毒を吐く。普段の西と変わらない態度が、千歳を日常へ戻してくれる。
「あれ?西くんって遊びに来てるだけじゃないんですか。」
「ああ一応ね、籍だけある。活動はしてない。」
 そうなのか、と千歳は頷いた。
「ま、そういうことで、サークルのみんなには僕の実家ってことは秘密にしておいて。」
「ん?西くんは住んでないんですか。」
 親指を立てて楽しそうに頷く。
「僕は研究室にいる時間の方が長いよ!我が家は研究室さ!」
 確かにそうだ。千歳は納得した。
「学校と下宿は徒歩10分ってとこかな。駅とは反対側だから、少し距離があるけどバスも出てるし大丈夫だよ。」
「十分です、助かります。」
「朝と夜は食事が出るんだけど、自炊も出来るし、食べない時は連絡すれば良いから。あとは、そうだなあ…あ、風呂は順番で入ってもらう感じかな。」
「もう、全然問題ないです。ありがたや…」
 ネカフェでの生活を考えたら、大変恵まれている。学食カレー生活ともおさらばだ。
 大学の裏門を抜け、車通りの多い大通りから脇道に入ると、途中途中にお店の並ぶ昔ながらの商店街になった。
「何か聞きたいことある?」
「えっと…あ、住んでる人ってどんな方ですか。」
 西の目がパチパチと瞬きをしてから、少し首を捻った。
「変わり者…かな?あ、でも外見は可愛いよ。いつもフリフリの服着てるし、似合ってる。」
「女の子ですか!良かったー!」
「仲良くなれると良いね。」
「はい!」
 変わり者なら周りにいくらでもいる。
 千歳はほっとして、やっと人並みの心臓まで戻って来ることが出来た。
 商店街の一角を曲がり、住宅街に入って行く。味のある古い家から段々と、大きな戸建や小洒落たマンションへと変わってきた。こんな所に下宿屋があるんだろうか。
「なんか…雰囲気変わりますね。」
「そうだね、この辺は新築も多いから。あ、ここだよ。」
 西が止まったのは、ちょっとした豪邸だった。門にはインターフォンがついており、警備会社のステッカーが貼ってある。
「鍵があれば、インターフォンは使わなくても入れるよ。」
 西は何もしていないのに、門が自動で開き始めた。
「ひえっ…なんですか、これは…」
「実家へようこそ!」
 朗らかに言い放ち、西は門の中へと歩みを進めて行った。

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