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その11

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「じゃあ、報酬は体で。」
「え?!」
突拍子も無い言葉に、千歳と美月は仰天した。
「何?どういうこと?!」
千歳よりも美月の方がテンパっている。
「明日からよろしく。」
「あっ、明日?!明日?!」
「一気にドカンより、分割の方が楽でしょ。」
それはそうかもしれないが、一体何をさせられるというのだろう。
「お、お手柔らかにお願いします…」
「ん、じゃあ私、寝るから。」
まだ陽も落ちていないというのに、ふあと欠伸をして部屋に戻って行った。
「ちい、さえちゃん先生ってビアンさんなの?さえちゃん先生と、ちゅーしたりえっちしたり、できる??」
動揺を隠せない美月は、顔を赤くしたり青くしたりしている。
「いやいやいや、そういうんじゃないんじゃないかな。ほら、肉体労働的な。分かんないけど。」
「えっちだって肉体労働だよ!どうしよう、めくるめく百合の世界が広がっちゃうよー!」
どうやら、美月はそっちの話がお好みのようだ。
それはそうかもしれない。何せ、文芸サークルで小説を書いているのだから。
「もしそういうことになったら、こっそり教えてね!誰にも分からないように、小説のネタにするから!」
「でしょうね!そうだと思ってた!」
しかし、あの気持ち悪いストーキング男と比べたら、見目麗しいさえちゃん先生の方が良いかもしれない。
うっかりピンクの薄い唇と触れ合うことを想像してしまい、慌てて搔き消した。


翌日、3限からの講義だった為、千歳はリビングで遅めの朝食を摂っていた。
由美子が作る料理はどれも優しい家庭の味で、食べる度にほっとする。
「千歳、食べ終わったら部屋に来て。」
階段の上から声をかけられ、ビクンと体が震えた。
「は、はーい!」
昨日の美月の言葉に、少なからず動揺している。
ーど、どうしよう。昼間から、えっちなことを求められたら…!キスくらいなら、できないことはないから、それくらいなら…。胸が大きい方が良いって言ってたし、もしかしたら触られたりするのかな。
想像で勝手に顔が熱くなる。
ドキドキしながら食器を片付け、歯を磨いてから部屋に向かった。
「失礼しまーす。」
「ん、どうぞ。」
ドアの内側は、思ったよりもシンプルだった。
千歳の部屋と比べて少し広めの作り、ベッドとクローゼット、そして機能的なデスクがあるだけだ。
さえちゃん先生は、座り心地の良さそうな大きい椅子に座っていた。
「好きなとこ座って。」
「はっ…はい。」
どうしたら良いか分からず、ベッドの端に腰を掛けるだけにした。
「で、報酬のことなんだけど。」
ーきた!どうしよう、服を脱いでって言われたら!下着はまだマシなやつ付けてて良かった。
「この領収書の整理をして欲しくて。」
「…へ?」
渡されたのは、ファイルに詰め込まれた大量のレシートや領収書だった。
「いつも貯めちゃうから、助かる。」
「は、はい。」
動揺していたのが、バカみたいで恥ずかしくなってきた。顔が熱い。
「もしかして、エッチなこと要求されると思った?」
ビクッとして頭を上げると、さえちゃん先生はニヤリと悪い顔をしていた。
可愛らしい造形でそんな表情をされると、ギャップでときめいてしまう。
「そ、そんなこと…!」
「別に、千歳がしてほしいなら、するよ?」
椅子から立ち上がり、千歳の太もも両脇に手をついて、グッと体を近づけてきた。

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