王子はうさぎを捕まえる

ruki

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オレは一瞬迷ったけど、思い切って上司の元に行った。

「課長、急で申し訳ないのですが、明日会社を休みます」

突然目の前に来て急な休みを告げる礼儀を知らない新入社員に、課長は器用に片眉を上げた。

「理由は?」

「プライベートを整理してきます」

本当は逃げた恋人を追いかけに行くのだけど、一応間違ってはない、と思う。

「ふん、どうせいても何の役にも立たないしな。きっちり整理してこい」

そう言うと課長はすぐに仕事に戻った。オレはそんな課長に頭を下げる。

「ありがとうございます」

オレは自分のデスクに戻り、役に立たないまでも今できることを精一杯した。

次の日、オレはあの子の撮影が行われているスタジオの前で待っていた。
実は撮影の時間までは分からなかったので朝から待っていたんだけど、よくよく考えら平日なんだから、学生であるあの子の撮影がそんなに早いわけが無い。モデルと言っても読者モデルは一般の子だから、学業が優先されるはずだ。それに途中で気付いたものの、絶対に逃したくないという思いから、オレはそこを動けないでいた。

うさぎちゃん。

小学生の頃、一度だけ会った真っ白いうさぎの子を、オレはそう呼んでいた。

父親の海外転勤が決まって、それが嫌で家出をした日、オレが隠れていたキリンの滑り台にその子は突然現れた。

雪がちらつく寒い日の夕方。それまで騒がしかった公園はしんと静まり返って、闇に包まれようとしていた。
実は祖母の家に家出してきたオレにはそこに土地勘はなく、だけど祖母の家に帰ることも出来ずにオレはそこにいるしか無かった。

だんだん暗くなって本当は不安で、怖くて堪らなかった。

引越しが嫌で優しい祖母の家に家出してきたものの、祖母が両親に電話をしているのを聞いてしまって、そこからも飛び出してきてしまったオレは、実はなんにも持っていなかった。荷物は全て祖母の家に置いてきてしまったからだ。

日が落ちてどんどん気温が下がる中、オレはキリンの滑り台の中で身体を丸めて座り込んでいた。すると小さな足音が静まり返った暗闇から徐々に近づいて来た。オレは怖くて音のする方から目が離せないでいると、顔を出したのは小さな白いうさぎだった。

なにか得体の知れない怖いものが来ると思っていたオレは、かわいらしいその姿にひと目で心を奪われてしまった。

もっと近くで見たい。そして触れたい。

だから入口からこちらを見るだけで一向に入ってこないその子を隣に促すと、その子はやっとオレの隣に座ってくれた。
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